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『マダムと紳士』

『マダムと紳士』 No.031

君と出逢ったのはあの夏のバーベキュー
大学の演劇部で毎年恒例の新入生歓迎会
僕の白いシャツにスペアリブのソースが滴る
クスクスと笑う、君に落ちた夏模様
ジリジリと誘う、僕に溶けた恋模様

僕は部長と共同で今度の芝居の脚本を書いていた
舞台は中世ヨーロッパでの恋愛劇
脚本の流れは出来上がったので、舞台の袖で一人読み返す
配役はある程度自分の中でイメージはしていた
少し傲慢なマダムに仕える純情可憐なメイド
君の雰囲気にピッタリの役柄
あの夏の日から直接話したことは無かったが、少し気になる存在だった
ふと僕に挨拶する声が聞こえ、振り向く
一拍置いて君に挨拶を返す
君は新作の台本が出来上がったと聞き、僕の所に来たと
まだ完全には出来上がっていない箇所が幾つもある
そう告げると、私も協力させてくださいと言われた
予想もしていなかった答えに少し戸惑う
にやけてしまいそうな表情を抑え、分かったと答えた
マダムと紳士の駆け引きの会話がいまいちだったので君の意見を聞いてみた
では実際に演じてみましょうと言われ、二人で舞台の中央へ
君はメイドをいびる高貴なマダム役
僕はスティックを持つ英国紳士役
まさかの展開に少し戸惑う
君は見事にマダムの特徴を捉え、演じている
先輩で脚本家の僕も負けてはいられない
しかし、次々と飛び出す君のアドリブに返す言葉がなかなか浮かんでこない
翻弄する身のこなしと視線の誘惑
“この火照った身体を冷やしては下さらないの?”
これもアドリブなのか…それとも…


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