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『白銀の腕輪』

『白銀の腕輪』 No.038

優柔不断だが日々の祈りを欠かさない男の前に、突如光の束が揺らめく
古びた神殿の天井が輝きだし、神が舞い降りた
男は腰を抜かし、息を呑む
救済の神は、貧弱だが信仰心の強い男を何とかしてやろうと思った
神が提示した二つの案に、男の心は激しく揺れる
ゼウスの顎髭が練り込まれた“白銀の腕輪”
〈男神の力が宿り、世の女性陣が虜になる肉体を纏う〉
アフロディーテの巻き髪が練り込まれた“黄金の指輪”
〈女神の力が宿り、世の女心が理解出来る能力を得る〉
その場で一晩悩んだ挙句、男は“白銀の腕輪”を選んだ
瞬く間に右腕に白銀の輪がはまり、ムクムクと均衡のとれた美しい肉体に変化する
男は進化の程を確かめるべく、さっそく街を歩いてみた
すれ違う女性は間違いなく振り返る
酒場に入ると、ひっきりなしに女性が寄ってきた
右腕にガッシリはまった腕輪を眺め、初めて幸福感に酔いしれる…

数か月後、男は再びあの古びた神殿で必死に祈りを捧げている
あの日からここには全く訪れていなかった
求めてくる女性は後を絶たないが、小心者の性格は変わらない
見た目は凄まじく男らしいのに中身は腑抜けのまま
恋をすると、皆数日間で去ってしまう
そこで男は“女神の指輪”を思い出し、再び神に祈っていた…

祈り始めて三日目の夜、遂に救済の神が姿を現した
そしてまた二つの提案を男に投げかける
“黄金の指輪”か“腕輪を外す”か…
男は自らを変えるべく、即断した
左の薬指には黄金に輝く指輪が煌めく
今までの自分の考え方がぐんぐん書き換えられていく
そして男は幸福と絶望に支配された…
最強の“女心”を得たが、誘惑出来る対象は男性だけだった…


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