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『もの忘れ顛末記 #36』いまはもう誰もわかりませんので あしからず

おじい77歳   あけましておめでとうございます


【36話  誰もわかりません 】


本日のおじい

元日
おじいの一家では 初詣はお寺の墓参りが恒例であり  一年に何回か会う人もいれば この一日だけ会う人もいる
各地から子供 甥っ子 姪っ子 孫などがお寺にやってくる

おのおのお寺に集まってくれば    また新しい年のはじまり

甥っ子A「おめでとうございます!」  おじい「・・・・・・」
甥っ子B「おめでとうございます!」  おじい「・・・・・・」
孫A B   「おじいちゃん おめでとう」    おじい「・・・・・・」
孫C     「おじいちゃん 元気?」       おじい「・・・・・・」

甥っ子 孫「?????」

息子A「寒いな  元気? おめでとうさん」    おじい「・・・・・・」
息子A「おめでとうさん」    おじい「・・・・はぁ」

はじめに一番近くの相方(妻)さんの顔をわすれてから3カ月  誰か一人でも覚えているかなと様子をみていたら 決定です 全員わかりません   みんなきれいに忘れました

いまのところ 誰もこの事実は知らないけれど すぐに順番に気づくでしょう


息子A「ん?なに どうしたの?」

・   「うん  そう みてのとおりです  」

息子A「どういうこと?」

・     「そういうこと」


いちばん久しぶりの人間でちょうど一年前の元旦で   いちばん近くに会った人は3カ月ほど前のお彼岸の墓参りかな   だから心の底からびっくりしているおじいの兄弟姉妹のみなさんがた   3カ月前のそのときは一緒に食事しておしゃべりしていたものね

孫「おばあちゃん  おじいちゃんどうなってるの?」

相方さん「さぁ どうなっていると思う? 話しかけてみたら」

孫「ふーん」


いざ墓参り

かわいがっていた孫に両手を引かれて進んでいく   しかし今のおじいにとってはひょっとしたら試練かも  全く見ず知らずの他人になるわけで 日常生活に登場しない人達ばかり   どこか知らないところへ連れて行かれる

あやしげな空気がただよっています  刺激が強すぎるのかも

案の定  やはりおじいは泣き出した  人目をはばかることもなく
10歳のお孫ちゃんから70代の兄弟さんまで みんな目をぱちくりさせて  息子と孫は口が開いたまま

それはびっくりするよね


いまのところ これをおさめられるのはただ一人   一番最初に顔をわすれられて毎日一緒に暮らしている相方(妻)さんだけ   相方さんの顔を見つけるとすぐに安心して元に戻ってひと段落   まるで迷子の子供のような  これでも本人は必死です

家のものは 近ごろ毎日この光景にでくわしている だから免疫ができている

おなじ70代の兄弟姉妹のみなさんの衝撃はすざまじい   自らに置き換えているのか 今まで何十年のお付き合いで初めて見る光景だったでしょう
このまえのお彼岸では食事してしゃべっていたんですもの

最後まで顔がひきつっていましたけれど

ありのままでまいります  よろしくどうぞ


食欲は湧いています大丈夫
家に戻ると孫や息子が周りを囲んでいようとも気にもせずおせちをほうばってお腹いっぱい無言で無表情で食べてます

それから普段見ることのない息子や孫の顔を怖がりながら不思議そうに
ずっとじっと見続けていました


孫「おじいちゃん わたしのこと知らないだって」

相方さん「ふーん  どうする?」

孫「えー  別に」

そういうことで息子さんお孫さんよろしく  名前を憶えているうちに知らせればよかったかもしれないけれど まあ自然の流れにまかせました
みんなそれぞれ自分の世界があるから

                    37話 へ




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