第12回 発達障害と夜尿 ②
こんにちは。外科医ちっちです。自閉スペクトラムの診断を受けた長女いっち、長男にっちと、幼稚園不登園を経験した次男さんちの子育ての発信をしています。前回、長男のおねしょの話から、夜尿症の診断基準、受診方法をお伝えしました。今回は、実際の夜尿症の治療とその後のにっちの経過についてお伝えします。
一般的な夜尿症の治療は生活習慣を見直すことから
前回もお伝えしましたが、「5歳以上でおねしょが月に一度以上ある場合」を夜尿症と言います。
覚醒しにくい、尿を貯めておく能力が弱い、尿の量が多いなどの可能性があるほか、病気が絡むこともあります。ですから、尿が増える糖尿病や、濃縮することが出来ず多尿になる腎臓疾患、膀胱の機能に問題がないかを、尿検査やエコーで確認します。問題があった場合はその治療を行います。
特に問題が認められなかった場合に、夜尿症の治療が始まります。
治療の第一歩として、生活を見直すことから始めます。学校から帰ったら、そこから翌朝一番のトイレの時間までの飲水と排泄の記録をつけます。
(1)昼間の尿失禁と夜尿の回数を7日間記録。
(2)48時間の排尿時間と尿量(夜間はオムツ)を記録。
(3)夕食後から寝るまでに飲んだもの、量、回数を記録。
尿は採尿用の計量カップで測ります。記録をつけると、子どもの排泄パターンが見えてきます。また、同時に排便記録(7日間)もつけます。夜尿症の子どもは排便がスムーズでないことが多くあります。便の記録は硬い、柔らかいなどを記録します。
ちなみに、親がすぐに思いつくであろう「夜中に無理やり起こしてトイレに行かせる」のはダメです。寝ている間、「尿量が減るように体が調節している状態」をリセットしてしまうため、むしろ夜の尿量が増えやすくなり、夜尿症が悪化する原因になることがあります。
水分制限を試すも、自閉症特有の問題があり…
長男にっちは、夜間の尿量が500〜600mlで、多尿であることが判明しました(*本来は寝ている状態だと尿は作られにくいため、小児で200ml以上は多尿)。ほかに問題はなさそうです。
そこで、「夕方から夜間にかけての水分摂取量を減らす」ことを目標にしました。なーんだ簡単だね、と思うでしょう。ところが、我が子には自閉症特有の問題がありました。
それは「学校では緊張状態で、水分摂取ができない」という問題です。
「学校生活自体が緊張状態」「学校の古いトイレが怖い」という理由から、日中の水は最低限で、下校してからガブ飲みという生活でした。
ですから、飲む量を調節したければ、「学校でリラックスして過ごせる」「学校のトイレに行けるようになる」必要がありました。結論から言えば、うちの場合、まったくうまくいきませんでした。
週末、特に翌日も学校のない土曜日には、にっちはリラックスしています。昼にしっかり飲水ができます。夕食後18時以降の水分制限に関しても、「6時過ぎたからもう飲まないね~」と本人が調整できる日がありました。そうすると、朝までの尿はほんの少量です。
しかし、それ以外の日の飲水量の調整は出来ませんでした。
家庭内でできる工夫や言葉がけ
長男にっちの夜尿の原因は「寝る前の飲み過ぎ」で、効果のある治療は「寝る前の飲水制限」であることは確かなようです。そこで、次に声掛けや工夫を試してみました。
夜尿改善の工夫(1) 飲んでもOKの量を「見える化」
見た目でわかりやすいように、大きめのコップを用意。夕方以降飲んでもいい水分(我が家は300mlにしました)を事前に注いでおく。
その結果、「なんでこれ以上飲めないんだよ」と不安と不満でかんしゃくになり、暴れました。
夜尿改善の工夫(2) 日中の飲水量を増やす
昼間にたくさん飲めたら、夕方からの飲水量を減らせるかもしれない。
「容器が大きいと自然に多く摂取しがちと聞くし、水筒を大きくしてみたらどうだろう?」と思いつき、学校に持っていく水筒を300mlから500mlに変更しました。
父「この中身を空っぽにして帰ってきて欲しいな」
にっち「うん、まぁがんばるよ」
結果、本人は前向きではあったものの、やはり「学校のトイレが汚くて行きたくない」という理由で、飲むことができませんでした。ただ重い荷物(水筒)を運ぶだけ。荷物が重くて怒るというおまけつきです。
夜尿改善の工夫(3) 夕食の汁物をやめる
それまで出していた夕食の汁物(味噌汁やポトフ)をやめました。本人が意識しないように飲水量を減らせないか試したのです。
この対応には、怒りはしませんでした。しかし、夜尿の量は変わらず500ml程度と多いままです。水分のinとoutのバランスがおかしい…。よく観察してみると、なんと、お風呂でシャワーを浴びるふりをしてこっそり飲んでいました。
お風呂だけでなく、歯磨き後のうがいの時にもうがいをするふりをして、水を飲んでいたのです。喉が渇く→飲水量を減らされた→「隠れ飲み」をする、という状態になってしまい、「夕方の飲水制限」はやめました。
問題点がわかり、「夕方の飲水制限」という解決法までは明らかになったものの、そこを改善する何かが見つかりません。ただ、我が家のにっちにはこの作戦は失敗しましたが、お子さんによっては、以上のような対策が合うかもしれないので、ぜひ試していただけたらと思います。
濡れを感知するシステム「夜尿アラーム療法」
夜尿の治療として有名なものに「アラーム療法」があります。下着にアラームをつけて濡れを感知するとブザーが鳴るというものです。本人が寝ている時のおしっこする前後の感覚を理解することで、起きてトイレに行けるようになるのが目的です。
にっちも挑戦しました。しかし、「本人は起きない。家族はブザーで起こされて寝不足」という結果で惨敗です。ブザーが鳴って、にっちに声をかけ体をゆすっても、起きません! 本当にぐっすり眠っています。アラーム療法は他の家族がギブアップしました。
最後に行う薬物療法(抗利尿ホルモン剤)
最後に行う治療法として、薬物療法(抗利尿ホルモン剤)があります。これは、厳格な水分管理が必要です。少し専門的な話になりますが、治療に使う「デスモプレシン」という経口薬は、尿を減らすホルモンである「バソプレシン」を出すように働きかける薬です。尿を減らすということは、体の中の水分を尿にせずに体に留めておくということです。
適量以上の水分摂取をした体に服用すると、水中毒(体の水分が多過ぎる状態)や低ナトリウム血症(水分が多いために血液が薄まる)の危険があります。
にっちは、親が管理しようとしても水分摂取が難しく、目を盗んで飲んでしまうので、服用させることは危険と判断し、薬物治療は行っていません。
小学2年の秋に初めて夜尿症外来を受診して以来、3か月に1度のペースで通院してきました。すると、ついに親も本人も「オムツを履いておけば、いいか」と言う心境になり、夜尿症外来には1年に1度の報告をするために、ゆるりと通院しています。
その後、にっちは10歳の誕生日を迎えてから、夜尿の量も回数も減ってきています。このまま成長とともによくなるのを待ちたいと思います。親が気にかかる学校の宿泊学習は、その時だけ服薬するか、オムツを持たせる予定でいます。
夜尿対策の「ほめポイント」と、我が家の予後
ここまで読んでくださった方には、夜尿は本人の努力不足ではないことがわかっていただけたと思います。ですから、ほめるポイントは「おねしょをせずに朝まで過ごせた」という結果ではなく、「寝る前にトイレに行けた」「寝る前に飲むのを我慢できた」といった子どもの行動です。
最終的に、膀胱の容量やホルモンの働きは年齢が上がるにつれて落ち着いてくるので、「そのうち治る」と、どっしり構えるのが基本です。
夜尿外来の先生の口癖も、「器質的疾患がない子で、成人を過ぎてもずっと続く子はまだ見たことがない。お子さんによっては、小学校かもしれないし、中学校かもしれない、高校かもしれないけれど、そのうち治ります」です。
有効そうな対応が出来ていないままの我が家ですが、確かに高学年になるに従って、「オムツが乾いたまま=夜尿ゼロ!」の朝が本当に少しずつですが増えてきています。
絶対数は多いのですが、話題になることが少なく、病気っぽさもないため、知識が得られにくい「夜尿症」に関して、少しでも理解が進むと嬉しいです。
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