【中小企業向け/知財で損をしないポイント】<vol.8>知的財産権を侵害した場合の罰則
「知財の診断士®」がお届けする、中小企業に知っておいてほしい知財ポイント、第8回目のテーマは、「知的財産権を侵害した場合の罰則は意外と厳しい!?」についてです。
知的財産権を侵害すると、どんな罰則があるのか、法律面と実務面から説明していきます。本稿では、全ての企業にとって身近な知的財産権である「商標権」を侵害した場合を例に説明しますが、原則その他の権利(特許権、実用新案権、意匠権、著作権等)でも同じとお考え下さい。
ポイント
◆知的財産権を侵害すると、民事上の罰則と刑事上の罰則が科せられます。かなり重い罰則と言えます。
◆これら罰則以外にも、裁判になると経済的負担も大きく、また精神的負担もかかります。
◆このようなリスクを完全に防御することは不可能ですが、他人の権利を調査して事業に臨むことが重要です。
1.民事上の請求権
民事上の請求権とは、知的財産権を持つ個人・法人が、権利を侵害した個人・法人に対して請求するものです。
①差止請求権(商標法第36条)
差止請求権とは、侵害行為をやめさせられる権利です。
現実的には、中小企業にとって一番厳しいペナルティと考えます。
つまり商標権を侵害した場合、その製品の良し悪しや、他人の特許にも引っかかっていない製品であっても、商標(名称)が他人の商標権に抵触しているだけで、販売できなくなります。
また販売できないだけでなく、それまで作成した商品カタログやチラシ、あついは侵害行為に供した設備の廃棄を請求される場合もあり得ます。
まして会社名(屋号)が他人の商標権に抵触していると、最悪、会社名を変更しなければならなくなります。
事実、商標問題が原因で、名称変更に至った事例は数多く存在します。
②損害賠償請求権(民法第709条)
損害賠償請求権とは、侵害によって生じた損害を支払わされる権利です。損害賠償額の算定は難しく、
・「損害額」=「侵害者の譲渡等数量」×「権利者の単位あたりの利益」
・「損害額」=「侵害者がその侵害の行為により受けた利益額」と推定
・「損害額」=「使用料相当額」
などが認められています。いずれにせよ、裁判所で判断されるものであり、場合によっては多額の賠償金を支払うことになります。
また注意すべきは、民法における損害賠償請求は、侵害者に過失があることを権利者が立証しなければならないのですが、知的財産権に基づく損害賠償請求は侵害者の過失を立証しなくても良いことになっています。これは登録された商標権や特許権は登録公報によって皆が知っているはず、なので、「そんな商標が登録されてたことは知りませんでした!」という反論は認められません。
③不当利得返還請求権(民法第703条、第704条)
不当利得返還請求権とは、侵害により不当に得た利益の返還させられる権利です。
一見すると②損害賠償請求権とよく似た金銭的な救済措置ですが、この点はややこしいので、深くは考えないでください。
ポイントは、②損害賠償請求と③不当利得返還請求の二重取りはできません。また②損害賠償請求の消滅時効は3年であるのに対し、③不当利得返還請求の消滅時効は10年と長いため、損害賠償請求ができなくなっても、不当利得返還請求を行使することが可能となります。
④信用回復措置請求権(特許法第106条準用)
信用回復措置請求権とは、権利者の信用が害された場合、謝罪広告の掲載などの信用回復の処置を取らされる権利です。
2.刑事罰(商標法第78条)
刑事罰は、要は侵害した場合、警察に逮捕され、裁判にかけられ、有罪となると懲役刑か罰金を支払わなければならないというものです。
知的財産権の侵害に対する法律では、その刑事罰は「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(法人では3億円以下の罰金)、またはこれを併科する(両方を科す)」とあります。
じつはこの罰則は、他の犯罪と比べても結構重く定められています。
例えば、窃盗罪の場合、「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」となっています。物を盗む罪より、知財権を盗むことは重罪です。
また最近話題(?)の大麻取締法違反では、大麻(大麻草やその製品)をみだりに所持したり、譲渡・譲受したりすると、5年以下の懲役に、また営利の目的でそれを行えば、7年以下の懲役刑となり、情状によっては、それに200万円以下の罰金が加えられます。
乱暴に言えば、商標を真似したり、著作権違反を行うことは、大麻を売買することより罪が重くなる・・・場合があるということです。
3.経済的負担
上記した差止請求が認められると、その製品を製造・販売することができなくなりますので、売上がゼロとなりますし、商品の回収が必要になります。商標権侵害であれば、名称を変更することで再販が可能にはなりますが、少なくとも包装やチラシ等はやり直さなければなりません。また特許権や意匠権侵害の場合、再度設計からやり直さなければなりませんので、開発費用や新たな装置の導入が必要な場合が考えられます。
それ以前の段階においても、事件が裁判になると、それに係る費用=弁護士費用はかなりの額になります。勿論事件の内容にもよりますが、数百万円単位で考える必要があります。
さらに知的財産権侵害を起こし関係者に迷惑をかけた企業というレッテルを貼られることになりますので、その企業価値(ブランド価値)の毀損額は計り知れないものになります。
4.精神的負担
なにより、社長さんの精神的負担は大きいです。
裁判にならなくとも、『警告書』を受けとるだけで大騒ぎになります。『警告書』のことを”ラブレター”なんて呼び方もしますが、大多数の社長さんはラブレターを受け取った経験はなく、「侵害」だの、「損害賠償」だの、「裁判を起こす」など物騒な文面にビビッてしまわれます。
決着がつくまでは生きた心地はせず、本業にも身が入りません。事業面での損失は大きいです。
おわりに
相手がある話なので、100%侵害を回避し、警告書を受け取らない方法はありませんが、事前の調査を行い、他人の権利に抵触しないよう(地雷を踏まないよう)注意することが大切です。また日ごろから専門家とコミュニケーションを取り、仮にラブレターが届いても、慌てず専門家に相談できる体制を取っておくことが重要です。
また本稿では、中小企業側が権利侵害を行ったという立場で記載していますが、逆に中小企業側の権利が侵害された場合であれば、1.民事や2.刑事の権利を行使することができますので、自身の権利の内容を踏まえ市場の状況を監視することも重要です。
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