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オジサンの独り言「あー、ぅんま!」からの発見 エセ失恋旅行で行った金沢の思い出

「そうだ、金沢行こう」

なぜ金沢、と聞かれても理由なんて説明できません。
『陸路と空路どっちも行ける』『車が無くても観光できる』『京都行きたいけど遠いしインバウンドやべーから静かにジャパニーズ文化を味わえる』『シンプルに、行ったことない』。こんなもんで十分でしょうか。翌日の飛行機とホテルを手配、滞在時間26時間の弾丸だけど、気分転換した気になるにはちょうど良い。

“気分転換”。そう、いまの私には「あー気分転換した!」という分かりやすいスイッチが必要だった。

「あ、これ別れたほうが良いのかな」
ちょっとモヤモヤしたことを上手くパートナーに伝えられず、すぐその結論に至る悪い癖。それが分かっているから、ちょっと距離を置くために思い立った。気分は失恋中。往路の飛行機はひたすら宇多田ヒカル(なぜだかセンチメンタル度が高まる)を聞きまくった。

目的もなくひたすら歩き回って「よっしゃ、金沢行って来たぜ」というアリバイ作りを黙々と。その間も、アンテナは地元の旨いメシ、旨い酒がいただける店探しに終始張り巡らされている。行きついたのは、ホテルから徒歩3分の居酒屋だった。

店主が漁師兼・板前兼・看護師というなんじゃそら!なスーパー男子(しかも同い年)。開店と同時にのれんをくぐり、カウンターに座って10分後には8割が埋まる盛況具合。「照り焼きにすんのか!」ツッコみたくなる素晴らしい分厚さのブリ刺しを頂きながら、普段は飲まない日本酒を喰らう(いつもビール→ハイボール→ハイボール→ハイボー…)。すると、隣に近所のサラリーマンらしきオジサマが1人飲みでやって来た。注文したのは一人分の刺し盛りに、メガジョッキビール(1リットルあるんだぜ)。アメージング店主との会話を聞く限り、常連さんみたい。

いいなあ、地元感あって素敵だなあ。ここの誰も私のことを知らないし、興味も持っていない。最高だなあ。透明人間に徹するつもりが、「あー、ぅんま!」隣から聞こえた小さい、小さい独り言に思わずふっと笑ってしまった。

美味しいご飯を、美味しそうに食べる。意外とそれって、普通に生きているとやってない。

食べ物を口に入れて、かんで、飲み込んで、おなかに詰める。作った人(自分だったらどうでもええねんけど)、魚を獲った人、野菜を育てた人、運んだ人。その顔を見て、あるいは想像して、食べた食事は何回あるだろうか。

いつだかテレビで、毎日毎食、完全栄養食だけで生活する人が言っていた。「食べたらみんな便になる。だから、食事にお金をかけるのは、お金で便を買っているのと同じ」。うーん、確かになあ…と思って、そこから数日は大好きなコンビニスイーツが便に見えた(オイ)単純なわたし。何にお金をかけるか、何に価値を見出すかは人それぞれだもんね。

笑ってしまったことがきっかけで、オジサマには透明人間でなくなったわたし。楽しく飲んで食べてしゃべって3時間、5000円ちょっとの飲食代は便に払ったわけではないと思う。

「金沢に生まれて良かったわあ…」

。イカをもしゃもしゃしながら、ふくふくと笑うオジサマ。気分転換、ちゃんとできたかもしれない。


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