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「エンドオブライフについての論考」②

■死と魂と哲学
いわゆる「悟りを開く」ことができる人なら、己の死が到来しても慌てふためくことはないでしょう。しかし多くの人は、死を達観することが難しいでしょう。
2012年のギャラップ世論調査によると、アメリカ人の46%が人間を神が創造したと信じています。これは学歴とは無関係で、修士号や博士号を持つ人でさえ、25%の人が聖書を信じています。このためダーウィンの進化論は、「人間の魂を奪った」としてアメリカでは信用されていませんでした。それでも2015年になると6割が進化論を信じるようになったという調査結果もあるので、少しずつですがアメリカでも進化論が優勢になっているようです。
クリスチャンが少ない日本では、進化論は一般常識として広く浸透していると思います。これは、幼いころから聖書の強い影響を受けて創成期神話を刷り込まれてきたクリスチャンと違うこともあり、人間は動物から進化してきたという説をそのまま受け入れやすかったのでしょう。
もっとも、古来からアニミズム(自然崇拝)信仰のある日本人は、人間だけでなく万物に魂が宿るという考えを持っています。その意味では、進化論を信じても魂はあるかもしれない、と漠然と思っている人も多いことでしょう。
アメリカ・イェール大学の哲学教授シェリー・ケーガンが書いた「死とはなにか」は、哲学書の入門書として書かれていますが、全世界でベストセラーになっています。その著書の中で「魂は存在するか?」を徹底的に検討しています。著者はロジカルシンキングの権化のような教授なので、あらゆる角度から思考を積み上げた結果、「魂は存在しない」と明確に結論付けています。現代人なら当然の解答なのですが、なんとなく魂の存在を期待している人にとっては、厳しい結論なのかもしれません。

死は、すべての人に訪れます。ここは誰も否定できないはずです。もっとも、現代科学では「不死」をテーマに研究している科学者が大勢います。永遠に生きたいという大富豪の要求が数多くあるため、莫大な資金が「不死」を獲得するために投入されています。ここでは「老化」は病気であるという考えなので、老化という病を治療するための技術開発が進められているのです。しかし現時点で「老化」は、アメリカFDAの病気リストには載っていません。
ハーバード大学の遺伝学者であるデイビッド・シンクレア教授は、老化を病気と考える運動の最前線にいます。このシンクレア教授によると、「もし老化が治療可能な病状であれば、研究、新制度導入、医薬品開発に資金が流れ込むでしょう。現在のところ、どんな医薬品メーカーもバイオテクノロジー企業も、老化を病状として研究しないのは、制度として老化という病状が存在しないからです」と言っています。
もっとも老化を病気とみなすことには反対意見も多くあります。アンチエイジングに資金を投入することは、社会的に優先順位が違っているというのが理由です。
それでもシンクレア教授は、老化治療研究の成功の秘訣は近年進化の著しいエピジェネティクスにあると述べており、論文を近日発表するとのことです。それでも、今世紀中に人間が「不死」を獲得することはとても困難だと思われています。

では、魂は存在しない不死も得られないとなると、「肉体が滅びれば精神も消滅する」という合理的な考え方が納得できない人を、どうすれば「救える」でしょうか?

エンドオブライフについての論考」①

「エンドオブライフについての論考」③


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