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大人のパーティは仮面舞踏会

その夜、私は社内の大きなプロジェクトの打ち上げパーティーに参加していた。会場に足を踏み入れると、ピエロの格好をしたスタッフが名札と席番号を手渡してくれる。場違いな滑稽さに一瞬驚きつつ、ドリンクカウンターで烏龍茶を手に取り、とりあえず空いている端のテーブルへと腰を落ち着けた。こういう場で酒に酔って失態を演じるのは避けたい。

端の席から会場の様子を伺う。ステージではプロの司会者が明るい笑顔で進行しているが、その表情にはどこか仮面のような業務的な冷たさを感じる。慣れた様子ではあるが、心から楽しんでいるわけではないだろう。ふと視線を広げると、仮面をつけているのは司会者だけではなかった。にこやかな笑顔で握手を交わし合い、互いを称えるフリをして、次のビジネスパートナー候補に狙いを定めている人が大勢いる。まあ、大人の世界ではこれが「普通」なのだ。

一方で、酒と食事に浮かれている若手社員たちも見受けられる。まるでお楽しみ会と勘違いしているようだ。だが、そんな彼らは放っておけばいい。私もどうにかして企画を次につなげたい。プロデューサーが近くに来るタイミングを虎視眈々と狙いながら、静かに周囲を観察する。

しばらく見ていると、こういう場で人が集まりやすいタイプがわかってきた。まずは、プロデューサー。言うまでもなく、多くの人がこの機会を仕事に結びつけようと、彼を取り囲んでいる。会話の順番待ちの列ができているほどだ。

次に、酔っ払いおじさん。大声で冗談や野次を飛ばし、場を盛り上げる存在だ。誰もが彼に笑って相槌を打ちながら、「自分が目立つ羽目にならないように」と慎重に立ち回っている。気づけば、酔っ払いおじさんを中心に場が回っていた。

そして、キャプテンタイプの女上司。いつも中心にいないと気が済まないらしく、部下たちは彼女の周りを囲むようにして離れられない。彼女のご機嫌を損ねないよう、気を使う女性たちの姿が少し痛々しくも映る。

人が人を囲むには、それぞれの利害があるのだろう。この場には100人ほどの参加者がいるが、私に話しかけてくる人は誰もいない。目立った活躍をしていない自分に、他人が「繋がる価値」を感じていないのだ。冷静に考えれば当然のことではあるが、胸の内にはやはり少しの寂しさがよぎる。頑張らないとな。

そんなことを考えていると、プロデューサーがふと近くにやってきた。ここぞとばかりにタイミングを見計らい、軽く言葉を交わす。「楽しみにしているよ」という一言をもらえたことで、ようやく肩の力が抜けた。

安心感を得た私は、気づけば酔っ払いおじさんを担ぐ輪の中へと自然と加わっていたのだった。


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