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うつ病になるまで。其のニ

前回からの続き。1988年頃。

 配属先で私を待っていたのは、いつも顰めっ面のコーナー長だった。
同じフロアの、デパートの人たちやお客様には愛想の良い顔を見せているものの、私とは絶対目も合わさずに、ひとことふたことの指示以外は全く会話がなかった。
こんな頑固な人、見たことがない。
そのレコード売り場、社員3人、アルバイト2人で回していた。コーナー長、先輩の男性社員、私、アルバイトの女の子2人。
お昼はそのデパートの社食で取るのだけど、だいたい1人で社食に行ってた。
 コソコソ聞こえて来るのは、
「ここは◯◯の福利厚生の食堂なのに部外者が...」云々。
居づらい。よく見ると各売り場のアルバイトも多勢利用しているけれど、固まって小さくなっていた。制服を着ていないと、なんだか差別される。気軽に制服さんに話しかけたら、横を向いてツンとされる。私の思い過ごし?
かといって、元の家電量販店の社食にも居づらい。

 そのデパートでもフロアの長がいるので、初日に挨拶に行くようにとのことでお伺いして来た。その人は良い感じで普通に接してくれるけれど、いつもそばで話せるわけではない。自分の上司でもない。そのフロアにはたくさんの販売員が働いていて、お客様もごった返していたけれど、ひとりポツネンとしている気分になる。
私が招いた孤独?
その頃、ワンルームの賃貸マンションに引っ越した。新築だったので部屋は綺麗で嬉しかったけれど、引っ越しが終わった夜にひとりでワンワン泣いた。
引っ越しのたびになぜだか泣いてしまう。怖かったからだと思う。
まったくのひとり。年が離れた良いおじさんとのお付き合いも終わる。
ずっと目標にしてた、白い壁紙のワンルームに住むことが達成出来た。
生活はカツカツだったけれど、持ってるクレジットカードは、使っても一万円までと決めてた。買えないものは諦めた。ブランドものなんて最初から持つ気もなかった。

 職場のレコード売り場は、ほぼCDに置き換えられている頃で、CDと音楽カセットテープを並べていた。サイズ的に小さいものばかりで、万引きの被害が多発した。
什器を狭い売り場に並べていたので死角も多かった。
レジにひとり、売り場に2人、アルバイトの女の子が入ると4人。
コーナー長が食事に行って、アルバイト2人が来るまでの時間、私がレジに入る時間に多発した。私は万引き犯になめられていた。万引きした未開封のCDをセコハンのお店で買い取ってもらい、現金を得るのだろう。ゴッソリと商品棚からCDが消える。しかも私がレジに入るのを狙ってのこと。コーナー長は私を責めることはしなかったけれど、辛かった。
警察には被害届を出した。

 先輩の男性社員との話で、コーナー長の事を聞くところによると、お酒が好きで、私生活も孤独なようだった。この人とは腹を割って話すことはなかった。
ゆっくりと自分が削られていく。痛い。
皮膚を破って神経の糸が飛び出しているかのように、人とすれ違うのが怖くて痛みを感じた。今で言うなら進撃の巨人みたいに?この巨人を見るだけで今でも身体がゾワゾワして無理。

 結局は、店舗を移動しても同じような状況に陥る。
仕事はより辛いものになっていく。かといって元の店舗に戻りたいとも思えなかった。
私は、コーナー長がバリアを張り巡らせて籠っていることに不満もあったけれど、私も同じようなもの。この人も痛みを感じているのかもしれない。敢えて踏み込もうとも思わずにやり過ごした。

 前回に登場した同期のMとはなんとか付き合いがあった。
ちょくちょく映画に誘われて観に行った。Mの父は映画会社の株主招待券を持っていたのでMが観たい映画に付き合ったりした。帰りは車で送ってくれた。
Mはいつも楽しそう。愚痴を言うこともあるけれど基本、あひる口のあどけない可愛い表情で、怒っているように見えない。ごめんねM。
私はMが羨ましかった。

 恋愛については、もう頭がぐるぐるしていた。
寂しさからか、誘われるたびに食事やお茶などしていた。それに奢ってもらえるのは正直助かる。その分危険なことも多々起こった。
食事して奢ってもらったら、それはもう付き合っていることになって、慌てて逃げたりして、ふわふわしていた。こんなことしていたらロクな死に方しないかもしれないなぁと、電車のホームでゆらゆらしながら思ったりもする。
胃が痛むけれど、まともに通院もせずにいたらペラペラな体つきになってた。
小さくてウエストが入らなかったスカートがピッタリになった。

ふわふわ、ゆらゆら、ペラペラ、まるでそんな生き方。

どうして私はこの世に生まれて来たんだろうとふと思う。何のために生きて、どうやって死んで行くのだろうか。まず、明日はまともに働けるだろうか、いつも不安なのに、誰にも言えなかった。そんなことも考えずにガツガツ生きていけるほどは強くなかったみたい。
部屋の白い壁に、TMNETWORKのポスターを貼っていた。

TM NETWORK

助けて。しんどい。

音楽は生活の一部になっていた。聴いている時は心がワクワクした。
まだ頑張れる。きっと。

この曲は突き刺さるような曲。

悲しみに沈む時にも 強く深く 君のレジスタンス
抱きしめた心の地図は 明日を探す 君のレジスタンス

足下に流れる川に don’t get down don’t let down 流されないで
自分らしく生きることさ don’t give up don’t leave out 走り続ける

続く。

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