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『冬の本』

 夏生まれのせいか、冬が苦手である。だから冬支度だけは計画をたてて早めに取り組む。保温性の高い肌着とタイツをすべて新しいものに取り替えて、これで乗り越えられる、2月までよろしくと思うのが初秋の私の風景だ。しかしこの『冬の本』に出会ってから少し変わった。冬の足音が聞こえるたびにこの本を開いて、一遍ずつお話を読む。冬も悪くないと思えるようになった。

 『冬の本』はひとり出版社で知られる島田潤一郎さんの、夏葉(なつは)社から出た本である。偉そうにいったけれども私が夏葉社の存在を明確に知ったのは、失礼ながらほんのひと月ほど前のことで、週刊誌のインタビュー記事を読んだのがきっかけだ。過去にひとり出版社という言葉を耳にした気もしたが、よく存じ上げなかった。記事には本がなければ生きられなかった人生であること、自身が良いと思った本を作り送り出していきたいと書かれていた。リュックを胸に抱えて書店をまわる島田さんの日常が写真の一枚一枚にくっきりと現れていたのが心に引っかかった。

 すぐネットで検索してどんな本を出しているか見た。手にとって表紙の手触りを感じてみたい、ページをめくりたいと思う本ばかりだった。直接注文したほうが実入りがよいかもしれないけれど、おひとりでされているから発送作業も大変だろうと大手ネットから注文した。

 手元に来てから、こんな本があったなんてと思った。84人の作家や書評家、ライターらが冬について書き、加えて冬の本を紹介している贅沢な本なのである。私が敬愛する作家さんも密かに文章を寄せていた。
 装丁は和田誠さんである。たとえ雪が降っていようとも続きが読みたい、本が手放せない、そんな青年の絵が力強い。本がかわいそうなので写真は載せないが背表紙を開ききってみると、この雪道は後ろにも続いている。そして肝心の84篇の話は、作家の筆にまかせた感じでのびのびとしているのがなんともいい。巻末にはそれぞれの作家が取り上げた本の紹介も短く載っているが、タイトルと作者と出版社名と最小限の項目で、頃合いを知っていると思う。余計なインフォメーションがない分、84の冬の話に集中できるからだ。

本が届くか届かないかぐらいのとき、ラジオの『高橋源一郎の飛ぶ教室』に島田さんがゲストで出演されていた。想像通りの優しい話し方だった。新刊にいたく感激した源一郎さんから「小説書けば」といわれてたじろぐ様子(見えないけど)が記憶に残った。

その島田さんご自身が書かれた最新刊が『父と子の絆』(アルテスパブリッシング)。『あしたから出版社』(晶文社)などご本は数冊あるが、島田さん自身による新しい本を早く味わいたくてたまらない。

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