記憶に残る風景。
20代の頃、片岡義男の小説をよく読んでいました。
セリフや細かな情景の描写が独特で、表紙の写真のせいもあってか、物語の舞台は日本でも何故だか外国の話を読んでいる気がしました。
そんな片岡義男の小説の中に今でも覚えている一場面があります。
タイトルやストーリーは忘れてしまいましたが、おそらくこんなような描写だったような気がします。
僕は駅前のロータリーに車を入れてバス停の手前の歩道わきに車をとめた。
雨は相変わらず車のフロントガラスを打ち続けている。
ほんの一瞬こちらを向いて小さく微笑んでから、彼女は車のドアを開けて雨の中に出ていった。
改札に向かう人の流れの中に傘もささずに歩く彼女の姿がフロントガラス越しに見えた。
何かを決意したような歩幅の広い美しい歩き方だった。
やがて僕はワイパーを止めた。
フロントガラスはみるみるうちに雨粒におおわれていく。
彼女の姿は次第に雨粒のモザイクがかかって、やがてその輪郭もわからなくなってしまった。
車のフロントガラス越しに見えていた彼女の姿が、ワイパーを止めると雨粒のモザイク模様になって見えなくなっていく様子が目に浮かぶようですね。
僕もこんな素敵な描写が出来るようになりたいなぁ。
久しぶりに片岡義男を読み返してみよう。
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