SWASHさんの講演会「セックスワーカーの安全、健康、権利 オーストラリアとアメリカの運動から」に行ってきました
SWASHさんの講演会「セックスワーカーの安全、健康、権利 オーストラリアとアメリカの運動から」に行ってきました。
http://swashweb.sakura.ne.jp/node/161
後日、SWASHさんから公式にレポートが行われるそうなので、ここでは聞きながらメモしたいろいろの走り書きのみ、取り急ぎ残します。
濃密な4時間でした。
なお「非犯罪化」についての話は、ほとんどカットしています。
現場のリアルの声として実際に聞けた、という点ではとても大きいのですが
論としては「あ、それアムネスティのQ&Aで読んだ」という点が非常に多く。
あのQ&Aは本当によくまとまっているので、
私の伝聞の記事よりも、あちらの一読をお勧めしたいです。
http://www.amnesty.or.jp/news/2016/0526_6062.html
1、オーストラリアのセックスワークとセックスワーカーについて
・スカーレットアライアンスは、ワーカーによる活動。オーナーは含まれていない。
(のちに質疑応答で語られましたが、オーナーが含まれていないのは、「オーナーとワーカーとでは利害の不一致が起こることがあり、ワーカーが抑圧されてしまう可能性があるため」「オーナーが入っていると、オーナーの利益の方によっているのでは、オーナーが実質を牛耳っている集まりなのでは、と思われてしまうことがあるから」とのことです)
・つながりやネットワークを大事にしている。自分たちの選択肢を増やすこと。ピアエデュケーションも行っている。
↓
ピアエデュケーターである「証明」が発行される仕組みについて質問したのですが(あれを聞いたのは私でした)、政府とパートナーシップを組み、示された条件をクリアしているか否かを定期的にチェックしている、とのことでした。
私自身が(セックスワーカーのではないですが、性教育の)ピアとして活動していたことがあり、その有用性については頷く点は強くあるのですが、
日本では「ピア」の概念はまだ(分野によりますが)そう強いものではなく、また行政が行っているピアエデュケーター養成講座で行なわれている内容といえば、概念的すぎてあまり役にたつと思われなかったことも多く、
しかし、行政からのものでないとなると(私は産婦人科医から1年ほどレクチャーを受け卒業試験とかも受けたのですが、もちろん専門職の人とかではないので当然ではありますが)信用性を低く見積もられることは少なくなく、また団体ごとにバラバラの基準でピアが名乗られていて、乱立や質の保証が見られないなどの問題がありました。
そこのとこ、どうしてるのかな、と思ったのでした。
政府がパートナーシップとなることで、いわゆる公的な信用性も高めつつ
現場について詳しい活動者が現場で活躍できる仕組みとなっているようで、いろいろ動きやすそうで素晴らしいな、と思いました。
・スカーレットアライアンス
自身が活動をするだけでなく、セックスワーカーピアの団体、非セックスワーカーも含めた活動団体、国、他の団体、などのネットワークをも担っている
ネットワーキング団体としての顔も持っている、ようにお見受けしました。
重複したフィールドで活動している任意団体が多々ある場合、それぞれの強みを生かしつつ、弱みを補いあい、強度を高め、
また効率よく活動していくためにも、
ネットワーキングを担う組織がある、というのは強いよな、と思いました。
(HIV/エイズ予防啓発の主に学生団体に関しては、以前wAdsというネットワーキング団体がありました)(現状不明)
・コンドームを持っていることが「セックスワーカーである」という証拠となってしまうので、コンドームは身を守るための道具なのに持ち歩けない、という話を聞いて
↓
「日本の若者を取り巻く現状!! そのもの!! なのでは!?」
みたいなことを思いました。
学校にコンドームを持って行って注意された・怒られた・学年集会が開かれた、みたいな話を中高生から聞くことがたびたびありましたし
また性感染症の予防啓発を行っていた際には、コンドームは「見せるな」「配布するな」「話題にも出すな」などいろいろ言われたことがありました。
本末転倒というか、もう、ねぇ。
なお数年前まで、九州には条例で18歳未満がコンドームを購入するのを禁止している自治体もありましたが、現在ではそのルールはたしか撤廃されていたはず。
また、少し話がズレますが、セックスワークの現場を厳格に規制し、条件を悪くすることで、自ら従事しようとするのは“愚か”なこととして、従事することを“予防”しようとしている……ように見受けられてしまう言説を時々見かけることがあるのですが、
そういうのは「危険だってわかってて自分で選んだんだから、自業自得、自己責任」と切り捨てる方向につながるので、私は反対です。
・セックスワーカーの性感染症検査を義務化することについては、ワーカーの間でも賛否両論ある
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推奨とか、受けやすいようにアクセスが整えられるとか(医者に説教されないとかそういうのも含め)なら賛成だけど、
強制的な検査、というのは私はどうにも賛成し難いな……という感じです。
でも、飲食業の人たちの検便とか、妊婦の初期検診とかと並べて考えるのであればあり、なのかもという気持ちもありつつ、
しかし妊婦検診だって必須のものと(実質必須だけど法的には)選択制のものとかあるわけで、
やはり強制というのは、するにはするなりの、相当の根拠や補償が必要よね、など思いました。
・“売春宿”が住宅地内にあることで、よい影響になることがある
↓
質問をしそびれました。どのような「よい影響」があったのか、また日本でのそれの実現可能性はどのような感じなのか、考えてみたかったです。
ゾーニングとかについて考えるヒントにもなりそうだし、あの凶悪な「浄化作戦」を考える材料としても。
なお日本では、風俗店は学校などの何メートル以内には作ってはいけない、みたいなルールがあったはず。
・「トラフィッキング」とセックスワークとの違いを明確にすべき。すべてのセックスワークがトラフィッキング、ではない。トラフィッキングのすべてがセックスワーク、でもない。
↓
“トラフィッキング”(人身取引、人身売買)の定義を改めて行う、また都度確認する必要があるのだろうなと思います。
トラフィッキングという概念を、より広く当てはめて使おうする動きはおそらく、日本にもあると感じていますます。
・トラフィッキングがあったような場合であっても、“セックスワークの非犯罪化”は役にたつ。
↓
これ、「ほんとそれ!」と思いました。
トラフィッキングの被害者本人も、客になった人も、保護を求めたり通報したり、しやすいですよね。
・“言葉が通じない”ことで、必ずしも搾取されるとか労働条件が不利になるわけではない、しかし、必要な支援に自分をつなげることが難しいことはある。(オーストラリアでは、政府が予算を出してそうした移住労働者への啓発を行っているケースがある)
↓
日本でもこうした状況は現状、あるのだろうと思われます。“言葉が通じない”以外にも、必要な支援や医療にアクセスしにくい、ということ。
(少なくともHIV/エイズの個別施策層は、そうした点も踏まえて定められています)(どの層に対しても、取り組みが十分とは言えないとも思います)
・LGBTQのセックスワーカーは、マイノリティではあるが、大きな力を持っている。
たとえばレズビアンのセックスワーカーだと、「金のために男と寝るってレズビアンとしてどうなの?」みたいな声があったりするし、職場にカムアウトするかしないかとかの困難がある。
参考資料として紹介されたもの;『Sexwork & the Law』(UNAIDS)
2、プログレッシブな性教育・セックスワーク・ポルノグラフィ
講演者のCarol氏は、以前は“規範”を疑わないフェミニストだった、とのことで、非常に興味深く聞きました。
・セックスポジティビティ
↓
セックスポジティブとは
「セックス大好き!! ヒャッホーーー!!」
ということではない。
欲望への権利を誰もが持っていること(変わり得る)
自分にとって適切な、性的境界線への距離を知り、持っていること
誰と、どのようにしたいのかを考える権利と責任を持っていること
同意・合意なしにする権利は誰も持っていないこと
(同意・合意を得るために努力する権利と責任は持っている)
自分のニーズ(欲望)に明確である責任があること
自分のニーズと知識について、調べ、知りる責任と権利があること
……だそうで、
これは性教育を行う目的・理由・価値そのもの、の話だなぁと思って聞いていたら、やはりそういうことのようでした。
なお
大人と子どもとの間には差があるので、子ども相手のケースは含まない、という前提のようです。
(のちの質疑応答を鑑みても、その理解であっていると思います)
・セックスポジティビティには多様性が必要。“ノーマル”なんてない。他者をジャッジメントもしない。社会(規範?)を問い、考え続けることでもある。
・セックスネガティブな社会では、性的好奇心は押し込められ、ジェンダークィアは抑圧され、自分らしく尊重されたり、安心していられたりできない。
↓
セックスネガティブが性の安心や安全、性教育にとっての“敵”“障害”とした場合、これを「性嫌悪」と訳すと、事故が起きそうだなと思いました。
セックスネガティブとセックスヘイトとは別物、という感じ……。
性的な傷つきによって性を嫌悪する状態になって(嫌悪して当然の経験をして)いる人は存在しているわけで、そうした人たちをひとまとめに「敵」として叩くのは、性的加害や暴力に親和的であり、
むしろセックスポジティブではないし、性教育の失敗であり、敗北と思うからです。
もちろん、そういう理由がない性嫌悪者なら殴っていい、ということでもなく。
そもそも、性嫌悪、それ自体にはいいも悪いもないのでは。
そこも含め、Livingtogetherしていく方法を模索しなければならんのかな、と思います。
・同意や合意を得るためには、考え続ける必要がある。なぜなら、尊重しあう必要のあることだから。尊重は、同意と合意のために必須。
・人はみんな、自分の性的行動に対してエージェンシーを発揮できるし、その権利がある
・経済、教育、生育環境、日々感じられているエンパワメントによって、選択できること(発揮できるエージェンシー)が変わってくる。
※エージェンシー、をどのような概念として理解したらいいのか。
既存の文脈では「自己決定(権)を持っている」と言われるような文脈で、今回は「エージェンシーの発揮」という表現が、明確な意図のもと使われていました。
総合的判断をすること、総合的判断力、くらいのイメージでいるのが良さそう。
誰もがそれぞれに持っているその能力が、セックスネガティブによる環境要因によって阻害されてはよくないよね、というような感じ。
セックスポジティブであることは、つまりは個々人が個々人のエージェンシーをフルに発揮できる状況のことであり、
そのためにこそ性教育が必要、という話の筋でした。
・「ポルノ」が批判・議論されるポイントとして
ゾーニングがない
好ましいと思われない様子が描かれている
描かれているセックスやジェンダーが好ましくない(規範を強化している)
被害があった、被害者と接触した経験がある(目の前のポルノも被害によるものに思われる)
など、様々ある。
でも「ポルノ」には、いろいろなものがある。社会批判、教育的なものもある。(そういうものを作ったことがある)
「日本にはある?」
・ポルノへは「自分の意思で出ているか」が大事。
したくないセックスにNOが言えるか、したいことや、saferな手段を選べるか。
こうした点にも強く関心を寄せて作られているのが、フェミニスト・ポルノ。
(必ずしも女性がつくっているもの、というわけではない)
フェアトレード・ポルノという表現も。
・ポルノが自分を貶めない、と思えれば、ポルノを楽しみたい女性はいる。
ゲイポルノを見る女性の中には、「女性がいないから、女性が貶められ脅かされる心配がないから」という理由の人もいる。
↓
このあたり「BL論」でもよく聞かれる話ですね……?
(今回はこれ以上はちょっと触れません)(センシティブな話題よね)
・ポルノ出演に関し、同意や合意の証明は難しい。
どういう行為をしたいかなど、交渉の場面が撮影されているものがある。
参考資料として紹介されたもの;『FEMINIST PORN AWARDS.COM』
・「ポルノの存在が性教育になる」というときは、(それそのものがお手本になるという意味ではなく)メディアリテラシーが必須。
ポルノはメディアの産物であること。
ポルノで描かれているセックスは、プロ、アスリートによるもの(素人が簡単にマネできるものではない)
ポルノを参考にセックスする、というのは、運転の初心者が、映画のカーチェイスシーンを参考に運転する、というようなもの。
カーチェイス映画を、初心者のドライビング教習で見せるようなものを教育と言うか?(言わないよね?)
↓
ポルノを教材として使うには、「これは実際はどうなのか」を言える教育者が必要。その通り。
たしか、そういう性教育をしている国もあったはず。
・sexwork is work
・ ポルノすべてを悪としてしまうと、参加者のエージェンシー、意思、また実際に暴力が行われてしまった場合、それらが隠されてしまう。
3、その他、質疑応答
・ トランス男性のセックスワーカーはどんな感じ?
↓
FtMへのニーズが少なく、可視化されにくい。MtFでは手術していない人の方が多い。ニーズがあるから。手術するということは、セックスワーカーとしての仕事はもうやめる、という意味になることもある。
・ スティグマの払拭、どうすればいい?
↓
「非犯罪化」が第一のステップになるかも。スティグマ、差別、偏見をなくすのはその先にある。
・ 日本には売春防止法がある
↓
非犯罪化、法の整備は難しい。
(一過性の興味ではない、啓発として行ってくれる)メディアにアライを作ること。
また大きくて党派性のない他のNPOのサポートを得ること。
議員や自治体にサポーターを作ること。
・ 北欧型(売春者を処罰せず、買春側を処罰する方法)をどう思う?
↓
セックスワーカーへの弊害は話した通り(※アムネスティのQ&A参照)
セックスワーカーのエージェンシーを否定するのは間違っている。
またもしワーカーがセックスワーク以外を選ぼうとしても、他の有用な経済手段があらわれるわけでもない。
・ 人は奴隷的状況でも、サバイバルのためにエージェンシーを発揮することがあると思うのが?
↓
契約や条件の話の際、そこに嘘がない状態である必要がある。
・ エージェンシーはどう確認する? 同意の証明方法は
↓
同意については、撮影しておくような方法がある。
出演者が交渉し、決めているというのを見せること。
こういうこと(セックスやセーファーなものや希望についての話)ができるためには、性教育が必要。
性や性教育が悪いものとされていると、十分な同意・合意のための話ができない。
同意の証明は難しく、アメリカでも議論中。
(「No means No(=嫌と言ったら嫌)」、では足りず、「Yes means Yes(こういう内容ならいいよ、とYESを出したものについてだけYESです、みたいな感じ)(いいよって明言してないのはYESじゃないよ、という、より合意や同意に厳密さを求めること)」に移行しつつある議論・現状のことをさしているのだと思います)
・ どんな環境下でも個々人にエージェンシーがある、とすることは、“純粋な”被害者像を求めること、被害者像の強化に繋がらないか?
日本には今、従軍慰安婦に対し、拉致されたのでなければ被害者でないと言う声がある。
↓
従軍慰安婦の問題は、世界中のセックスワーカーか関心を持っている。
エージェンシーへの影響を及ぼす要素は多々あり、拉致がないなら強制性はなかった、とは言えない。
当事者の話をまず丁寧にきくということが大事。
・ 自己決定とエージェシーの違いはなに?
↓
様々な(対立するような)概念を持つ人とも共通で語るための、概念のはしごとなれる言葉として便利と感じ、意図的に使っている。
自己決定ではなく、この言葉が使われることはほとんど(自分以外では)ないと思う。
・ 性教育、ポルノへのリテラシーに関し、日本は不足している。
↓
性教育の不足は、性を「恥」としてしまう原因になり、性によるダメージを見えにくく、認識しづらくもしてしまう。セックスポジティブのために、性教育は不可欠。
・性的な傷つきのためにセックスネガティブ(的な)状態になっている女性に、どう向き合うべきか?
↓
沈黙を破れることが重要。
パートナー、アライ、プロの支援が必要。
性暴力を受けたことを誰にも言えないでいることは、捕らえられ続けること。
(沈黙しか選べないような状況から解放されることでの)性的自由は、意味深いものになる。
・ペドファイル(小児性愛者)について
↓
どう子どもへの害を減らすか、が重要。
欲を持つことと、加害することとは別。医療的アプローチ、行動に介入する方法などがある。大人と子どもの間には力の差があり、だから同意や合意はそもそも困難である。
赤ちゃん・子どものプレイをしてセックスしたい人もいるし、ファンタジーの中でおさめるとかが必要。
(Carol「ただし自分はこの根深い問題の専門家ではないので、ハッキリしたことは言えない」)
・ 買春者を処罰したいフェミニストに言える言葉は?
↓
もし(性産業に携わることを)同意していないセックスワーカーがいるなら、必要なのは買春者処罰ではなく、就労支援。
買春者処罰は、そうした非同意のセックスワーカーもひっくるめて就業環境をリスキーなものにしてしまうので、悪影響しかない。
外圧やスティグマを強めても、セックスワーカーを安全にはしない。それはフェミニズム的ではない。
おわり。
以上、全文無料でした。
※100円の支援をいただけると、「缶コーヒーの1杯くらいおごってやってもいいよ」と思っていただけたんだな、と感じて喜びます。
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