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戦略家にとっての第一原理思考とフレームワーク——抽象と具体を行き来するために「なぜ」を起点にする
戦略家にとっての第一原理思考とフレームワーク——抽象と具体を行き来するために「なぜ」を起点にする。
はじめに
ビジネス戦略を考えるとき、しばしば私たちは「どの分析手法を使うべきか」「どのフレームワークを当てはめるべきか」といった話題に集中しがちです。SWOT、3C、バリューチェーン、BCGマトリクス……これらは確かに有用なツールですが、使い慣れた型に沿って議論を進めているだけでは、陳腐化した常識をなぞることになりかねません。ビジネス環境は刻一刻と変化し、競合優位を得るには既成概念を超えた戦略が求められます。
そこで注目したいのが「第一原理思考(First Principles Thinking)」です。この思考法は、既存の定石や常識に頼らず、「なぜ(Why)」という問いを根底まで突き詰めることで、本質的な価値や長期的な競合優位を生む根源的要因を見極めようとします。戦略家は、この「なぜ」を問い続けることで、表面的な分析に埋もれていた未発見の前提や、ビジネスの深層にある本質的な価値創造のポイントを浮き彫りにできます。
「なぜ」という問いが抽象と具体を往復させる
第一原理思考は、物事を抽象度の高い視点から俯瞰し、問題の核となる原理を洗い出す「抽象的」な営みです。たとえば、「なぜこの市場で勝つべきなのか?」「なぜ顧客は本当にその価値を求めるのか?」といった問いを繰り返すことで、短期的なトレンドや既存のカテゴリー分けを超えた、本質的な意味や方向性を導き出します。
一方で、戦略は抽象度の高い洞察だけでは実行不可能です。実際に行動し、成果を生まなければただの理論に終わってしまいます。ここで活躍するのがフレームワークです。フレームワークは、「この価値を実現するために、具体的にどの顧客セグメントを狙うべきか」「自社リソースをどう再配置すべきか」「どのような検証プロセスを踏むべきか」といった「具体的」な行動指針へと落とし込む手助けをします。
つまり、第一原理思考で得た抽象的洞察を、フレームワークを用いて現場レベルで運用可能な戦略策定や施策立案へと転換することで、戦略家は「抽象(真理を俯瞰する)」と「具体(制約を伴う実行)」を自由に行き来できるようになります。
フレームワークを再設計するための第一原理思考
ここで重要なのは、フレームワークを「与えられた定石」として鵜呑みにしないことです。第一原理思考によって本質が見えれば、必要に応じてフレームワーク自体を再解釈・再設計することが可能です。「なぜ、この分析軸が成り立つのか?」を問い直すことで、既存のフレームワークが前提としていた条件や視点をアップデートし、自社独自の文脈や市場変化に適合した新たな分析ツールへと進化させることができます。
例えば、「なぜ顧客は価格ではなく、安心感やコミュニティ性を重視するのか?」という深掘りがなされたなら、従来の価格軸による顧客セグメンテーションは不十分です。代わりに、「心理的ニーズ」や「関係性構築プロセス」を軸に顧客を分解する新たなフレームワークを自ら生み出すことができるでしょう。そうすることで、フレームワークは既成の分析法から自社特有の戦略武器へと変貌します。
行動を伴う戦略サイクルへ
第一原理思考による「なぜ」の問いは、戦略をただのプランから「行動につなぐスイッチ」へと変えます。深い洞察を得たら、それを試さずにはいられないはずです。顧客インタビュー、プロトタイプ開発、実地検証など、具体的な行動を通じてフィードバックを得れば、再び「なぜ」を問い直す余地が生まれます。こうした試行錯誤のサイクルが、戦略を絶えず洗練し、競合が真似しにくい独自の優位性を育んでいくのです。
ここで「なぜ」という問いかけが抽象度の高い本質理解に連れ戻してくれる一方、フレームワークは実践への再着地を可能にします。この繰り返しによって、戦略は硬直した一過性の計画から脱却し、動的で学習するプロセスへと変わり続けます。
まとめ:真理と実行を往復する戦略家
結局のところ、第一原理思考とフレームワークの関係は「抽象と具体を自由に行き来する」ダイナミックなプロセスとして捉えるのが最も明快です。
- 第一原理思考が「なぜ」を問うことで高度な抽象度から本質的意味を俯瞰する
- フレームワークがそれらの洞察を現実の制約条件下で「どう実行するか」に翻訳する
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この両輪が噛み合うとき、戦略家は既存の常識を超えた価値を創造し、競争環境が変動しても柔軟に対応できるようになります。戦略家は、抽象と具体という二つのレイヤーを何度も行き来しながら、「なぜ」をスイッチに思考と行動を繰り返し、独自の戦略的洞察を深めていくことになります。
これこそが、戦略において第一原理思考とフレームワークがともに輝く、本質的な関係性だといえるでしょう。
良い戦略立案と実行のために「なぜ」からはじめましょう。
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