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探求したのは、ユーザーのひそやかな努力。「誘う人」を支援するブランドへ刷新。

TimeTreeは2024年9月1日に設立10周年を迎え、新たなMission/Vision/Value(MVV)を策定しました。その内容はこれまで定めていたMission/Vision/Valueからは大きく変化しています。
MVV刷新の意図は?そしてそこに込められた思いとはなんなのか?制作パートナーであるNEWPEACE社・山田佑樹氏と代表の深川が制作過程を振り返りながら語り合いました。


自分たちが何をしようとしている企業なのか、明確に伝えたい

──このタイミングでMission/Vision/Valueを更新した背景を教えてください。
 
深川:会社を2014年に創業し、2019年頃に一度、Mission・Vision・Value(以下MVV)を変更しています。それは、社名を変更するタイミングでした。それまでは、メインプロダクトと別の社名を掲げていましたが、創業から5年が経過し、プロダクト名「TimeTree」と社名を統一。そのタイミングでMVVも見直しました。
 
──一般的には、MVVはどのようなタイミングで変更するものなのでしょうか。
 
山田:スタートアップ企業は、Vision・Valueを状況に応じて切り替えるのが一般的です。最初はなんとなく組織内でもよく使われる規範や経営者の口癖などがMVVとして策定されがちですが、その後、組織が拡大し、マネジメントがきかなくなってきたタイミングでコピーライターを入れたり、私たちのようなブランディング会社が伴走させて頂いて、企業の全方位を包括できる作りこみを行うことが多いと感じます。TimeTreeのこれまでのMVVは、深川さんご自身でつくられたのですよね?
 
深川:2019年のMVV改変はすべて自分たちの手で実施しました。私がファシリテーターとなって議論を進め、文章をたくさん作って、みんなの意見を聞きながら絞り込みながら生まれたのが「明日をちょっと よくするために」というVision。それが完全なものではないことは重々理解していました。社員の本音としても、共感する部分はありつつも、漠然とした印象があったと聞いています。言葉自体にシャープさが無かったという感覚ですね。それから5年が経過し、あらためて自分たちで策定した文章を読み返すと、何となく素人臭く、なんだかモゾモゾした感覚を強く持つようになりました。

また、創業から10年の間は、ユーザーとプロダクトに向き合うことを重視していましたが、徐々に時代やビジネス環境も変化してゆくことで、パートナー企業はじめTimeTreeに関わっていただく人が増えました。ユーザーとプロダクトに関しても、家族や恋人、趣味の友人同士といったクローズドグループで使う「共有カレンダー」中心のサービス展開から、オープンにイベントやスケジュール情報を発信できる「公開カレンダー」という新しいサービスの柱が立ち上がりつつあります。TimeTreeが社会により開かれた存在になっていくとき「TimeTreeとは何者なのか」が、一発で伝わるものにしなければならない、と考えるようになりました。

TimeTree 代表取締役社長 / 最高経営責任者 CEO 深川 泰斗

10年の間、蓄積してきた哲学を託せるパートナーを探した

 
──MVV策定のパートナー選びは、どのように進めていったのでしょうか。
 
深川:社内ブランドディレクターが複数の企業を候補として挙げ、その中で私たちとカルチャーが近いスタートアップとの実績がある会社を選びました。NEWPEACEさんは、1年ほど前に代表の高木さんのPODCASTにゲストとして呼んでいただいたことで、すでにご縁がありました。そのときに私の話に興味を持って聞いてくださり、“話しやすいな”という印象を持っていたため、今回、候補社のひとつとしてお声がけをさせていただきました。
結局、合計3社に声をかけたのですが、そのうちの一社は諸々の要件が合わず、最終的には2社で比較検討をすることになり、両社とディスカッションをしました。今回は“よりシャープで強く、伝わりやすいものにしたい”と思っていたので、初回面談の段階で、NEWPEACEさんから「誰をエンパワーメントするかをはっきりさせることが、強い共感を得るブランドになるかどうかのポイントだ」と言われて、とても頭がスッキリしたことが印象に残っています。
 
山田:私たちは、どなたに対しても初回お会いする前までに、少なくとも10時間を越えるリサーチを行い、お会いするときには世に出ている情報のほとんどを知っている状態にしています。もちろん当時のMission、Visionも見ていて、「明日をちょっとよくする」というワードの不思議な筆跡に、なんらかの意図を感じていました。「ちょっと」という言葉をわざわざ入れている点です。また、Missionの中には「時間をつなげる」という言葉もありますが、言わんとすることになんとなく共感しながらも、これも特殊な概念だと思いました。 

その筆跡から感じる苦心は、誰かと誰かとをつなげる「橋のような役割を持つ」サービスやビジネスのブランディングの難しさに由来していると感じていました。ブランディングとは、顧客の印象設計です。決して直接コントロールできない顧客の心に対し、あらかじめ自分たちが伝えたいと願う印象を生み出そうと備えて作り込む仕事です。これには、顧客が明確であることが欠かせません。それが「橋のような」サービスやビジネスの難しいところです。橋を渡っている人を眺めるだけでは、誰の背中を押すべきか、誰が一番大切にすべき熱狂的なファンなのか、わかりづらいのです。橋の往来のなかから、自分たちがエンパワーメントすべき人を見つけなければならない。 
TimeTreeもきっとそういう状態ではないか、と感じていました。そこでTimeTreeはこの10年、どのような方々に愛されているのかを考えた結果、TimeTreeがエンパワーメントするべき人は「誰かとの明日をちょっとよくしようとする人」ではないかと、最初にお話をしました。

NEWPEACE シニアブランドディレクター /  マネージャー 山田 佑樹氏

深川:山田さんのお話を聞いて、“気が合いそうだな”と思いました(笑)。私たちのことをかなり深くリサーチしてくれていると感じましたし、「誰をエンパワーメントするのか?」という問いはとてもインパクトがありました。

──パートナー候補にどのようなものを求め、期待していたのでしょうか。
 
深川:自分たちで策定したMVVがややこしかったり、ふわっとしているという課題はわかっていましたが、でも、どうすればいいのかはわかりませんでした。そのためパートナー選びの基準としては、自分たちの中には無いものを形にしてくれる人たちがよいと思っていました。
 もちろん、サービスそのものもややこしいという自覚がありましたので、私と共同代表の2人の間でもずっと「これはどのようなサービスになっていくのか」と議論を重ねてきました。その10年の間蓄積してきたものをすべて出し切りたいという思いもありました。
 
山田:実際にお会いしてお話しをさせていただくにつれ、土台部分の思想やサービスに込めた哲学について、これまで共同代表のお2人でたくさん議論を重ねてきたことはより理解できましたし、TimeTreeという会社の雰囲気も感じ取っていました。蓄積された10年分の情報量がすごかったのですが、それは私たちにとってはインプットする材料でもあるので、嬉しさもやりがいも感じました。

よくあるのは「何もないので形を与えてください」「中身は決まっているので、これが世の中に広がる方法を提案してください」という依頼ですが、私個人としては、これら2つのケースについては積極的にはお受けしてきませんでした。しかしTimeTreeのみなさんの場合は、言わんとしている大切なことはあるが、“その本体はなんだろう”という気持ちにさせる状態がありました。

例えばカレンダーアプリは他にもたくさんあるなか、“TimeTreeの思想でカレンダーサービスをやっているなら、この点は考えてないのではなく、答えが出ていないだけだ”と思えるようなことがたくさんありました。ふたを開けてみればとても長い時間積み重ねた情報があったので、“この中を探れば、きっと答えがある”と思っていました。

ブランドディレクターとしては、当然、仕事として受けた以上はどんな状態でも徹底的に取り組みますが、それ以上にTimeTreeのプロジェクトは強く“やりたい”と思いました。振り返ってみても本当に特別なプロジェクトで、私がその後、さまざまなクリエイターを招聘するときも「間違いないから一緒にやりましょう」と自信をもって伝えていましたね。

TimeTreeはユーザー数から見ても、勢いのある、日本を代表するようなスタートアップです。私たちの会社と同い年ですが、NEWPEACEのマネージャーとして見ると、ずっと先を行く先行者にも見えます。しかし一方で、その勢いのままギラギラしているのではなく、成熟したような雰囲気やコミュニケーション、オープンなフレンドリーさがあります。勢いと成熟さとフレンドリーさの3つが同居しているのがTimeTreeだと思います。

振り返ると、TimeTreeのフレンドリーさというのは単純に、プロジェクトを楽しく進めよう、というものではないと感じています。より優れたアイディアをチームで生み出すために、ノイズとなるものを全て取り除こう、という強く、静かな工夫でした。そのような環境で、TimeTreeという会社を24時間考えているメンバーと、そのブランドを24時間考えているメンバーが、同じテーブルにつくことでブランディングは成功しますが、今回のプロジェクトは絶対にそれができると感じたので、ぜひご一緒したいと思っていました。TimeTreeの皆さんが、パートナー企業を含め、誰かと新しいものをつくることに長け過ぎている、ともあらためて思いますね(笑)
 
深川:私も山田さんの話を聞いて共感して、一緒にプロジェクトを進めたいと強く感じました。比較検討していた会社さんの提案は、組織開発の側面が強かったのですが、今回は次の世の中でブランド発信のイメージがより沸き、目線も揃っているように感じたことから、迷うことなくNEWPEACEを選択させていただきました。

未整理だった概念が議論のなかで明確になる“楽しさ”

 
──どのような段階を経てMVVを策定していくのでしょうか。
 
山田:最初は経営ボードメンバーにインタビューをさせていただくところから始めました。事前に収集した情報はたくさんありましたが、あらためてインタビューしようということで、2〜3週間かけてお話を聞いていきました。TimeTreeは既存のカレンダーアプリに比べてやさしいアプリです。はじめに突き詰めたのは、TimeTreeのユーザーは、ITサービスをバリバリと使いこなすような人ではないが、TimeTreeの価値に気付くのは、ITサービスを使いこなしている側の人間だ、という点でした。だからこそ、本来ターゲットであるより広い顧客層が“TimeTreeってなに?”と思う。その顧客層の気持ちに共感していたので、インタビューを通じてそれを明らかにしたいと思っていました。
 
深川:“こんなに深くヒアリングするんだ……”と、正直驚きました。普段から私は、“こんなことを言ったら変に思われるかな”と、話すことをセーブしがちなのですが、山田さんからどんどん話を引き出されるので、ヒアリングが終わった後は恥ずかしさを感じましたね(笑)。
これまでは私自身の価値観や哲学的な背景と、会社やプロダクトに反映しているものが、私の中で区別がつかなくなっていたので、私自身の価値観についてはあまり話さないようにしていましたが、山田さんはそういったものも全て一旦置いて、全て話してもよいという空気にしてくださいました。また、山田さんが都度「こういうことですよね」と確認してくださったので、こちらも整理しながら話すことができてラリーも続いたのだと思います。
 
山田:おっしゃる通り、当初ご自身の考えと会社やプロダクトに関する話を交えないようにしていると感じていました。しかし、わたしはその考えや思いを中心にデザインしたいと考えていたので、一旦すべて出してもらいたいとお伝えしていました。それらがつながるはずだという直感があったんです。
また、私たちは丸腰でインタビューをするというより、「こうだと思う」「これは違いますよね」というたたき台となるような意見を持って行って、しっかり討論が生まれるようにもしました。“さまざまな方向に振り切ったTimeTree”をお持ちすることで、議論が活性化したように覚えています。そのなかには、私が考えるTimeTreeも含まれていました。
 
深川:山田さんが考えるTimeTreeは、私たちの感覚と近しいものでした。また、資料をモニターに映しながらお話ししてくださるのですが、資料内でもコピーがたくさんあったり、「YES」か「NOT」かとはっきりと示されていたりするので、ただ話すだけでなく感覚的にもわかりやすかったです。言葉が明確になる感覚でした。

NEWPEACEがプロジェクト初期から感じていた「TimeTreeの雰囲気」は、人々の『この人生から旅立つ日』までを想像しながらも、すこし先の未来でちょっといい明日を手にできるように、という哲学に由来すると整理され、「メメント・モリとやさしさ」という一言にまとめられました

議論の時間は、とても楽しかったですね。自分たちでもうまく整理できなかったけれども、ディスカッションを経て、“わかると楽しい”という感覚になっていました。“これが違うと思っていたから、実際には自分たちはこうしていたんだな”といった発見もありました。社内外の関係者に、表面的な言葉を伝えるだけでは意味がありません。今後、私たちがMissionに内在するストーリーを語るうえで、どれだけ深くインストールするか、腹落ちするかがとても大事になってきます。そういった意味で、山田さんとの対話は非常に重要な時間だと思っていました。
 
山田:ミーティングには、TimeTreeメンバーの観察だけに集中しているメンバーも参加しています。毎回議事録を取っていますが、実はその議事録にはTimeTreeメンバーの表情や、「あそこで何度か頷いた」「あそこで表情が明るくなった」なども記録されています(笑)。ミーティングはみなさんの感性を刺激して、フィードバックを戻してもらう時間でもありますね。

何度も対話を重ねながら、私たちが提案したキーワードが「誘おう」という一言でした。これは決して軟派な表現ではなく、「一緒に生きることを誘おう」というTimeTreeの哲学を昇華する表現につながると感じていました。
プロジェクト初期から感じていた「TimeTreeの雰囲気と哲学」は、ユーザーの人生全体を想像しながらも、人生の時間を徹底的にハックするのではなく、人生は長いから、ちょっと先のすこし楽しい予定が、人間が生きるにちょうどいい希望になる、というやさしさだと感じていました。

この雰囲気や哲学を、自分たちが大切にでき、ユーザーにも届けられる言葉にして、誰をエンパワーメントすべきかという観点を加えて、「誘おう」という一言を提案しました。

深川:これまで私たちが中心に据えていたのは「時間をつなげて」という概念でしたが、「誘おう」というワードだけを初めて見たとき、“ずっと続く日常という感じがしない”と思いました。すべてを否定的に見ていたわけではないのですが、ユーザーの毎日、ずっと続く日常を支援したいという思いは、この10年間ずっと大切にしてきたことでしたので、そのことを取りこぼしてはしまわないかと、時間をかけて私自身が解釈をしたいと思ったんです。意識的に自分に腹落ちさせるのではなく、私自身の中で違和感がなくなるか、はっきりするまで思考を続けたいと思っていました。
 
山田:私たちからも提案のあと、みなさんの言の葉に乗せたときに、どう感じるか、はMTGの後の期間で感じ、教えていただきたいと伝えていました。深川さんが「家に帰って、パートナーや家族に話してみようとしたときに、ちゃんと口をついて出てくるかを検証したい」とおっしゃっていたのが印象的でした。

──実際に自分の言の葉に乗せることが重要なのですね。
 
深川:体重を乗せて話すことができるか、という感覚ですね。いろいろな人を巻き込んでいくためには、とても重要なことだと思っています。単に自分が納得して話すというレベルではなく、納得の先にあるところまで到達する必要があると感じ、少し時間をもらって検証をしたいと思いました。
 
山田:結論から言うと、これがMVV誕生前夜となる大切な時間でした。「誘おう」というアイデンティティワードを中心として、伝えられること、伝えられてないことが整理され、世界がバァーッと広がっていきましたね。その広がった世界を、MissionやVisionで構成し直したという感覚です。
 
──深川さんのなかで違和感がなくなったのは、どのようなタイミングだったのでしょう?
 
深川:山田さんからなんども「外の風に当てて考えてください」と言われて、「誘おう」を意識して日々を過ごすと、目に入ってくるものの中に“こういうことか”と思えるものが出てきました。共同経営者とも「誘おうって、こういう意味にもとれるよね」「この広告も、言ってみれば誘おうっていうことだよね」と雑談を交わしました。それが自分の中で解釈を作る時間だったと思います。
 
山田:「誘おう」が言葉足らずなのは、例えば今週末にバーベキューに誘うといったような短期的な誘いだけを想起しやすい日本語であることでした。TimeTreeは、家族などの濃いつながりのある人々の間で愛用していただいていますが、そういった関係性では短期的な誘いばかりが生まれるわけではありませんよね。

「誘おう」が軽くなりすぎるのだとしたらよくない、というのは私もずっと思っていました。しかしみなさんとディスカッションを重ねていくなかで、「あの人と共に生きる未来へ誘おう」と言ってあげることで、予定を共有する側が、予定を入力するための時間や思いやりや不安といった、ひそやかな努力を肯定してあげられると気がつきました。誰かとのカレンダーに予定を入力する人は、それは単純にタスクをさばいているのではなく、誰かと生きようとしている行為だ、と肯定してあげることが、私が考えていたTimeTreeの優しさにつながっていくと確信していきました。この「あの人と共に生きる未来へ誘おう」はその後、TimeTreeがこのように人々の背中を押すと世界に約束するVisionとなり、それはブランドムービーのコンセプトにもなりました。
 
深川:「誘う」について考えているときに、こんなことがありました。私の家族ともカレンダーを共有していますが、妻が特に事前の相談もなく、共有カレンダーに「伊豆」と入れてくれていたんですね。それは、子どもたちの春休みの期間でした。それを見たときに、“誘うとはこれだ!”と思いました。カレンダーを共有しているおかげで、そのとき私の予定も空いているのがわかっていて、子供も春休み期間というのもわかっている。なので仮で予定を入れておいて、それが家族間でなんとなく行くことになっていく。そういうことを可能にしているのがTimeTreeなんだとあらためて思いました。
 
山田:この時期のあとすぐ、MVVは完成することになります。TimeTreeが掲げていた「時間がつながる」という概念は、なかなかユーザーに説明が難しいものでした。しかしそれを伝えるためにももっとわかりやすく、自分も動いてみたくなるようなワードとして「誘おう」が各所にきれいにはまっていきました。社内の行動判断軸であるValueの全ても、この言葉に関連して描かれています。これは偶然に解決したという感覚でなく、必然だったと思います。TimeTreeのメンバーの思いがあってこのアプリがありますが、その思いが、世の中の印象とは差がある状態に対して、丁寧に組み立てなおせば、つながりが生まれてきた。この部屋(プロジェクトで常に使ったTimeTreeオフィスの会議室)の中にあるものだけでつながった、というイメージです。

──新しいMVVができあがって、率直にどのように感じましたか。
 
深川:とてもスッキリしました。誰かを誘おうとしている人は、言ってみれば半ば私たちの仲間だったんだな。そんなあらためての発見もあり、とても新鮮でしたね。
 
山田:ユーザーが6千万人弱いるとして、その3分の1が“誘い人”だとすると、まさに2千万人の人がどこかで誰かにTimeTreeの利用を誘ってくれているのです。TimeTreeのメンバーでも関係者でもないのに、2千万人が世界中で誰かを誘っているそのエネルギーの量が、TimeTreeの強さの根源だと思いますし、その構造が明確になった感覚です。

新MVVに沿って各自が考え行動する組織へと進化

 
──新たなMVVが策定され、TimeTreeという会社は今後どのように変わっていくと考えていますか。
 
深川:新しいMVVのもと、組織文化はもちろん、ビジネスのスタイルも少しずつ変わっていくと思っています。プロダクトを作るうえで、最初に声を挙げる人、すなわち“誘い人”にいかにフォーカスするかによってプロダクト作りやビジネス作りが変わります。例えば、カレンダーを共有して誰かを誘う人は、おそらくアクティブな人なので、例えばアミューズメント施設やテーマパークをターゲットに「誘う人」に対して広告配信する広告メニューが受け入れられるのではないかという仮説が生まれます。
 
──自分たちのビジネスの在り方が再定義されて、実際にそれをコアにしてビジネスを進めていくということですね。そこまで期待していましたか。
 
深川:MVVの刷新が当初の期待でしたので、そこまでは考えていませんでしたね。「誘う」という言葉で違う価値や切り口、何をすべきかが見えてきたという感覚です。そして何よりも、この策定期間そのものがかけがえのない時間になったという感覚です。ディスカッションでのアウトプットも楽しいですが、そのプロセスも楽しみでした。私は毎週末「翌週の楽しみな予定」を書いてから休むのですが、いま毎週「NEWPEACE」と入っています。それほど、このプロセスが楽しく、大切なものでした。ディスカッションの中で自分たちの存在意義がより明確になり、よりわかりやすくなったことは、パートナー企業、新メンバー問わず、仲間を集めていくためにも、端的な言葉でわかりやすく説明できる状態につながっています。 

山田:ブランドは、適切な人たちから共感を得られるように作られていることが重要です。例えば会社がミッションを達成していくにあたって重要な採用の面では、TimeTreeが目指す未来に共感するメンバーが集まることに繋がりますし、投資家が見たときにもTimeTreeには単に人々の予定データが詰まっているから、そのビックデータに価値があると見るか、または、どのデータベースにも上がってこないような誰かを誘おうとしている人たちの判断や行動データが入っているからTimeTreeは魅力的だと感じるのか。これらは全然違うものです。そのため、TimeTreeが未来の仲間たちから正しい共感を得られるというのは、当初の対立項のないMissionと比べると大事なポイントだったと感じています。

私は常々、哲学とビジネスの行き来には限界があると思っていましたが、今回ほど哲学とビジネスの行き来がはっきりとロジカルに、かつ感性的に行われたプロジェクトはありません。その観点としても、とても特別なものだと感じています。

基本的には共同代表のおふたりの哲学を軸にしてはいましたが、その後はTimeTreeのプロジェクトメンバー全員が参照できる判断軸を全員で作っていきました。その他に、私が新鮮に感じたのは、プロジェクトに招聘したクリエイターが、“本当に、深川さんに喜んでもらいたいと思っている”と言っていたことですね。もちろん全員プロですから、クライアントの満足は絶対ですが、これは少し異なる特殊な気持ちで、TimeTreeが作ろうとしている未来像への究極の共感だと思います。プロジェクト全体に関わる人すべて、所属や立場、職種に関係なく参照できる、ブランディングによって生まれた判断軸を作っていったことで、 全員がそれを信頼していました。

この判断軸は、TimeTreeメンバーの日常に続いていきます。これからTimeTreeは、「誘おう」をつくる会社になっていきます。すなわち現代社会の人々の時間感覚や、誰かと共に生きることに対する提案が出されていくということです。それはひいては今の時代の過ごし方の提案です。個人としても、ひとりで多忙を極める「恒常的な徹夜」な日々ではなく、誰かとの共生を前提に時間を育てる、そういう時代が来たらいいなと本当に思いますし、未来に必須な提案ですよね。このブランディングは単なる言葉の策定ではなくて、人々の時間の過ごし方をちょっと変える、とても社会意義のあるプロジェクトだと思っています。

深川:Missionが根底にあり、そこに共感し、実現するためにメンバーがこの会社に集まっていると思っています。社内でもよく「Missionは旗印」と言っていますが、Missionとそこへの共感をもとに物事を実行したいと考えています。働き方が多様な時代にわざわざ集まっているからこそ、それぞれがMissionとValueに沿って考えて動く組織にしていきたいですね。そして、このMissionにすべて紐づいている形で、全世界で、“TimeTreeがなかったころはどうやって予定を管理していたのかが思い出せない”という未来を創っていけたらと思います。

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