コーヒーは飲めないけど、カフェをひらきたい
「趣味はカフェ巡りです」とかそんな言い方できるほど、私はカフェに行ったことはない。
大体、私はコーヒーが飲めない。
それでも私は、いつか、カフェをひらきたい。
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2023年春クールのテレビ朝日系ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』が大好きだった。
第2話、主人公岸田サチ(清野菜名)は、仕事帰りにあるカフェの前を通りかかる。店員に声をかけられ、「カフェに行く人じゃないんで」と断るサチ。その後ろでは、店内でおしゃれな女性二人が笑顔で会話している。
そんなシーンがあった。
レストランでもなく、居酒屋でもなく、カフェ。街中にはたくさんあるけれど、一日三食の生活に必要不可欠ではないのが、カフェ。友人とご飯を食べた後、話し足りなくて残りの時間を過ごす居場所になるのが、カフェ。
私もたぶん、「カフェに行く人」ではない。
カフェの飲み物は、高い。喉が渇いているならばペットボトルを買った方が安い。カフェに滞在して勉強や仕事をする人も少なくないと思うが、私は周りに人がいたり音楽が流れていたりする環境では作業に集中できない。
私にとってカフェは、「余白」だ。
友人との時間の「もうちょっと」を過ごす場所。そして、社会の中で止まらぬ時間に「ちょっと待ってよ」と言いたくなる時、逃げ込むのが、カフェだ。
カフェの飲み物の値段が高いのは、時間を、余白を、買っているということなんだと思う。
人生で初めて自分の意志で入ったカフェを覚えている。
高校生の頃、進路や両親との関係性に悩んだ。どうしようもない気持ちになった時、予備校をサボって過ごしたのが、駅前のタリーズだった。慣れない注文に緊張したが、仕事をする大人たちに混じって、何か甘い飲み物を飲んだ。お店に入る前に買った新しいノートに、ひたすら想いを綴った。
目まぐるしく走り続ける社会。「ちょっと待ってよ」と言いたくなる時だってある。余白を求めたって良いはずだ、と私は思う。
そんな余白を、私は守りたい。傷だらけで戦う戦士が、深呼吸できる、そんなカフェで。