豆話/肺に沁み込む冬の朝
冬の朝はきらめく銀色をしている。冷たく静まり返った空気。春のあたたかさ軽やかさ、何か始まりそうな夏、心揺るがし泣きたくなる秋、そのどれとも違う風。空気はずしりと重く、吸い込むそれは肺を凍らせる勢いがある。
厳しい寒さが身体をふるわせる。まだあけきらない空は不可思議な色合いだ。赤、青が混ざり合い紫に。白と橙が手をつなぎ黄色く輝く。雲はまだ白さを隠した灰色だ。灰色の中、目覚めはじめた太陽が光を放つ。ゆっくりゆっくり日はのぼる。
冬の朝、全てを包み込むのが銀色だ。とがった冷たい風、氷のような空気、光を届ける太陽。どれも色がついているが、うっすら銀色の幕に包まれている。
銀色をした冬の幕がゆっくり開き、朝がやってくる。深く深く深呼吸をしてみる。触れることのできないその幕をどうやってあけるのか。
肺から吐き出す呼吸が幕を揺らす。白くなった息は冷たい空気よりもあたたかい。銀色に編まれた幕をゆっくりゆっくりあたためる。繰り返す深呼吸。銀色は肺に沁み込んでいく。冬の朝が身体をめぐる。吐き出す呼吸は銀色をなだめるように広がる。やがて銀色の幕は溶けてゆくのだ。
冬の朝、銀色を身体にまとって今日も1日がはじまるんだ。
澄み切った冬の朝が好きです。
朝は季節問わず大好きな時間です。特に夏の朝が好きですが、冬の澄み渡る重い空気がお気に入りです。あったかい部屋を出て寒さに後悔しつつ、でもあたたまった肺に冷たい風が吹き込むのが清められる気がして。