『対極の行方』
『対極の行方』 No.009
あの人が隣でジッと指の動きを見ている
近くで見守っていてくれると、どんな問題でも解けそうな気がした
今日までは…
一緒に頑張ろうねと微笑みかけてくれた
絶対合格するよとやさしく励ましてくれた
キレイな字だねとさり気なく褒めてくれた
無機質な部屋を楽園に感じさせてくれた
近づくたび押し寄せる春風のような髪の香り
一体何があの人をここまで変えてしまったのか…
溜息、舌打ち、冷ややかな眼差し、嫌み、自信過剰な態度
最後まで解けたら起こしなさいと告げて、後ろのベッドで横になる
天使から悪魔への大転換
一時の楽園が永遠の地獄に豹変した
今までの優しくて穏やかなあの人はどこへ行ってしまったのだろうか…
ゆっくりと振り返ってみると、壁を向いて寝ている
ホッと胸を撫で下ろした時、艶やかな髪の間からうなじの辺りに何かが見えた
ネックレスかタトゥーのように見えるが、なぜかそれを間近で確認してみたくなった
気づかれないように恐る恐る近づく
雷のような“S”のマークがうなじに付いていた
音の鳴らないようスマホで写真を撮り、椅子に戻る
パソコンを開き、さっきの画像を検索してみた
なかなかヒットしなかったが、あらゆるサイトを隈なく探していると
〈“S”シールで貴方の隠れたサディスティックが目を覚ます…〉
…何であの人はこんなものを…
その時、首筋に何かを感じ、急いでパソコンを閉じた
間違いなく後ろにはあの人が立っている…
おもむろに両手を椅子の後ろに回され、ハンカチのようなもので手首を縛られる
驚きと不安に包まれる世界から、何故か小さな快楽がじわじわと芽生えはじめた…
後ろでニヤリとする視線の先には、ハート型の下の部分が欠けたようなマークがある
丸みを帯びた“M”シールが彼のうなじにぴったりと貼り付いていた…
皆さまからのお心遣い、ありがたく頂戴します。 そんなあなたは、今日もひときわ素敵です☆