軍事化を進めるためにデマで市民の声を塞ぐのは許されない 【2023.3.16 宮古島での記者会見全文】
裁判の判決で、産経新聞が書いた記事が完全なデマであったということが証明されて、ホッとしました。
記事が出てすぐに、事実ではないと抗議文を出したし、その後もずっと事実ではないと私自身は言い続けてきましたが、記事がネットに載っている以上、読んだ人にとってはどちらが本当か分からないという状態だったと思います。
2018年3月、沖縄タイムスが紙面上で産経のデマ記事を特集し、「産経 当事者取材せず批判」という見出しで、私の団地入居「月収制限超え」の記事についてもデマであることを検証し、識者の「悪意目的の敵対記事である」という評論も載りましたが、それでも産経は記事を削除しませんでした。
記事は、私が不正に県営団地に入居したと思わせる内容で、「議員のコネを使ったんじゃないか」「詐欺罪で逮捕しろ」「議員辞職すべきだ」など、ネット上での誹謗中傷はひどいものでした
でも私にとって一番辛かったのは、ネット上の誹謗中傷ではなく、記事を読んだ宮古島の市民の方々に誤解されたことです。団地入居の件は、宮古島のメディアが取り上げることはありませんでしたが、産経新聞のWEBニュースが拡散されることで、宮古島の人達にも知れ渡ることとなりました。実際、数年経ってこのニュースを知っていたか聞いてみると、信じていたという人もいました。
判決では、「本件記事に係る被告の取材は、基本的な取材事項の取材を欠いた不十分なものであったというほかない。」と名言されました。
半澤記者は、本人である私に取材していません。一番驚いたのが、証人尋問で、「石嶺氏に取材しなかったのはなぜですか?」と聞かれて、「石嶺さんの電話番号を調べようとしたら、分かりませんでした。」と答えたことです。議員の連絡先は、議会事務局に聞けば教えてもらえるということは、記者であれば誰でも知っていることです。
今回の判決で「原告の県営住宅の入居資格の認定に当たり、入居時である平成29年度における原告世帯の収入を考慮することは、それ自体誤りである。」とされました。
実際に、私が議員をやっていた2017年の収入も、結果的に入居の基準を超えていなかったことも認められました。判決文に「『原告世帯が、平成29年において、月収制限を超える収入を得ていること』は、結果的にも誤りであった。」とあります。
そして、もし超えていたとしても、すぐに退去の義務があるわけでなく、県の条例では、月収制限を超過した後に3年以上居住した場合には、明け渡しの努力義務が発生し、5年以上居住した場合に沖縄県が入居者に対して明け渡しを求めるとなっています。
実際、私の前にも後にも、県営団地に住んでいた宮古島市議はいます。
なぜ産経新聞が、他の議員は取り上げず、私の団地入居の件だけ取り上げ、デマを書いてまで問題視したのかの理由は明確です。
私が宮古島への陸上自衛隊配備に反対していたからです。
私は、議員の任期10ヶ月の間に、産経新聞に記事を6本書かれました。そのうち、今回名誉毀損が認められたものも含め、2本デマ記事があります。4月のシンポジウムでの発言を選挙直前の9月に取り上げ、選挙妨害が目的ではないかと思う記事もありました。また、落選したことも記事になりました。こんな小さな島の市議会議員の落選を記事にすること自体異常です。他のメディアではどこも取り上げていません。
軍事化や戦争に反対する声を塞ぐためにデマを書くのは、過去の戦争でも新聞社がやってきたことです。
軍事化がどんどん進む宮古島ですが、軍事化を進めるためにデマで市民の声を塞ぐのは許されない。今後も許してはいけないということを、この裁判の結果により、はっきりと示したいと思います。なぜなら、戦争は、嘘の情報、デマなしには進めることはできないからです。
今回、記事の内容については事実ではないということが明言されましたが、時効が認められてしまいました。
記事が出たのが2017年3月22日、私が提訴したのが3年半後の2020年9月23日です。不法行為に基づく損害賠償請求権の時効が3年で、最初の半年間、2017年3月22日から9月23日までの、一番被害が大きかったとされる時期の被害が消滅したと考えられ、半年以降の損害賠償額が10万円とされました。
そもそも、記事はまだ削除されず、ネット上に存在し続けています。削除されてから3年というならまだ理解できますが、デマが掲載され続けている状態で、時効という考えは理解できません。
また、もしこの時効の考え方に沿ったとしても、被害が認められる期間である2017年10月22日には市議選があり、私は落選しました。もちろん、落選の理由はこの記事だけに限定されないとは思いますが、市議選時に、ネット上に大手新聞社のデマ記事が存在したということは、大きな影響があったことは確かだと思います。
今の司法で、紙の新聞記事の名誉毀損とネット記事の名誉毀損が同じように考えられていることは、時代の変化にそぐわないと思います。ネット記事は辞書のように調べればすぐに出てくるし、デジタルタトゥーと呼ばれ、スクリーンショットや、ブログに転載されるなど、記事が削除されても残り続けます。
デマの被害というのは深刻です。いくら裁判で勝って、記事が削除されたとしても一度人々の中に残った記憶を消してまわることはできません。私が一人ずつ説明してまわることもできません。
この度、ネット上での名誉毀損の被害を現実に即してきちんと認めてもらうために、控訴しました。10万円という賠償金額では、大きな組織である産経新聞にとっては痛くも痒くもない。再発防止にも繋がりません。
高等裁判所が正当な判断をしてくれることを願っています。