とある元メイド喫茶常連の忘備録<その30>
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
急に浅田氏から携帯にメールが来た。某SNSの限定公開の日記上で尾崎氏と話し合うという提案だった。拒否すればよかったのだがこの時は職場の常駐先が変わり、今まで経験したことのない高レベルの業務の連続、昭和気質の上司のかわいがり、このダブルパンチで職場以外では完全に頭の回転は止まっていた。睡眠不足に陥り体調もどんどん悪化していった。その浅田氏を間に入れたやりとりも
「客としてのスタンスを語れ」
「好きなメイドの対してのスタンスを語れ」
等々理解に苦しむ内容だった。まりさメイドの件とは関係があるとは思えなかった。自分は疲れた体と頭にムチを撃ち、出来る限り書き込みをした。しかし尾崎氏は一切書き込みをしなかった。理不尽だった。ストレスと怒りばかりが貯まっていった。
そうしているうちに思わぬ事態になった。内容は覚えてないが、某SNSでのやりとりで回答が全く思いつかず、パソコンの前で二時間考え込んだ裏で尾崎氏が個別メッセージで追い込みをかけてきた事があった。
「浅田さんも城田さんもあんたの事信用できないって。あれだけ言いたい放題言ってきたんだから、今更になって逃げんなよ?」
そもそもお前は浅田氏との三者での某SNS日記の話し合いにロクに参加してこなかったじゃないか……逃げるなよとは何事だ。何今更強気でてるんだと思っていた。この時記憶が蘇ってきたが、実は事件が発覚した際、某SNSメッセージで自分と尾崎氏とやりとりしたが尾崎氏は「真犯人を探してくれ」「店を頼んだ」等のメッセージしか返してこなかった。加害者意識が足りてない。自分に酔って悦に浸って恥ずかしくないのか等の強い言葉で返した。そのやりとりを自分の印象が悪くなるような部分だけを浅田氏と城田氏に全部見せたらしい。浅田氏と城田氏を自分の味方につけて、自分を孤立させようとしてきていた。浅田氏が間に入って来たことをチャンスに変えたのだ。その考えは見事に成功した。
後から国領氏に聞いたが城田氏に関しては自分を恨むような感情を抱いてしまったらしい。後に城田氏は待ち合わせでわざと四〇分以上待たせるなど自分に対して悪態を頻繁につくようになる。城田氏は尾崎氏の思惑通りに心情を操作されたのだ。浅田氏も口には出さなかったが諸星は今後見切りを付ける旨の発言をしていたそうだ。
尾崎氏の他人を味方につけ、周りを巻き込み意のままに動かす。素晴らしい能力だ。悲しいが正しい事に使えなかった。
能力に長けている人間にはその能力を正しく使う責任が生じると思っている。その能力でいくらでも他人を幸せにすることができるし、不幸にすることも出来るからだ。大いなる力には大いなる責任が伴うのだ。例えば優秀な営業と詐欺師は必要な能力に違いはなく、本質的には同じである。その能力を悪用し、詐欺師になってはいけないのだ。それが使命であり責任なのだ。
しかし彼は自分の失敗を有耶無耶にするためにその能力を惜しげもなく悪用した。
このやりとりの次の日に運命の歯車は大きく狂い始めた
<つづく>