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ブックレビュー「ホテルローヤル」 桜木紫乃(著)

「ホテルローヤル」 桜木紫乃(著) ★★★☆☆

2013年に直木賞を受賞した連作短編集。ラブホテルを舞台にした女性作家の作品として、評判になった小説である。

「シャッターチャンス」既に廃墟となったラブホテルで、恋人にせがまれヌード写真を撮ることになった女性の困惑。
「本日開店」貧乏寺の住職の妻は、寺を維持するために檀家の男たちと寝るのが義務だった。
「えっち屋」元市役所職員だったアダルト玩具会社の社員は、ニコリともせず生真面目に働いていた。
「バブルバス」節約生活をしている主婦は、浮いた法事の金で夫をラブホテルに誘う。
「星を見ていた」ラブホテルで働いている老女は、朝から晩まで働きづめだったが、優しい息子は犯罪者だったことを知らされて・・
他、全部で七作の濃いドラマの短編集だ。

 どの短編も、北海道の釧路湿原に建てられたラブホテルに関わる話。そのホテルローヤルの経営者の娘が狂言回しとなり、お話が展開する。ただ、既に廃墟となったホテルから幕が開き、ホテルが開業するエピソードで幕が降りる、時代をさかのぼる構成となっている。
 バブル華やかりし頃、北海道の外れで一旗挙げようと、借金まみれでラブホテルを立ち上げ、一時は隆盛を誇っても、やがて坂を転がるように落ち込んで廃墟となっていく。そんな日本経済をなぞるようなラブホテルを背景に選んだのは、慧眼だ。しかも、出だしを廃墟から始めることで、かつてのバブリーで活気に溢れた時代の虚しさが、衰退していく地方都市のなかで一際強調されていく。

 それにしても登場人物は貧乏人と山師ばかりで、奇抜なストーリーと相まって、ここが本当に日本かという感覚になってくるのだ。
 作者の桜木紫乃は、父親がラブホテルを経営していたこともあり、この独特の密室内で繰り広げられる人間模様を、冷めた目線で昔から見聞きしていたのだろう。女性特有の感性で、快楽のために造られた空間を、男女の秘め事のための場所を、切なさ寂しさ虚しさで覆いつくしていくのだ。
 ラブホテルという非日常の世界を、細やかな感性と達者な筆力で描いた、個性的な連作短編集なのであった。

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