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『十二国記 華胥の幽夢』とかいうクソデカ感情の嵐が去ったと思ったらまたクソデカ感情の嵐が来るのを5回やる短編集
こんちには!!
唐突に関係ない話で申し訳ないんですけど、俺は冷静かつクールにしてニヒルな男なので普段から感情とか動かないんですよね
涙……ってなんですか?
え、目から汁が……? それなんかの病気とかではなく……? 眼科行く……?くらいのテンション
泣ける映画で泣かない男選手権・東海代表選手
遅筆マンじゃなくて絶対泣かないマンに改名しろと泣かない界隈では有名
何度も見てる「クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲」では累計で20回程度しか泣いてないし、「君の名は。」もまぁ三回見に行って三回泣いてBlu-ray &DVDBOXを買っただけ、「アイの歌声を聴かせて」は劇場で5回泣いた後、帰りのバスのなかで思い出し大号泣してしまって近くのおじさんに「ご、ご病気ですか?」ってガチで心配されて本当に申し訳なくなった……まぁ、その程度に感情が動かない
そこのところをご理解いただいた上で言いたいんですけど、「華胥の幽夢」やばいっす
この感情を忘れたサイボーグ戦士である俺をしてクソデカ感情の去来にショック体勢とらざるを得ない
一本目を読み終えて、なんかすごい感情の嵐が来たな……と思ったら二本目でまた嵐来る、ってのを5回やった
不由美はこんな感情大タル爆弾5個セットを670円(税別)で売りつけてなにがしたいの?テロ?
というわけで、華胥の幽夢について本日はクールに語らせていただきます
華胥の幽夢あらすじ
王は夢を叶えてくれると信じた。だが。 才国の宝重である華胥華朶を枕辺に眠れば、理想の国を夢に見せてくれるという。しかし、采麟が病に伏すいま、麒麟が斃(たお)れることは国の終焉を意味する国の命運は──「華胥」。雪深い戴国の王が、麒麟の泰麒を旅立たせ、見せた世界は──「冬栄」。そして、景王陽子が親友楽俊への手紙に認めた希いとは──「書簡」。王たちの理想と葛藤を描く全5編。
冬栄
泰麒は〜、という書き出しから始まる序盤から(読者の)テンションフルマックスで始まる泰麒主人公のお話
ただでさえ泰麒に会いたくてしょうがない読者にいきなり泰麒を差し出してその心臓に深刻な一撃を与える小野先生の神の書き出しに震えが止まらない
プールに入るときは足から徐々に冷たい水をかける、という健康を鑑みた慣習を捨て去った幕開けのせいで、デスノートより冬栄が死なせた命のほうが多いと俺のなかで話題に
小野先生は小説の神様なので当然と言えば当然なんですがやっぱり短編もうま過ぎる、というのが初読時の感想でした
風の海〜、で王を選んだその後の泰麒が「麒麟の役目」について悩む、という前回語られたテーマである「麒麟」について拡張するお話がこの「冬栄」だったように思います
ここで重要な役割を果たす廉王の素朴な人柄から出るセリフがすごく良い
小野先生は心に響く台詞がめちゃくちゃ上手い
泰麒を保護者目線で見守る俺からすると、景麒に続き泰麒の兄貴枠のライバルがまた増えやがってという気持ちですけど、泰麒を見守る兄貴枠なんてなんぼいてくれてもいいですからね
…………そして!!!!!
本題なんですけど、今回登場した廉王と廉麟、好き
好きっていうか……ごめん、超好き。付き合おう。俺とではなくお前ら二人が
いえね、俺は重度のカプ厨なんですけど、その俺のカプ厨の魂の真ん中にド刺さりしたのが廉王と廉麟なんですよ!!!
俺に感情がないっていう冒頭の話はマジでどこに行ったんだよ!!!!
語ると長くなるので語りませんけど、大変好みなのにあまり出番がなさそうな二人なので、もし今後変わらず出番がないようならば己が二次創作で自己供給する他あるまい……という気持ちでいます
それくらい刺さった
乗月
続いては「乗月」なんですが、この短編について語りた過ぎてnote更新したまである
俺の十二国記における大地雷原・祥瓊
彼女の転落人生の火付け役こと、月渓が主役のこの短編には本当に俺の情緒をかき乱されました
もう感情ないって話はこの際忘れて欲しい
自分ではあまり自覚なかったけど、祥瓊は自分の中で相当デリケートな存在らしく、とりわけ月渓と仲韃について書かれたこの短編は本当〜〜〜〜〜〜〜っにいろんなことを感じざるを得なかった
万里はシリーズで今のところ一番大好きな巻なんですが、消化不良で終わったなと思った点ももちろんあって、
・祥瓊が珠晶に窃盗を働いてしまったことへの未精算
・因縁ある月渓とのアレコレに関する落とし所
・一面的にしか描かれなかった仲韃について
これらを一気に解決し、かつ月渓や仲韃に奥行きをもたらした物語が乗月と言えるでしょう
これは解説において會川昇さんも仰っていますが、十二国記はファンタジー作品で、僕らとは違う世界の倫理で生きる人物が数多く登場します
が、描かれる彼らの葛藤は現実世界を生きる平凡な僕らの人生のどこかへと照射されているように思います
架空の世界の物語だけど、そこで語られる苦悩は全然架空じゃない
自分の人生に無関係な本にはあまり興味が持てないタイプなので(なので、小説を読む時は自分の共感できる場所を見つけながら読むんですが)、翻って自分がどこかで悩んだ覚えのあるなにかを描いてくれる十二国記が大好きなんですよね
敬愛する仲韃に理想を見て、その理想から他ならぬ仲韃が離れていくことの哀切から大逆を起こした月渓
万里では、娘の前で王の首を落としたくせに祥瓊に情けをかける、という姿がなんだか俺には半端に見えて強烈な反感を覚えました
「人殺しはしたけど娘を殺すほど道徳は失っていない」と言い訳したくて情けをかけているようにしか見えなかったからです
ですが、この乗月ではそんな月渓のバックボーンが語られ、仲韃を敬愛していたこと、諫言し仲韃を変えてあげたがったがそれも叶わず、結局は殺すことしか出来なかったことへの強烈な罪悪感が語られます
一方で、新しく描かれた仲韃の人となりには、天に選ばれた理由にもそこから失道した理由にもちょっと納得せざるを得ない……と思うほかありませんでした
決してただの暴君ではないけれど、愚かな面があるのは否定できない
形ばかりの清廉さに納得してしまうところがある、という作中人物の評価はそのまま祥瓊に外界のことを何も知らせないまま育ててしまった父親としての姿勢を悲しいまでに裏付けているように感じます
何も知らなければ、何の罪もなく生きられるし、汚れようがない
世の中の汚い部分も、本当は汚い自分も見つめて、なお堕落しないでいられるのが人の誠実さや正義というもののはずで、ただ綺麗な水のなかで育っただけで得た清廉さはただの形だけのものでしょう
その清廉さは、常に愚かさとセットのものだからです
けれど、その上辺だけの清廉さを愛してしまう仲韃の愚かさを軽蔑するのも難しい
その愚かさも実は清廉さの一つだったりするからです
小野先生の人物描写は常に奥行きがあって好き嫌いで語りきれないことが本当に多い
そして、そんなふうに育ったはずの祥瓊が旅の末に心から反省し、陽子に自分の過ちを隠し立てすることもせず命懸けで珠晶に謝りに行く
そんな姿に「人は変わる」と仲韃を変えてあげられなかったことを悔いる月渓が勇気づけられる……という筋に俺の情緒はもうだめ
この乗月を読んで俺が流した滂沱の涙が流れ込んで出来たのが木曽三川という伝承はあまりにも有名
俺の誇張、もう行くところまでいっちゃっていよいよ神話の領域に突入しとる
というか祥瓊のことになると語りすぎじゃないですか俺?
書簡
今回の癒し枠こと、陽子と楽俊の書簡形式で綴られる良い短編
古典文学オタクなので、こういう書簡形式の小説懐かしいな〜って思いました
やっぱこの二人はいい。十二国記を代表するバディのひとつ
慶は陽子と楽俊が雑談してるだけのラジオとか国営放送して
久川綾さんと鈴村健一さん(アニメ版キャスト)のアニラジなんてもう覇権コンテンツじゃん
さておき、これはXでも触れたんですけど…………陽子ちゃん、ちょっと箸置いて?
お母さんの話聞いて?
あのね、わかるのよ
楽俊はたしかに一番つらいときに親身になってくれた男の子だもの、そりゃあ大好きよね
でもね?
元号に名前組み込んじゃうのは違うと思うの
赤楽って……
慶国民をガッツリ巻き込んでそんなpixiv大辞典に載ってるCP名みたいな元号に踏み切るの、それはお母さん違うと思う
あと陽子ちゃんは夢見る乙女だから想像もできないと思うんだけど、楽俊くんは誰にでも優しい男の子で、この前だって他の女の子(祥瓊)に優しくしてるところ、お母さん見ちゃったの……
というかさらっと楽俊を元号に組み込んでしまう無自覚クソデカ感情激重女の陽子、好き
俺は早く全巻読破して楽陽のファンアートとか漁りたい
十二国記は世界やその仕組みがドラマの根幹に据えられた話作りが多いですが、こういう素朴でミクロな話もよいですね
俺は「楽俊が大学を卒業できずにどんどんおっさんになっていって、年老いて死んでしまい、若い姿のままの陽子が悲しむ」みたいな未来だけは見たくないので楽俊ははよ偉くなって仙籍に入って欲しいです
その未来、たぶん陽子失道ルートに入っちゃうから……
華胥の夢
俺の感情を激しく揺さぶりやがる大型爆弾part2
これ読み終わった後にXで軽く感想呟こうと思ったんですが、流石に内容が内容なので常のようなネタっぽい感想も言えずどうしようか迷いました
結果、直でこのnoteを更新するという……
王の崩御の瞬間、というようやくガッツリと描かれたこの十二国記世界最大の悲劇についての短編で、とかく内容が刺激的だったと感じました
それはミステリ的な構成と血生臭さという点でもそうですが、描かれる内容があまりにも現実世界の政治的な部分を照射していて、それが刺激的……というか、ちょっと語るのが難しい
責難は成事にあらず、という短編を通してもっともずっしり来るこの台詞は、一定層に対するかなりの広範囲攻撃になり得るだろうなという点が、「どう語ればいいんだろう……?」と俺を悩ませる……
色々思うところはありますが、個人的には「責難は成事にあらず」という言葉もまた責難だと思います
そして、この言葉そのものは思想であって政治ではない
政治というのはもっと泥臭いもので、いまいる権力者や社会構造を責めるのなら、「じゃあどうすべきか?」という実体のない答えを探す努力をしなけきゃいけなくて……というこれさえ、ただの思想でしかなく、じゃあ世の中をよくするためになにから自分に出来るかをまずは考えなきゃいけなくて……と、めちゃくちゃドツボにはめてくる
やめてくれ
俺は人前で政治っぽいことあんま語らないタイプなんだ!!!
しかし、若者にこれを読んで欲しいという気持ちも大いにある……!!!
てか語るの難しいですってこれ!!!!
今日のところはこんな感じで煙に巻かせていただく!!!
いやすごい短編ですよこれは!!!成人男性をここまで困らせるんだから!!!!
帰山
そして「華胥」で心をグラッグラにされた後に差し出される、利広&尚隆の挿絵
なにこれ?十二国記におけるいい男アベンジャーズじゃん
ランチセット頼んだら高級ステーキと高級伊勢海老が一緒に出てきたみたいな……
皿にひとつあれば十分みたいないい男が二つ乗った皿出てきて心のエンゲル係数爆上がり。致死量のイケメン
泰麒を急に出したり利広と尚隆をセットにしてみたり、小野先生は読者の命を狙ってるの?
そこで贄とした読者の生き血をすすることで名作連発してるの?
個人的にはずっっっっっと気になっていた「不老不死になった人間の精神性」みたいなものが書かれた短編で、どちゃどちゃ満足しました
この点の書き込みがここまであんまりなかったように感じていたので、二人を通して見られたのが大変嬉しい
その内容についても大変興味深いやら色々不安になるやらで……
くっ!やめろ不由美!これ以上俺の心をかき乱すな!!!!
もうひとつ、利広から見た景王・陽子の評価が垣間見れたことも嬉しい
十二国記はめちゃくちゃ主人公が存在するけど、なかでも陽子はヒロイックな主人公だな、と改めて思いました
まとめ
というわけで、今回は「華胥の幽夢」を読んだわけですけど、総評すると小野先生いくらなんでも短編うますぎ!!!という点に帰結します
本編にあんま関係ないサイドストーリーなのかな、と思ったらガッツリ本編を拡張・補強する内容で読んでよかったと率直に感じました
特に乗月がそうですが、本編に登場したサブキャラに奥行きを与える短編はよいものですね
色々語りましたが、俺は祥瓊がいろんなわだかまりを解消させてくれて大変ホッとしました
キャラ的に推してるかと言われたら別にそこまで推してないつもりなんですが、とにかく俺の情緒を揺さぶってくるし人気投票だったらたぶんコイツに入れるんだろうなと思わされる祥瓊のその後が見れて嬉しい
そして、ずっと気になっていた戴国のその後の物語が少しずつ近づいているのを感じて楽しみなような恐ろしいような……
てな感じで、今回はこんなもんで!!!
ではでは〜!!