あれもこれも「愛着障害」って言うけれど
あれもこれも「愛着障害」って言いますけど,診断基準を覗いてみると,愛着障害の人はそんなにいないはずなんですよねってお話です。
はじめに
前提として,精神疾患はアメリカ精神医学会が作成した『精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版』(DSM-5)によって定義されます。
いわゆる「愛着障害」はDSM-5の「心的外傷およびストレス因関連障害群」における「反応性アタッチメント障害」と「脱抑制型対人交流障害」を指すと考えられますが,この基準がかなり厳しい。
以下,「反応性アタッチメント障害」と「脱抑制型対人交流障害」の基準をみていきましょう(※診断は医師にしかできません。本記事を読んで自己や他者を不用意に「診断」することのないように気をつけてください)。
反応性アタッチメント障害
反応性アタッチメント障害は以下のように定義されます。
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A.以下の両方によって明らかにされる,大人の養育者に対する抑制され情動的に引きこもった行動の一貫した様式:
・苦痛なときでも,その子供はめったにまたは最小限にしか安楽を求めない。
・苦痛なときでも,その子供はめったにまたは最小限にしか安楽に反応しない
B.以下のうち少なくとも2つによって特徴づけられる持続的な対人交流と情動の障害:
・他者に対する最小限の対人交流と情動の反応
・制限された陽性の反応
・大人の養育者との威嚇的でない交流の間でも,説明できない明らかないらだたしさ,悲しみ,または恐怖のエピソードがある
C.その子どもは以下のうち少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している:
・安楽,刺激,および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされていることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたははく奪
・安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる,主たる養育者の頻回な変更
・選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる,主たる養育者のない状況における養育
D.基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる
E.自閉スペクトラム症の診断基準を満たさない
F.その障害は5歳以前に明らかである
G.その子どもは少なくとも9か月の発達年齢である
※留意点
1:2歳以降にネグレクトを受けた子供は診断されない
2:重度のネグレクトを受けた子供のうち,10%未満にしか生じない
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いかがですか?
かなり厳しい基準だとご理解いただけるかと思います。
1つ2つはあてはまることがあっても,基準すべてとなると…
脱抑制型対人交流障害
続いて,「脱抑制型対人交流障害」の基準をみてみましょう。
「脱抑制型対人交流障害」は以下のように定義されます。
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A.以下のうち少なくとも2つによって示される,見慣れない大人に積極的身近づき交流する子供の行動様式:
・見慣れない大人に近づき交流することへのためらいの減少または欠如
・過度に馴れ馴れしい言語的または身体的行動(文化的に認められた,年齢相応の社会的規範を逸脱している)
・たとえ不慣れな状況であっても,遠くに離れていった後に大人の養育者を振り返って確認することの減少または欠如
・最小限に,または何のためらいもなく,見慣れない大人に進んでついていこうとする
B.基準Aにあげた行動は注意欠如・多動症で認められるような衝動性に限定されず,社会的な脱抑制行動を含む
C.その子どもは以下の少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している:
・安楽,刺激,および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
・安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる主たる養育者の頻回な変更
・選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる,普通でない状況における養育
D.基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる
E.その子どもは少なくとも9か月の発達年齢である
※留意点
1:2歳以降にネグレクトを受けた子供は診断されない
2:重度のネグレクトを受けた子供のうち,20%未満にしか生じない
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こちらも同様に厳しい基準が設定されていることがお分かりいただけたでしょうか?
特に,「留意点」の2歳以降にネグレクトを受けた子供は診断されないがあることにより定義から外れる例が少なくないように推察します。
おわりに
自分に対して「私は愛着障害かも…」と考えるのは個人の自由ですので,私があれこれ言うことではありません。
一方で,他者に対して安易に「あの人は愛着障害かもしれない」ということが的外れである可能性が高いことは,このnoteを読んでくださった方にはわかっていただけるかと思います。
もし他者に対して「愛着障害」を使って説明しそうになっている自分に気づいたときには,本noteを思い出していただけると嬉しいです。
おわり