『レター・イン・ザ・ボトル』
『レター・イン・ザ・ボトル』 No.055
普段あまり話さない父が珍しく僕に声をかけてきた
たまにはどうだと促され、今日は何となくついてきていた
父は休みの日になると近くの海辺に出かけ、流れ着いたゴミを回収している
いつからそれをしているかは聞いたことはないが、今でもずっと継続していた
まぁ初恋の相手にフラれたばかりの僕にはどうでもいいことか…
流木に座りながら打ち寄せる波を見つめる
時おり父の行動も…
そしてふと気づく
父は箱や瓶などを見つけると必ず中身を確認していた
だだこの海辺を掃除しに来ていると思っていたが、そうではなさそうだ
小さい頃はここで遊ぶのに夢中で父が何かを探しているとは思いもしなかった
時おり視線をそらしながら注意深く行動を観察する
間違いない、やっぱり父はさり気なく何かを探していた…
俺は息子の雰囲気を見た時、失恋したなと感じた
当時の俺もあんな状態になったのを覚えている
まぁ境遇は違うが、なぜここに来続けているのかを言ういい機会か
息子の傍に腰掛け、俺が探しているのは“手紙”だと告げた
俺は息子の表情を見ず、水平線を見つめながら事の経緯を話した
当時俺は好きだった女の子にフラれ、この場所で海を眺めていた
そして何となくこの浅瀬を歩いていると、ある瓶が目に留まった
そのウィスキーのような空き瓶の中には手紙らしきものが入ってる
俺は木の枝でそっと引っ搔き出し、その内容を読んだ
それは、ある事故で無人島に漂流した女性が書いた手紙だった
それを読んだ時、今まで感じたこともない感情が湧き上がったことをはっきり覚えている
誰かの悪戯かもしれないが、俺にとってその手紙の女性は特別な存在になった
それ以来、いつどこから書かれたか分からない手紙を探し続けている
今でもまたあの人が書いた手紙が偶然ここに流れ着いていないかと…
“その手紙を見せてくれるなら僕も一緒に探すよ”と息子は言う
“でも母さんには内緒だぞ”と言う父は、どこか無邪気な少年のようだった…
皆さまからのお心遣い、ありがたく頂戴します。 そんなあなたは、今日もひときわ素敵です☆