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『Little Wings』

『Little Wings』 No.012

ガラス越しに揺れる木立を眺めながら未練に身を委ねていた
居心地の良かったこのカフェのソファーに座ることはもうないだろう
幸せそうに微笑み合う学生服のカップルが座る角のテーブルは、ほんの少し前までは私たちの指定席だった
今振り返れば何であんな態度を取ってしまったのか、自分でもよくわからない
きっと私もあんな風に笑っていたのね…
そんなことを思い出す自分を抱きしめて慰め合う
あの人がいつも頼んでいたホットコーヒーを初めて飲んでみた
夢中だった人と今更ながら同じ香りを味わいたいなんて…
今この気持ちを豆にしてコーヒーにしたらとても苦くて絶対に飲めないわ
こんなくだらない発想に振り回されるくらいなら、いつものようにミルクティーにすればよかったと思ったところで何も変わらない
そして相変わらずテーブルの上にあるブルーのスマートフォンは短い振動さえも伝えてくれない
緩やかに押し寄せる虚しさに危機を感じ、無意識にソファーから腰を上げていた

店の前で立ち止まると外は鮮やかな夏空から穏やかな秋の空へと変化しつつある
ふいに声をかけられ振り向くと、店員らしき男性にブルーのスマートフォンを手渡された
去り際に残していった彼の微笑みの残像を記憶しながらスマートフォンを裏返すと、連絡先が書いてあるメモが添えてあった
瞳を閉じてゆっくりと一呼吸した後、さっき見た空の色とは全く違って見える
とても晴れやかで、夏の終わりを感じるにはあまりにも早すぎると自分に言い聞かせるまでもなく一歩を踏み出す
木立を揺らす穏やかな香りに包まれた空気は、彼女の両足にある小さな翼に希望を授けていた…



【解説】3エレメントと本文解説

今回の3エレメントは”スマートフォン・ホットコーヒー・夏の終わり”でした。”夏の終わり”があるので季節は決まります。そして”ホットコーヒー”と”スマートフォン”の共通点を探し、導き出されたのがカフェです。

恋人と前によく来たカフェに再び一人で訪れる。ほろ苦い思い出をコーヒーに投影し、楽しかった思い出に浸る。季節が変わるように自分の心も秋の景色がやってくる。そう思ったが、置き忘れたスマートフォンを届けてくれた男性が添えたメモ。沈んだ気持ちが軽くなり空は夏の色を取り戻した。

実はこの『Little Wings』が3エレメントとしての初めての作品になります。なので今振り返ると、文章の綴り方が明らかに違うのが自分でもよく分かります。過去を振り返り、また今の自分を見つめ直す。

この主人公の女性も一つの恋が終わって、追憶に揺れる。しかし、その輝きに惹かれた男性からの思いがけないアプローチ。過去があるから今がある。
全ては悲しみを喜びに変えるために…



【おまけ】原文ダウンロード付き

新たな景色をもう一度感じてみたい方はこちら⇩



【あとがき】3エレメント作家について

解説にも書きましたが、これが3エレメントの処女作になります。日付を書いていないので、どのくらい前かは忘れてしまいました…

きっかけはイラストレーターの友人との会話から生まれました。なぜそんな話になったのかはあまり覚えていませんが、昔、「ざこば・鶴瓶らくごのご」というテレビ番組があり、3つのお題から落語を作るというのがあったので、それを文章でしてみようということに。

ですので、基本3エレメントは自分では書きません。自分で思い浮かべれば、自分の世界観の中からしか生まれず発想の幅が狭くなるので、近しい関係の方々からお題をいただいております。

今のエレメントボックス(お題が書かれたケース)には100を超える素材が待機していて、最近は自分で書いたものも少しだけ入れてみました。

番組では即興で落語を披露していましたが、僕はかなり時間がかかります。将来的にライブなどでそんなことが出来れば面白いかもしれませんね。そのためにはもっと修業を積まなければ…

そして僕は、小説家でもなければ、詩人でもありません。なのであえて名乗るなら”3エレメント作家”や”綴り人”ですかね…

それにこんな事を言えばお叱りを受けるかもしれませんが、僕自身、あまり小説も詩も読みません。では何故文章が書けるのかと聞かれても、正直分かりません。でも可能性としては2つあります。

一つは20代の頃から読書は大好きでしたが、ほとんどが自己啓発本です。
2つ目は映画が好きで、時間があれば何かいい映画がないか探してしまう。僕の文章は、よく映像が鮮明に浮かぶと褒めていただくことがあります。それはよく映画を見ているからというのも影響しているのでしょうか。

そういう意味では、文章を書くときにいつも頭の中で映像化し、それを文字に落とし込んでいるという感じに近いかもしれません。小説家の方や作家の方はどういう風に文章を書いているかは分かりませんが、これが僕のスタイルです。

そして僕が本当に伝えたいことは【あとがき】です。既にほかの作品を読んでいただいた方は納得いただけると思います。ショートストーリーだけ楽しんでいただけるのも嬉しいですし、【解説】部分でかみ砕いて伝えることでより「なるほどね」と思ってもらえる。そして僕が日々感じる”核”や”本質”の部分という三部構成になりました。

それにほとんどの方は「作品」のみを公開されていると思います。なので、3エレメントを使ってストーリーを創り、それを解説し、思いを語る。

それが、僕の見つけたブルーオーシャン…

あ、僕の両足にも小さな翼が…



最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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〔同じ時間軸でのアナザーストーリーです⇩〕


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