コ、コ!
ちょっとした所用で、東京に来ていた。
その日は全く予定がなく、評判のいい、美味しいパスタ屋さんにでも行こうかと、もう少しで歩いて、そこへ向かうところだった。
そのパスタ屋さん列ができるくらい美味しいらしい。11:30から開店だから、10分前には着くようにしようか、と話し合っていた。
まだ、出発までは時間があったので、何気に、時間潰しにFacebookを見ていると、妙に引っかかる写真があった。
それが二荒山神社から御神体の山に向かう登山道の1合目からの遥拝所だった。
伴侶も隣からそれを覗き込んで、前からその神社に行ってみたいと思っていた、という。
グーグルマップで、検索すると片道2時間半。休憩などもいれて、往復6時間もあれば、帰ってこれる。夜は食事の約束があったが、余裕で帰ってこれる。
昼間は、何にも用がないから、
「行こうか?」
「行こう!」
となった。
そうと決めれば、ランチはなし、車中でなんかあるもの食べながら、出発した。
旅の、途中のひらめきは、なんか導かれていることが多い。今回もそうかもしれない。
首都高速から東北自動車道にのって、140キロくらいで、飛ぶように突っ走っていく。宇都宮ICから日光宇都宮道路に入り、清滝バイパスを通って、二荒山に着いた。トイレ休憩もしつつ、13:30には、神社の駐車場に着いた。
「着いたよ」伴侶を起こした。
伴侶はずっと、寝ていたので、知らなかったが、二荒山に向かう途中の道は、ヘアピンカーブの連続だった。私は、湧き立つ血をおさられず、かなりのスピードで、ノロノロ走る車たちを7.8台抜いて、山道を駆け抜けた。
なんだかワクワクして、怖さなんて、微塵もなかった。全身の細胞が喜んでいる感覚だった。
もし、伴侶が起きたら、「スピード、落として!」と叫んだことだろう。
神社の社殿は、修復工事中だった。少し雨も降っていたので、観光地だけど、人はあまりいなかった。
ご祭神は、大己貴命(おおなむちのみこと)(=大国主)、
田心姫命(たごりひめのみこと)
味耜高彦根命(あじすきたかひこねのみこと)
であった。
どおりで、伴侶は前から行きたいと思っていたわけだ。大国主命の神社巡りは、私たちの趣味というか、人生のテーマになっていた。
社殿で軽く挨拶をして、Facebookの写真があった、登山道の一合目を目指す。
「登山者は、登録を!」と社務所前に名前を書く長机があったので、
「一合目まで行くだけでも必要ですか?」と聞いてみた。
不要とのことだった。往復20分くらいということだった。最初から山頂にいくつもりはなかったが、調べると往復6,7時間もかかるようだ。
石の階段を少し上ると、登山口の山門があった。
賽銭箱と立派な赤い門があった。二人連れの男女が先にお参りをしていたが、その先には行かないようだった。
今日は、幸い雨だ。激しい雨ではないが、ぽつぽつ降っている。
この先、人はあまり、いないだろう。
よしよし。これなら、神事がしやすい。
人手の多い観光地なんかで神事をする場合は、早朝早くか、もしくは雨で人が少ない日がいい。昼過ぎだったが、「幸い」の雨だった。
一礼して、山門をくぐる。
10分もしないうちに一合目の遥拝所が見えた。ここなら、神事をしても雨に濡れない。賽銭を上げて、御神酒をお供えして、大祓祝詞を二人で唱えていると、山道から降ってくる一連の3.4人の登山者たちが視界に入ったが、構わず祝詞を奏上し続けた。
祝詞を終える頃には、その登山者たちは、もう下に降りて行っていた。
剣払いの作法を始めると、さぁー、と一陣の風が、急に真正面から吹きだした。それも悪い感じではなく、爽やかな、涼気を運んできてくれるような風だった。
一連の作法の途中に、遥拝所の真正面の少し離れた上のほうに、お猿さんが、現れ、作法が終わると、
「コ、コ!」
とまるで、終わりの合図のように声を上げてくれた。
なんか喜んでいるような声だった。
まるで、神の使いのようだ。
ここ!
「ここに来て正解!」と神の使いが、私たちに合図を送ったのだろうか・・・そんな素敵な一日だった。