トランプ大統領「再」誕生~世界はどうなるのでしょう(1)
想定外の圧勝。
「なぜ、こんなことに」と、アメリカ以外の世界の人たちは思っているでしょう。アメリカ国民以外で喜んでいるのは、ロシアのプーチン大統領、イスラエルのネタニヤフ首相、そして恐らく北朝鮮の金正恩総書記だけかもしれません。(見出し画像は、トランプ候補公式HPより引用)
8年前を超える差
16年の大統領選挙で初めてトランプ大統領が選出された時も、もちろん衝撃を受けました。それでもその時は、得票率ではヒラリー・クリントン候補が上回り、大統領選制度のマジック(投票人獲得数)によってトランプ候補が勝利したということで、私たちは、ぎりぎり一応、無理に自らを納得させる「よすが」はありました。
今回の最終的な開票結果はまだですが、得票率でも圧倒的にトランプ候補が上回っていると見込まれており、驚きを禁じえません。
今回の選挙では、事前の世論調査では接戦だったのに対し、選挙結果では大幅にトランプ氏の得票が増えました。16年選挙の際にも、事前世論調査でクリントン優勢が伝えられていたにもかかわらず、トランプ勝利となりました。
これには、「隠れトランプ支持者」の存在が指摘されています。実際はトランプ支持でも、周囲にそれを知られたくない人たちが一定数いるという分析です。
私は、16年選挙の際には確かにそれはあり得ると思っていましたが、トランプ氏が一度大統領を経験した現在、トランプ支持をそこまで隠す必要はなくなってきているのではないかと思っていました。しかし、実際はそうではなかったということのようです。
何が重視されたのか
さらに驚きなのは、「大統領選で何を重視したか」という出口調査で、「民主主義のあり方」がトップであったということ。民主主義のあり方を重視したうえで、トランプ候補が選ばれたというのはどういうことなのでしょうか?
*米調査会社エジソン・リサーチによる出口調査
「大統領選で投票する際に重視したテーマ」
1位 民主主義のあり方35%
2位 経済31%
3位 中絶の権利14%
4位 移民11%
5位 外交4%
その他5%
考えうる説明は、調査が複数回答となっていたため、「民主主義のあり方」については、優先度が低いながらも、一応回答の中に入れた人が多かったということ。それ以外の重視するテーマ(経済、移民など)の方が、より強く投票行動に影響したということかもしれません。
または、ハリス支持者のほとんどが民主主義のあり方(または中絶の権利)を挙げ、それ以外のテーマを重視する人がほとんどトランプ支持になったということもあり得なくはないでしょう。
ショック療法
トランプ氏が最初に選出された16年の大統領選挙では、既存のエスタブリッシュメントではなく、アウトサイダーに期待する声が大きくありました。
共和党では、それまで政治経験のなかったトランプ氏のほか、一時期は脳神経外科医が候補として挙がりました。民主党では、ヒラリー・クリントン氏はバリバリのエスタブリッシュメントですが、異端の社会主義者ともいわれるサンダース議員も注目を集めました。
要は、アメリカ政治が既得権層でガチガチに固まっており、新風を吹かせなければ、現状を打開できない。一種のショック療法が必要という意識が米国民の間に強かったわけです。
そのショックをもう一度求める声が、トランプ氏を再度ホワイト・ハウスに戻すことになったのでしょう。
トランプ氏は、すでに政治経験のないアウトサイダーではありません。しかしながら、自分が当選した選挙のみが正当で、自分が落選した選挙は不当であるという主張を繰り返す姿勢には、常識のかけらもなく、その破壊的な異質性は「健在」です。
四つの刑事事件で起訴されているという事実も、マイナスに影響するどころか、むしろ「不当な」体制側の圧力に対抗する姿勢が評価された形です。
私たちには到底理解できませんが、そこでは、おとなしく民主的な選挙制度や社会秩序を尊重する上品さではなく、狙撃されても拳を振り上げる強さが求められたのです。
ガラスの天井
トランプ氏が勝利した二度の大統領選挙。民主党の対抗馬は、いずれも女性でした。16年は、ヒラリー・クリントン元国務長官であり、24年は、カマラ・ハリス副大統領でした。
女性ではダメなのでしょうか。新風を吹き込むという意味では、初の女性大統領というのも一つの考え方だと思います。
16年選挙の際、当時のオバマ大統領は、バイデン副大統領ではなく、クリントン前国務長官を後継候補として推しました。初の黒人大統領として自分が手掛けてきた改革(チェンジ)を、初の女性大統領に引き継ぎたいと思ったのでしょう。
今回は、バイデン大統領が出馬を断念したことで、ハリス副大統領が急浮上したわけです。準備不足はもちろんあったと思いますが、出馬当初支持率は大きく上がり、可能性は十分にあったと思います。
それでも、強いアメリカ復活を求める層にとって、そのリーダーには「強い男」が必要なのでしょうか。女性が上に行くことを阻む、目に見えないガラスの天井があるのでしょうか。
経済状況はある種の偶然
実質的な政策面では、バイデン政権時代に続いたインフレがハリス候補の足かせとなったようです。確かにこのインフレには、多くのアメリカ国民が苦しんできました。
しかしながら、経済状況は時の運という面があり、また経済政策の効果はすぐには出ず、場合によっては数年後にその効果と影響が出るものです。
09年から16年の民主党オバマ政権は、リーマンショックによる最悪の経済状況からの復活の時期でした。その間、オバマ政権が打った対策により、徐々にアメリカ経済は上向き、その効果は17年から20年の第一期トランプ政権時代の好調な経済につながっていきました。
しかし、19年末からのコロナ禍による打撃の中、トランプ政権は大規模な財政出動を余儀なくされます。21年以降のバイデン政権でもこれは継続されましたが、コロナ禍が明け、経済が戻った時、それまで放出されてきた大量の資金(流動性)のため、インフレが加速したわけです。
このような経緯を踏まえれば、トランプ氏が自分が大統領であった時期の経済が良かったことや、その後のバイデン政権の時期のインフレがひどかったことを、ことさらに強調するのは、あまりにアンフェアではないでしょうか。
トランプ氏は、自分が大統領になったらすぐに経済を立て直すと言ってきました。しかし、これまでFRB(連邦準備制度理事会)が微妙なさじ加減によって利率を調整し、ようやくインフレを抑え込むところまで来たところです。今後もFRBの手腕によるところはありますが、どうにかソフトランディングすることが期待されています。
ですので、トランプ新大統領が何もしなくても、アメリカ経済は良くなるのです。むしろ、何もしない方がよいくらいです。なぜなら、トランプ氏が計画している関税の大幅引き上げや所得減税の恒久化は、むしろ物価を押し上げる可能性があるからです。 (つづく)