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アッカのアラブ式一周忌

アッカの旧市街を歩く、地中海に面するこの街は今はイスラエルではあるがパレスチナを感じられずにはいられないこの町の象徴は大きなモスクだろう。ランドマーク的圧倒的存在感がある。そしてアラビア語を話す人々。
アラブ感があるとはいえ、ユダヤ民族基金の建物があるのを見ると奪われたという言い方は完全にパレスチナ側の意見になってしまうが、

上書きされた場所

であることを意味すると捉えてしまう。

シャローム!

土産屋で働くちょっとよれたスエットを着た少年が声をかけてきた。

シャローム、ごめんね。今は買い物していないのよ。
何しているの?
散歩してるの。ここ出身の作家のファンで散歩してその人のことを考えているのよ。

ヘブライ語で話しかけられた私はとっさにカナファーニーという名前ではなく、漠然と作家と言ってしまった。この少年がイスラエルとパレスチナ、両国のことをどう思っているのか私には予測すらできず、もしユダヤ系のイスラエル人でカナファーニーの名前に嫌悪感があったりでもしたら・・・と思ってしまったからだ。しかしその危惧は徒労だった。

カナファーニー?彼はここ出身だよ。パレスチナが好きなの?
カナファーニー知ってるの?わたしはパレスチナの料理が色々知りたいなーって思っているのよ。
カナファーニーは有名だからね。そうだ、今日うちでおばあちゃんの一周忌でご馳走用意してるからおいでよ。まだ残っていると思うから。ちょっとママに電話してまだごはんあるか聞いてみるから!

少年はそう言ってわたしの行く行かないの返事を聞く前にちょっとだけ古いスマートフォンでママに電話してしまった。

さあ、行こう!
え?お店は?ていうか、いいの?全くの他人が一周忌に。
さあ、さあ。歩いて5分くらいだから。早くしないとごはんがなくなるよ!

少しだけあたりが暗くなり地中海の向こう側が赤く、こちら側は深い碧が立ち込める。細い路地、小さいとはいえ迷路のような旧市街をいつの間にか抜けて石造りの住宅地だ。何匹かの小さな猫とすれ違い、雑多なアパートメントなのか無人のビルなのかわからないような彼と彼の家族が住むアパートメントの入り口まで来た。

本当に大丈夫?家族の人たちは迷惑しない?

ピューっと彼は指笛を吹く、すると窓が開く音がした。上を見上げると窓から顔を出した彼のお姉さんだった。手招きをしている。何?このウェルカム感。

さあ、行こう。

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