優しい嘘と認知症

認知症の人に接するときに、嘘をついたことがある人は少なくないのではないだろうか。もちろん騙そうとしてではなく、方便として。

いわゆる帰宅願望がある方には「今、迎えの車の準備をしてます」「もう少し待っててください」など。あの手この手で、本当の帰宅の時間まで足止めの方法を探る。もっと上手い嘘はないか、他のスタッフのように上手い嘘をつけるようになりたい。???こんなことは思わないだろうけど、心当たりがある人いるかもしれない。

「これは嘘ではない」、認知症の一人の現実に合わせているんだと自分に言い聞かせる。「これは嘘ではない」、不穏にさせないためにしかたないことなんだと何度も反芻する。実は嘘をつかれた人も嘘をついた人も傷ついているんだ。

帰宅願望は、今いる場所に自分が存在してはいけない。あるいは居場所じゃないと思うから帰りたくなるんだ。帰る場所は絶対的に自分が必要とされていた家族がいた頃(時代)に返りたい人が多いと言われている。親に愛されていた頃や、絶対的な愛によって子どもに必要とされていた時代に。

でもでもでも、介護・医療スタッフは認知症がある人の帰宅願望を叶えてあげることは出てきない。施設契約で約束の日時までお預かりするという制約があったり、時を超えて家族になることなんでできないからだ。

だから、優しい嘘をつくんだね。「かあちゃんがまってるんだね」「子供が心配してるね」って。「一緒に歩こうか」

言った方も言われた方も傷ついてる。

「ここに居てももいいんだ」ってそう思ってもらえる日まで。

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