【中小企業向け/知財で損をしないポイント】<vol.7>デザイナーとの著作権の契約は大事です
「知財の診断士®」がお届けする、中小企業に知っておいてほしい知財ポイント、第7回目のテーマは、「デザイナーとの著作権に係る契約の重要性」についてです。
今回も、中小企業診断士試験の一次試験「経営法務」で出題された設問の事例を参照して、説明させて頂きます。診断士の先生方にもご参考頂ければと思います。
ポイント
◆デザインを作成してもらったデザイナーに報酬を支払っただけでは、「著作権」は譲渡されません。何に対して報酬を支払ってるのかを明確にする契約が必要です。
◆もう一つの権利である「著作者人格権」は契約によっても譲渡されません。将来のトラブルを回避するよう、権利不行使の契約を結ぶことが推奨されます。
◆「著作権」や「著作者人格権」を適切に処理しておかないと、後々トラブルを抱えるリスクがあります。
著作権と所有権の違い
会社のロゴマークやキャラクター、あるいは商品を彩るデザインなど(以下、「デザイン」とします)の制作を外部のデザイナーに依頼される場合があるかと思います。
デザイナーが作成したデザインが著作物性を有する著作物である場合、その著作権は、著作物を創作したデザイナーが有します。またデザイン画そのものは有体物であって、その所有権はデザイナーが有します。
ここで「所有権」とは、「有体物」について自由に使用、処分等できる権利であり、「著作権」とは、当該著作物について他社が複製等することを禁止できるという、「無体物」に対する権利です。このようにデザインを作成した際には、2つの異なる権利が発生しています。
ちなみに「著作権」という個別の権利はなく、下記のように「複製権」「上映権」「公衆送信権」などの権利(支分権)を総称するものです。
売買契約において移動する権利は?
通常、デザイナーにデザインの制作を依頼し、デザイン画(及び電子データー)が納品され、その対価として制作料を支払われると思います。この時、多くの方が「お金を支払ったのだから、当然デザインだけでなく、権利(著作権)も自分のものになっている」と考えておられます。また意外にも、そのように理解しているデザイナーさんも結構いらっしゃいます。
しかしながら、デザインにお金を支払ったからといって、デザインの「著作権」まで移せているかははっきりしません。「所有権」の譲渡と同時に「著作権」も譲渡させるのであれば、その旨契約を締結するなどして、何に対して対価を支払ったのかをはっきりさせておくべきです。
これに関する問題が平成29年度の中小企業診断士試験において問われていますので、これを例に説明させて頂きます。
本設問では、漫画家の乙先生に、企業キャラクターの制作を依頼したところ、中小企業診断士から著作権に関する指摘を受けています。甲氏は、報酬を支払うことで著作権を得られると思っていたのですが、中小企業診断士から二つの権利について処理が必要と助言を受けています。
設問では、権利の譲渡ができるか(A)、できないか(B)を論点に、それぞれの権利を選択させることとしています(正解は「ア」のA:著作権、B:著作者人格権です)。
この問題は著作権を勉強する上で基本的な内容なので、正解率は高いかと思いますが、実務上は、著作権はデザイナーから譲渡されるよう処理しておくこと、及び著作者人格権は譲渡とは別の処理が必要であることを認識しておくべき、と言えます。
「著作権」の譲渡契約の必要性
まず赤字Aで示されているとおり、「著作権」は、契約により譲り受けることができます(著作権法第61条第1項)。契約は口約束でも成立しますが、言った言わないの問題が生じますので、デザインを制作依頼する際に「著作権譲渡契約」取り交わしておくべきです。単にデザインに対する対価を支払い、デザイン画やデザインデーターを受け取っただけでは、著作権を譲渡したとは見なされないため、著作権はデザイナーに残ります。
著作権が自分にない場合、例えばそのデザインを複製して使用することは自由にできません(複製権の侵害)。あるいは会社のホームページに掲載しインターネットで発信することもできません(公衆送信権の侵害)。デザイナーとの関係性が良好なままであれば大きな問題にはなりませんが、関係が悪化した場合などリスクを抱えることになります。またデザイン(キャラクター)が有名になってくると、思わぬところでデザイナーから権利行使を受ける可能性があります。
なお著作権の譲渡に関しては、「翻訳権、翻案権等(著作権法第27条)及び二次的著作物の利用権(著作権法第28条)の譲渡については契約書に特掲しておくこと(ちゃんと契約書に書いておくこと)」という、”有名な”決まり事もあります(著作権法第61条第2項)。この点は、どの契約書のひな型にも反映されていますので、ご参考までです。
「著作者人格権」に係る不行使条項の設定
デザインを作成したデザイナーには、「著作権」が発生することは上述の通りですが、青字Bのとおり「著作者人格権」も発生しています。「著作権」が著作物の複製を禁止するなど、著作者の経済的利益を守る権利であるのに対し、「著作者人格権」は著作者(デザイナー)の名誉や感情を守る権利であり、主に「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」があります。
ポイントは、「著作者人格権」は、著作者の名誉や感情を守るために認められた権利であるため、著作者の一身に専属し、譲渡することができないという点です(著作権法第59条)。つまり「著作権」を譲渡する契約書を締結しても、「著作者人格権」は譲渡できないということです。
「著作者人格権」のうち、実務上一番問題になりやすのが、著作物の内容や題号を著作者の意に反して改変されないという「同一性保持権」です。つまり著作者から譲渡されたデザインは原則そのまま使用しなければならず(同一性の保持)、デザインを少し変更する場合、著作者の意に反した改変になっていないか、都度確認する必要が出てきます。
実務上はそのような煩雑な手続きを避けるため、著作者は著作者人格権を行使しないという、不行使特約を譲渡契約において設ける場合が一般的です。
条文例
乙(デザイナー)は、甲(X株式会社)に対し、本件著作物に関する著作者人格権を行使しない。
著作者人格権の不行使特約が有効か否かについては、著作権法上の問題があるとの意見もあるようですが、有効性を認めている裁判例も存在しており(東京地裁平成13年7月2日判決宇宙戦艦ヤマト事件)、実務上は記載しておくことが推奨されます。
「著作者人格権」は著作者の名誉を守ることが重要であり、相互の信頼関係に依存する部分も大きいと考えられます。無用な争いを起こさないためには、デザイナーとの良好な信頼関係を長く維持しておくこと、デザインに関するコミュニケーションを図っておくことも重要です。
おわりに
本記事は、デザイン制作を依頼する企業側の立場からまとめていますが、デザイナーの立場に立つと事情が変わってくることもあります。例えばデザインの著作権はデザイナーが持っていた方が好ましい場合もあり得ますし、著作者人格権の不行使を現時点で取り決めることに抵抗を感じる場合もあり得るかと思います。
契約は双方の合意事項であり、正解があるわけではありません。ただひな型を用意して署名・捺印すれば済むものではなく、個々の事情に応じた内容にする必要があります。専門家に相談しながら、双方納得いくよう契約を結ぶことが重要です。
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