春が持ってきてくれるもの/ふしぎな木の実の料理法
この森でもなければ
その森でもない、
あの森でもなければ
どの森でもない、
「こそあどの森」
こそあどの森を知っていますか?
昨日ご紹介した『選ばなかった冒険』をはじめ、岡田淳さんは小学生がふとしたきっかけで不思議な世界に紛れ込んでしまうような物語が多くあります。
多いし、その全てが例外なくわくわくさせてくれるので、子供向けのファンタジーのおすすめは?と聞かれると岡田淳さんをあげることが多いかもしれません。
だけど、岡田さんには他にも『こそあどの森シリーズ』という代表作があるのです。
このシリーズは「こそあどの森」に住む風変わりな住人と、その周りで巻きおこる変わった出来事を書いた全12巻のファンタジー作品。日本のムーミン谷だとも言われているのだそう。
ただ、わたしが初めて岡田さんの作品を知ったのは小学校高学年だったから、ぱっと見た印象でこれは子供向けだな…と思ってスルーしてしまって、実は初めて読んだのは成人してずっと経ってから。お恥ずかしい。
初めて読んだときは「こんなに字も大きくて挿絵もたっぷりなのになんでこんなに充実した読後感が味わえるんだろう」とびっくりしたのを覚えてる。
ちなみに岡田さんの作品は、自身が漫画家志望もあって挿絵は岡田さんが描かれています。自分の世界観を絵でも文章でもこんなに素敵に表現できるなんて凄いの極み…。
そんなこそあどの森シリーズの第1巻『ふしぎな木の実の料理法』が今回読んだ作品です。
【あらすじ】
内気な少年スキッパーの元に、離れて暮らすバーバから「ポアポア」という硬い硬い木の実が贈られてきました。ところが、調理方法が書いてある手紙が雪で濡れて読めなくなってしまうのです。なんとか読める部分には「〜〜さんにたずねるとわかるでしょう」の文字。そこでスキッパーは嫌々ながらも森に住む、知っていそうな人に聞いて回ることにしました。
スキッパーはただ静かに家で暮らしていたいだけなのに、それでも届いてしまった木の実のことは放置できなくて本当に心底嫌そうに家を出ます。
まず、スキッパーが一人ひとりに訪ねて行くことで森の住人の性格もわかるところが1巻目として素晴らしいところ。
ラブラブなポットさんとトマトさん、作家のトワイエさん、無口なギーコさんと皮肉屋のスミレさん、つかみどころのないふたごちゃん。
毎日ポアポアのことを考えて、森の住人たちのおうちを訪ねていくうちにスキッパーもおしゃべりができるようになっていき、ほんの少しだけ行動的になります。
ポアポアの実ってもしかしたらスキッパーの頑なだった心でもあるのかも、なんて読みながら考えてしまいました。
結局どのおうちでも正解は見つからないのだけど、スキッパーの生活には確かに変化が訪れて、そのうちに春がやってくるのです。
春が来たら何が起きるでしょう。ぽかぽかで優しい読後感に「ああよかった」と本を閉じることができる素敵な出合いの訪れでした。