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ボクのVtuber観測史・前史
Vtuberとは、"Virtual YouTuber"の略称であるという。
思い返せば、僕がこのVtuberの存在を知ったのはずいぶん前だったはずなのだけれど、いわゆる“推し活”ということをするくらい面白い人々だとわかったのは、ほんの1年くらい前、2023年の春頃のことだ。
このVtuberという活動、なかなかに奥が深い。
パッと見ただけだと、外見をアニメキャラクターのようなアバターにして配信をしているだけで、普通のYoutuberとやっていることは大して変わらないように見える。なんなら、その見た目や素性などの特殊性から「いい大人が見るものではない。子供向けだ」「ふざけている」という風に見られてしまう危うい可能性を常に孕んでいる。
実際、Vtuberが登場したのは、Youtubeなどの動画配信プラットフォームが一般層に普及し、配信に活用できる3Dアバター etc.が比較的簡単に利用できるようになったこの数年の出来事であり、まだまだ発展途上の文化だ。
ゆえに、何も知らない人々から「女性の外見を性的に搾取している」などというような不当なクレームを受けて、業務を妨害されるような事件も起こっている。
こういったところの詳しい歴史の解説は専門家の方々へ役目を譲るとして、僕の方では、何も知らないゼロの状態からいかにVtuberを受容していったのか、その経緯を実際の配信者たちの紹介を交えて語っていきたいと思う。
Vtuberの観測の始まり
輝夜月の登場
Youtubeの動画視聴をうんと遡っていくと、一番古い日付で見つかったVtuberは、輝夜月(かぐや るな)さんであった。
観測したのは、2018年1月6日のことである。
当時、「声がハム太郎みたい」という声がたくさん見受けられたのを覚えている。動画ではあるが、喋り方がとても流暢で聴きやすく、慣れている印象がある。何より、彼女のトークやノリの良さ+「見るストロングゼロ」とも呼ばれたキャッチーな外見がアニメーション的な面白さとうまくマッチしており、初めて見る人にもとても親しみやすい存在として受け入れられたのである。
改めて見ると、今でもトークが面白くてついつい見てしまうな。
その後、2018年3月29日にLINEスタンプ発表の動画を見た後は、しばらく観測に空白の期間が生まれる。
動画の長さを見るとわかるが、この当時の動画は1分30秒~5分程度のものばかりで、昨今にアップロードされるような長い動画とは違い、今で言うショート動画にだいぶ性質が近いものであった。
なので、日々タレントを追いかける感覚というより、面白い動画が作られたらその都度鑑賞するというくらいの、エンタメ番組の一つとして受け取っていたようである。
Kizuna AIの存在
次に、Vtuberを観測したのは、2018年10月3日。
満を持して、元祖・Virtual YoutuberのKizuna AI(キズナアイ)さんを観測した。
この時に観測した動画が輝夜月さんとの関連動画であるのも、当時の僕に思いのほか輝夜月さんが刺さっていたことがわかって面白いところではある。
Kizuna AIさんについては、Youtubeで動画をしっかり見ていたわけではなかったけれども、存在はよく知っていた。
元祖Vtuberというセンセーショナルな存在だけあって、インターネットのあらゆる場所で話題にはなっていたし、そのデザインを担当された森倉円先生のイラストがとても綺麗で好きだったというのも理由である。
輝夜月さんもKizuna AIさんもツイッター(現・X)をよく使っていたが、そのツイートがどれも面白かったのも親近感が沸いた要素の一つかもしれない。
当時の僕は、Kizuna AIさんのツイートを引用し、こんなツイートをしている。
水陸両用キズナアイの前では世界中に拡散したどのVtuberも脅威ではなくなる! https://t.co/ZqerN3k08Z
— 影山レオ Leo Kageyama (@Leo_Kageyama) December 14, 2018
ちなみに、ある社会学部教授により「Kizuna AIは理系の動画で相槌ばかり打っており、女性のステレオタイプを助長している」というようなトンデモ論が提唱され炎上が起こったのも、Kizuna AIさんが『レディ・プレイヤー1』のプロモーションでスティーヴン・スピルバーグ監督と写真を撮ったのも、どちらも同じ2018年の出来事である。
Vtuberを取り巻くポジティブなこともネガティブなことも、すでにこの頃から同時進行で起こっていたわけである。
さらに期間が空いて、2019年8月17日。
確か「Kizuna AIさんの声優が別人に交代させられているのではないか」という噂が僕の耳にもちらほらと聞こえてきた頃だったはずだ。
「Vtuberは外見だけ同じモデルを使えば、声を充てている声優はいくらでもすげ替えることができる」
一昔前のアニメ業界と同じ感覚でいると、このような考えに陥りがちである。
しかし、この当時のKizuna AIさんを巡る騒動が象徴するように、視聴者はそこにいるKizuna AIさんの声や話し方やテンポを含めたパーソナリティを愛していたのであり、よく似た他の人に台本を読ませれば済むというものではなかった。
プロデュースの戦略の話で言えば、複数人でKizuna AIさんを運用するということも全く受け入れられないことではなかったと思う。それこそ、人工知能としての素性を前面に出し、企画の当初から、声を変換したり、動画内のギミックとして性格や話し方を変更できる場面などを見せることによって、キャストとして登場するKizuna AIのイメージを調整することも不可能ではなかっただろう。
しかし、それを実行するにはあまりにも、Kizuna AIさんの人気は“オリジナルのKizuna AI”のパーソナリティの力に頼り過ぎていた。日本の視聴者は、それほどまでに対象の人物を評価するのに人格に重きを置いていたのである。
碧志摩メグとVtuber
そして、2019年12月4日。
碧志摩メグの動くVtuberモデルを観測。
碧志摩メグは、いわゆる“Virtual Youtuber”ではない。2014年に三重県志摩市をPRするために作成された“非公認”のご当地キャラクターである。
もともとは志摩市の公認キャラクターであったが、その外見が「性的な外見であり、海女のイメージを貶めている」といった批判を受け、市による公認は撤回された。しかし、ファンの地道な応援活動により、2024年現在も三重県内外を問わず、多くの場所で志摩市のPRに貢献している。
面白いのは、こうしたご当地キャラクターにも“Vtuber”という概念が受け入れられる可能性が見出されたことだ。
碧志摩メグの声優を務めているのは『呪術廻戦』の禪院真希役などで知られる小松未可子さんであるが、メグのキャラクター自体に小松未可子さんのパーソナリティは付与されてはいない。あくまでキャラクターに声を提供しているのみだ。
しかし、すでにあらゆる場所で台頭し始めていたVtuberの持つ「動きを伴って感情を伝えることができる」という特性は、2次元のキャラクターにも非常に親和性が高く、この特性によって2次元のキャラクターに馴染みのない人にも抵抗感なくキャラクターが受け入れられる可能性があると、すでに認識され始めていたことが窺える。
その後、2020年に世界は新型コロナウイルスの脅威に見舞われ、コンテンツを視聴する環境は一変した。動画視聴はより一般的なものとなり、Vtuberはより多くの人の目に触れるようになっていく。
戸定梨香を巡る騒動
コロナ禍真っただ中の2021年9月、千葉県松戸市のご当地Vtuber・戸定梨香(とじょう りんか)さんを巡る騒動が起こる。
千葉県警が戸定梨香さんを起用した交通安全を啓発する動画を発表したが、松戸市議会議員の増村かおるをはじめとした全国フェミニスト議員連盟より抗議文が打ち出され、警察により自主的に公開が取り下げられた事件である。
当時発表された公開質問状には「スカートの丈が短い」「腹やヘソを出している」「胸が揺れている」「これは性的対象物として描写し、強調している」という、ほとんど言いがかりと言ってもいいほどの暴論が展開されていた。
これは、抗議者が問題の対象としていたVtuberを「人格のない単なるキャラクター」と認識していたことから来る差別意識によるものと言える。
つまり「こうした外見や話し方や動作を設計し、女性にそう演じさせ、それを楽しんでいるのは男性なのだ」という思い込みである。
仮に、戸定梨香さんの所属する事務所の代表が女性であり、戸定梨香さん自身が人格を持つタレントであると認識していれば、このような抗議は起こされなかっただろう。
ここからわかるのは「興味を持たない人は、その対象の実態がどうあれ、何かを調べたりするほどには興味を持つことができない」というごく当たり前の事実である。
はっきり申し上げておきたいのは、戸定梨香は性的なVチューバーとして制作されたものではないということです。制作に携わったのは女性ですし、戸定梨香はタレントが「自分がなりたい姿、アイドル像」をイメージして生まれたキャラクターです。私も女性ですが、彼女の見た目が女性蔑視とは思いません。抗議の内容についても全く客観的なものではないと考えています。
まふまふと潤羽るしあ
さらに時は進み、2022年2月11日。
2021年の紅白歌合戦にも出場し、一般層にも名前を知られるようになった歌手のまふまふさんが「Vtuberの潤羽るしあさんと同棲しているのではないか」と取り沙汰される出来事が起こる。
この当時、僕は潤羽るしあさんを知らなかったが、前年の紅白を見ていたため、まふまふさんの名前は強く印象に残っていた。
結果として、この時に騒がれた内容よりも真実はもっと壮絶ではあったのだが、僕にはそれよりも、紅白に出場できるほどの人物が(どのような形であれ)交際したりするほど、Vtuberの社会的な立場は大きくなってきているのか、という驚きの方が大きかった。
この騒動によって、友人の数名がVtuberのコンテンツを視聴していたということを知ったのも、なかなか印象深いことであった。
可能性の怪物・ヘアピンまみれ
もう一人、特筆すべきVtuberとして紹介したいのがヘアピンまみれさんである。
以前、セル画の塗り方について調べていたことがあったのだが、ちょうどその時にイラストをセル画風に塗っていく動画をアップしていたのがこの方だったのである。
僕はこの方を2022年10月15日に初めて観測した。
セル画は、昔のアニメを制作する際、透明なセルを重ねて撮影するためのアナログな手法で使われる絵であり、現代のアニメの作画はデジタル化されているため、ほぼ採用されていない。
こうしたマニアックな手法を紹介している点でもとても興味が沸いたのだが、その他にも、自身のパペットや被り物を作っていたり、3DCGソフト“Blender”を駆使して自分自身で3Dモデルを作成してしまったりと、なんでもこなしてしまう姿は非常に驚異的だった。
“個人勢”という言葉すらまだ知らなかった僕には、ヘアピンまみれさんが「人間、努力すればなんでもできる」という人類の可能性を体現しているように感じたのである。
ゲーム実況者
ハヤトの野望
Vtuberを語る中で、ゲーム実況者の存在は欠かせない。
今でこそ、Vtuberの多くがゲーム実況をしていることを知っているのだが、当時はあまりそういう認識をしていなかった。
僕はコロナ禍になってから多くのゲーム実況を視聴するようになったが、その中でとりわけ楽しく見られていた実況チャンネルは2つある。
そのうちの1つが、ハヤトの野望チャンネルである。
主に、Cities:Skylinesの動画を見ていたが、狂ったような設定を淡々と尚且つ楽しそうに説明して実行に移していく様を見ていて、ゲーム実況は本当に面白いなぁと心底思ったものである。
その昔にもニコニコ動画などでゲーム実況を見ていた時代はあったが、
Youtubeできちんとゲーム実況を見るようになったのはコロナ禍になってからである。
もともと、ゲーム実況が世の中に受容されたのもニコニコ動画が発祥であり、ハヤトの野望チャンネルもニコニコ動画から始まっているという話だけれど、Vtuberにもニコニコ動画出身の活動者が数多くいるという噂を聞くと、系譜が一本の線で繋がっていくような気がしてならない。
キシタク店長
2つ目のチャンネルは、キシタク店長のチャンネルである。
彼の動画は、実況というよりもプレイ動画に近いのだが、主にSkyrimとBlade and Sorceryを見ていて、軽快な音楽に載せておふざけのようなスーパープレイをたくさん見せてくれるので、ネタが満載なのもあって楽しくてずっと見てしまうのである。
僕自身はゲームがそれほど得意ではないので、これほど楽しく魅せてくれるゲーム配信者はありがたいと思っている。
本史へ
振り返ると、2023年に至るまでに、ある程度の数のVtuberやゲーム配信者をこの目で観測していたことがわかった。
当時の僕は、やはり彼らの存在を単純な“動画の配信者”として認識しており、積極的に活動を応援したり、人に勧めたりするものとは思っていなかったようである。
そうした中、いかにその認識が変化し、新たな時流を作る存在と考えるまでになっていったのか。
次回の章では、観測したVtuberを時系列に沿って確認し、その感情の変化を細かに解き明かしてみたいと思う。