殺した

彼は入院中だ。今は大部屋に一人、チャンスだ。

じわ…

じわじわ……と準備を進める。

ベッドの持ち手部分にはくしゃくしゃになったビニール袋が輪となってかかっている

彼を誘導する。勘付かれぬよう、そっと。

彼はまだ気付いていない。

ゆっくりと、そうっと彼の首に紐状になったビニール袋を引っかける。

彼はまだ何もしない。

せーので彼の足を地面から浮かす。

ぐぐぐ…

彼の首に圧力がかかる

まだだ...

興奮してきた

まだ...

呼吸が苦しくなる

まだまだ…

頭がふわっとする

まだだ…

目を開けられていなくなる





...



嫌だッッッ!!!!!!!!

瞬間、彼は跳んでビニールを鷲掴みにして頭をあげる。ブハッと大きく息を吸い込んだ彼は勢いで天井を仰いだ。振り絞る力でビニールを破ってなんとか窮地を脱す。呼吸が荒くなっている、頭がフラフラしている、首がジンジンと痛んでいる、四肢が痺れている、目が血走っている。
その血走った目で睨み付けられた私は気付けばベッドに押し倒されいて、仰向けに天井をただ呆然と眺めているだけ。はぁ、はぁ、と荒い呼吸が少しマシになった頃、もういちど彼をビニールへと誘導することもままならず、すぐ横にある洗面台の鏡の前に顔を突き出された。
私の頸部には残酷なまでに青黒く広がった痣と無数の赤く鋭い絞殺痕のようなものが刻まれているのだった。

私は苦しくなり
私は悔しくなり

ベッドに突っ伏した。彼を押し倒して。

私は激しく後悔した。

またやってしまった。
また失敗してしまったと。

彼はこれからしばらくは警戒を続けるだろう。
もう次いつ殺せるか分からない

私は落胆し、ベッドの上で放心していた。

手足の痺れも治まった頃、看護師リーダーがカーテンを開けた。


(ああ、私は殺されるんだ)


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