『名前のわからないもの展』のつくり方
メルカリでは2024年8月20日から8月28日の期間、「ものとしてはよく見たり使ったりしてるけど、名前はわからないちょっとかわいそうなもの」を集めた「名前のわからないもの展」を開催しています。約1週間の開催ですがテレビ、新聞をはじめとするメディア取材やインフルエンサーも沢山訪れて発信してくれており、大変な盛況です。
責任者としてはワンチャン完全無風だったらどうしようという不安もあっただけにほっとしました。
今回はメルカリとして何を考えて、どのように「名前のわからないもの展」を設計して作っていったのかについて公開しようと思います。
ちなみに前にはこんなのも書いてますので、よろしければどうぞ。
「名前のわからないもの展」で伝えたかったこと
メルカリは今年11周年を迎えたフリマアプリです。フリマから始まったメルカリですが、現在ではメルペイ、メルコインといったフィンテックサービス、事業者向けのメルカリShops、メルカリハロという人材サービスと提供サービスの幅が広がっています。
ともあれ、メルカリの1番のコアはフリマアプリです。
メルカリの中では本当に様々なものが売買されており、「こんな物も売ってるんだ」とか、「こんな物も売れるんだ!」という驚きが日々あります。
要は「すべてのものに価値がある」からこそ様々なものの売買が実際に成立しているということなのですが、なかなかそんなことは言葉だけでは伝わりません。
メルカリが発信したいメッセージ
「メルカリってなんでも売ってるんだよ!」、「メルカリなら、なんでも売れるんだよ」
だから、メルカリを売ってみてね、メルカリをつかってみてね。
これが最終的にメルカリが伝えたいメッセージ。
誰かにとっては不要なものでも誰かにとっては価値がある。
企業視点ではこれが伝えたいことなんですが、このメッセージをそのまま発信したところで意識や行動が変わるほど消費者は素直じゃありません。それどころか、見向きもしてもらえないでしょう。マーケティングにおいて重視しないといけないのは、伝えたいメッセージを消費者の関心をひける、理解しやすいコンテクストに乗せて、それに適したフォーマットでコンテンツ化することです。
すでにメルカリを使ってくれている人にはもっとメルカリを知ってもらいたいし、まだメルカリを知らない人や、知っていても使ったことのない人たちに知ってもらったり使ってもらいたい。
その際にどのような形でメッセージとして発信するのかというのを考えて実行するのがマーケティングです。そしてこれは特に未認知、未利用層には広告的なアプローチではなかなか届きません。
メルカリ自体の「認知」および「想起」
メルカリがどんなサービスなのか?
については今では割と知られているかと思います。
メルカリでお買い物をしたことがある人も割といるのではないでしょうか。
しかし、メルカリで買い物をしたことはあっても、なにか自分の持ち物を売ったことがない人はまだまだたくさんいます。
メルカリで売ったことがない理由は様々ですが、何を売ったらいいのか分からない、売れるものなんか持ってないと思い込んでるケースが多くあります。
そういう方に「すべてのものには価値がある」なんでも売れるということを知ってもらうこと(パーセプションチェンジ)もマーケティングの大事な役割です。
より具体的に言えば、「いらないから売りたいな」となったらメルカリはかなりの確率で想起されるようになってきていると思いますが、「いらない」という気持ちから想起されるのは「ゴミ箱(≒廃棄)」がまだまだ多いです。実はメルカリの競合はゴミ箱なんです。
昨年末に実施したウチの実家では実際にメルカリで売っているものだけを使って実家を再現する企画を行いました。これも「実家にあるような、なんでもないものでもメルカリなら売れるんだよ」というのが伝えたかったメッセージです。
でもこれだけを言葉で言われたところで響きませんよね。
名前が分からないから売れない?
こういった切り口を別の視点で考えたのが今回の企画「名前のわからないもの展」です。
「これ、もしかしたら売れるかも!でもこれってなんていうの??」
そんな「アレ」を沢山集めて展示しました。
たとえば蟹を食べるときのアレ
この「蟹ほじほじ」にもちゃんと「蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具」という名前があります。
企画名「名前のわからないもの展」
マーケティングにおいて「わかりやすさ」は非常に重要な要素です。
特に企画名はめちゃくちゃ大事で、企画がうまくいくかどうかは企画名にかかっていると言っても過言ではありません。
今回はターゲットに小学生がいることや、テレビで取り上げやすいことを狙い、奇をてらわずに一発で企画が分かるものにしようと思って考えました。
「名前すら知られていない」≒ なんかかわいそう
ここをテーマにキービジュアルもかわいいながらも泣きそうな感じにして、企画名は「名前のわからないもの展」として「ああ、そういうことね!」と誰にでも分かることを目指しました。
細かい部分ですが、本来であれば「名前"が"わからないもの」ですが、ひっかかりをつくるという目的で「名前”が”」ではなく「名前”の”」としています。
カンタンに理解できるのに、記憶にも残るということを強く意識した企画名が「名前のわからないもの展」です。
メルカリ色を出しすぎなかったことの狙い
「企画に企業のエゴを出さない」ことは私がマーケティング活動をするうえで1番気をつけているポイントです。特にtoCサービスの場合、売上やその他事業KPIを意識しすぎるあまり、1番大切にしなければならないはずの顧客を無視したマーケティング活動が行われがちです。
今回の企画においては徹底して顧客の体験ファーストで設計しました。
「メルカリが〇〇な目的でやっている」ではなく、「こんな楽しい企画、どこが主催でやってるんだろう?え!?メルカリなんだ!」という思考プロセスをたどることを狙いました。
そのためにも例えば「ランチャームすくい」であれば楽しかった思い出として残るようにご来場いただいたお客様のスマホで頭上から撮影できるようにメッシュ粗めの格子を用意しました。
狙いどおり金魚すくいのようにランチャームをすくう自撮りがSNSで溢れました。
↓だれでもこんな動画が撮影できます。
「名前のわからないもの展」内容以外の設計
企画はそれ自体のコンテンツクオリティはもちろんのこと、立体的に詳細まで考えて仕掛けを設計することがとても重要です。コアメッセージを中心に話題のフックを細かく仕掛け、それぞれに意味を持たせる必要があります。
どんなに面白いコンテンツであっても、この辺りの設計を疎かにすると誰にも気づかれずに静かに終わってしまいます。
話題化に向けた設計
メディアに露出することは話題化のためにとても大事です。実際、「名前のわからないもの展」も「ウチの実家」もテレビメディアの露出から爆発的に来ていただく方が増えました。
「もうテレビなんか誰も見てない」というのは明らかに嘘です。
①「名前のわからないもの展」の実施時期
今年はオリンピックの後の話題がないタイミングにこの企画を当てることにしました。パリオリンピックは確実に盛り上がるので、オリンピックにあててしまうとオリンピックの話題に飲まれてしまいます。逆にオリンピックが終われば、話題は一気に減るはずと考えてこの時期を選びました。
②考えないでも企画が思いつくコンテンツ
企画として扱いやすくなるようなコンテンツにすることを狙いました。
ニュース番組なんかで「〇〇さん、これの名前分かりますか?」とか言ってるの想像できますよね。実際これは狙いどおりこういった形で扱われることは多かったです。
メディア露出においては子どもも楽しめるコンテンツにすることで、夏休みのお出かけ紹介枠、夏休みも終わりかけというタイミングなので滑り込み自由研究のニーズも狙いました。
企画発案段階でコンテンツを考える際、昨年の同時期にどんな放送があったかを調べ、「ここなら入る枠はあるだろう!」と判断しました。
浮かれたお出かけ枠での露出が多いだろうなと想定していましたが、蓋を開けてみればWBS(ワールドビジネスサテライト)をはじめとした真面目な情報・経済の枠がほとんどだったのは想定外でした。
「カニのアレ」の名前が難しいことと、出馬する人たちの名前が難しい総裁選と絡めて紹介されていたのは完全に想定外でした。そんな切り口流石に思いつきませんでした。
ちなみにTVだけでも・・・錚々たる番組!
ワールドビジネスサテライト(テレビ東京)
Live News α(フジテレビ)
ライブニュースイット!(フジテレビ)
シューイチ(日本テレビ)
Nスタ(TBSテレビ)
情報7daysニュースキャスター(TBSテレビ)
ゆうがたサテライト(テレビ東京)
午後LIVEニュースーン(NHK・中継)
ほか、日経新聞、日経MJ、日経トレンド、読売新聞、ほかwebメディアにも多く掲載いただきました。
③名前のわからない人をアンバサダーに!
企画のアンバサダーとしてテーマに沿った人選は重要です。今回は「名前のわからないもの展」なのでよく見るけど名前は知らない人はどうだろうということでそんな人を企画メンバーが必死に探しました。名前がわからないのにどうやって探したんだろう。
実際、アンバサダーの皆さんのコメントも最高なので是非読んでほしいです。
最高のコメントありがとうございました!
呑山さんはイベントにもお越し頂きました。
④自由研究ニーズで子どもを狙う
小学生の自由研究はメディアが絶対に取り上げたいネタなのでここも狙いました。自由研究をこの場で終わらせに来る小学生もいるだろうと考え、そのまま使える自由研究シートも用意しました。
子どもが自由研究で考えている姿はメディアが欲しい画のはず!との思いで作りましたし、実際取り上げられました。
SNS上の仕掛け
「名前のわからないもの展」の開催は8月20日からでしたが、普段は気にもかけないものだからこそ「名前のわからないもの」なので、そこに着目してもらえるよう7月29日からXで
のハッシュタグをつけて身のまわりの名前のわからないものを投稿してもらうハッシュタグキャンペーンを実施しました。
まるでX上で「名前のわからないもの」の展示会が実施されているような状態になり、この企画も盛り上がりました。
そもそも、いきなり「名前のわからないもの展」のイベントやるよ!
と言われても「????」となってしまいますが、じわじわと「名前のわからないもの」に注目が集まって、そこに実はこんなイベントがあるよ!と投入していく仕掛けです。
「#名前のわからないもの展」はXでもトレンド入りし、イベントに来られない人も「このタグ見てるだけで面白い」と言ってもらえました。イベントは、どうしても人数の制約があり、来られる人はせいぜい1000人〜2000人ほどにしかなりません。
SNSでは5,000万impを目安に、このイベントに関連するテーマで繰り広げるよう設計しました。
②映える画作り
SNSで話題化することは話題化においてとても重要です。SNSでの話題化を狙って体験型コンテンツとその映えを強く意識して設計を行いました。
意識したのは、写真や動画を撮りたくなるコンテンツです。
思わずクスッとしてしまうコンテンツやキレイに映える画が撮影できることを意識しました。
③体験型コンテンツ
見るだけでなく、体験してもらうことは記憶にめちゃくちゃ残ります。
今回は夏なので金魚すくいならぬ「ランチャームすくい」をメインの体験にしようと思い、大阪までランチャームを作っていらっしゃる旭創業さんにご挨拶&取材にも行いました。
旭創業さまには、「普段、役に立っているのに光が当たらないものたちを主役にしたいイベントであること」をご説明し、ばっちり先方ともバイブスを合わせました。
ランチャームすくいで使用したランチャームやランチャームバルーンの型の元になるものを貸していただいたりと多大なるご協力をいただきました。
取材させて頂いた際の記事はこちら↓
旭創業さんは大阪からわざわざイベントにも来てくださいました!
もっと〇〇できたかも
企画自体は大成功なので、致命的な失敗なんかはないのですが、今考えると「もっとできたことも色々ある」というのが実際の感想です。まぁこれはどんなことをやっても完璧はないので仕方ないかな。
メルカリでの実際の扱われかたを見せられたかも
展示する商品全てにおいて、メルカリではどのように出品されているか、生々しい出品画面を展示しようという話もありましたが、実際はタイムアップでやりきれませんでした。
「蟹ほじほじ」、「床屋のアレ」、「パンの袋とめるやつ」など正式名称とともに並ぶとなかなかおもしろいものができたと思います。
プロダクトの機能をイベントで体感してもらえたかも
プロダクトとのからみもこういったリアルの場で示せるとよかったかもしれないなと思いました。
たとえば、「名前のわからない展示品をメルカリアプリで撮影したら商品名が分かる」というような機能を今回入れても良かったかなとかいうことです。
まだまだできたことは沢山あったので、次回への学びとしたいと思います。
次回のイベントについて
ウチの実家のときもそうだったんですが、「次はなにやるの?」と必ず聞かれます。
実は次も9月に用意してます。今回が8月だからスパンは超短いけど。こっちもかなり気合い入れて準備してます。是非お楽しみに。今度は渋谷でやります。
そして超メルカリ市がついに今週から開催されます!この機会に是非メルカリに名前のわからないものを出品してみてはいかがでしょう。