ドラマの設定が非現実的だとか、そういったこと(3)
ドラマの設定が「非現実的だ」などというと、それを批判しているように聞こえてしまいますが、そういうつもりはありません。
すでに多くの方が書かれていますが、3月までのクールで放映されていたテレビ・ドラマ『ブラッシュアップライフ』(バカリズム脚本)は最高に面白かったです。
2年前に書いた記事「同タイトル(2)」で、「非現実的設定」のタイムスリップもののことを書きましたが、この度あらたにタイムスリップものの傑作が出来ましたね。
最近ではむしろ「タイムリープ」という言葉が使われますが、多分、タイムスリップ(タイムトリップ、タイムトラベル)の中で、より短期間の時間移動(自分の人生の範囲内で)のことをタイムリープと言っている場合が多いような気がします。
『ブラッシュアップライフ』は、同じバカリズム脚本の『素敵な選TAXI』(14年フジ)と『架空OL日記』(17年日テレ)を合体させ、さらに発展させたと言える作品ですね。『架空OL日記』でも思いましたが、女性の友達同士の、あの、わちゃわちゃした感じ(失礼!)がすごく自然に描かれていて、すばらしいと思いました。
そういった会話の雰囲気に、当時実際にはやった音楽、ドラマ、カラオケ、ポケベル、たまごっち、プリクラ、ラウンド1、ジャスコ→イオンといった現実感が加わり、それを見ているだけで、懐かしくうれしい気持ちになれます。みんな実名で出てくるのがいい。平成レトロですね。
2年前に「(1)」でも書いたのですが、非現実的な設定以外の日常的な部分は是非とも超リアルに描いてほしいと思っています。そこが何かずれていると、違和感を感じて気持ちわるいものです。
『ブラッシュアップライフ』では、そういったごく普通の日常がとても自然に描かれていて、しっくりくるとともにノスタルジーを感じさせてくれました。そしてこのような日常の上で、人生を何回かやり直せるという(たぶん)非現実的な設定が繰り出されるところがよいのだと思います。
加えて、このドラマでは、主人公(安藤サクラ)のやり直しの人生を単に繰り返し描くのではなくて、複合的に組み合わさって、いろいろな次元の展開を見せてくれました。テレビ局のプロデューサーになって、このドラマ(『ブラッシュアップライフ』)そのものをつくる(そしてそれが「つまらない」と評価される「自虐」も入る)だとか、同じく何周も人生をやっている友人(水川あさみ)と出会わせて、「徳を積む」ための協力体制をとるとか、全く飽きさせない内容でした。
それに、自分だけが、何周目かの人生を送っているのだと、かなり孤独感が増しますが、同志と出会って意気投合することで、あくまで明るく楽観的に話は進みます。
飛行機の墜落を防いだとしても、他の人にはまったく理解されないわけです。場合によっては、友達の乗る飛行機を操縦するため、さらには行先の台湾で一緒に飲んで盛り上がりたいがために強引にシフトをねじ込んだ、限りなくわがままなパイロットとしか見られないわけです。そこを、二人の協力で事をなすことにより、飛行機から離れて落下するスペース・デブリを見て、二人で一緒に達成感と感慨にふけることができます。
非現実的な設定は、ドラマの中にメッセージを強く打ち出してくれる効果があるのではないかと思います。このドラマでは、たぶん、「人生、何度でもやり直せる」というメッセージも込められているのでしょう。一度失敗したら終わり、ではない、そういう世の中にしたいですね。
まあ、このドラマの主人公たちも、別に人生1周目から失敗していたわけではないですし、むしろ幸せだった方だと思います。でも、本人的には「もっと世の中の役に立てたのではないか」という心残りがあり、それが本人的には「オオアリクイ」レべルと思ったということなのですかね。その心の声が、来世への受付係(バカリズム)の発言になったのかもしれません。
ただ、当初、主人公は来世も人間になりたいという欲求のために「徳を積む」人生をやり直すわけですが、そのうち人間という来世を捨ててでも友達や180人の乗客の命を助けるという選択をします。そこにちょっとした感動があります。それが、そんなに感動を押しつけないところが、またいい感じです。
さらに、人生5周やって十分に徳を積んだ主人公は長寿を全うするのですが、ラストでハトが4羽電線に並んでとまっています。主人公たちがハトに生まれ変わり、友達4人(4羽)で仲良く過ごすことを示唆しているようです。この4羽、第1話の冒頭にも出てきましたので、あくまで示唆、象徴ということだと思います。
途中まで、正直なところ、人間に生まれ変わることがそんなに重要なことなのか、何か、人間が地球上の最高の存在であるかのごとく描かれているようにも思えて、ちょっと引っかかっていました。それが、少しづつ変わって、地元を愛する主人公が、来世も地元に生まれて友達と楽しく過ごすこと、人間かどうかということより、そっちの方が大切、という気持ちになっていくところがとても良かったです。
最後に。
私の結構気に入った場面が第一話にあります。主人公の第1周目の人生は交通事故で他界することで終わるのですが、その後、周りじゅう真っ白な場所で気が付きます。地面とか壁とか天井とか、そういった境目や造形がなく、天衣無縫とでも言わんばかりに周りじゅう白です。そこで気が付いた主人公は、思います。
「・・・どうすればいいん・・・ん、ん、や、ずっとこのままじゃないよね・・・こういう地獄なの?」
そう思いますよね。釜茹でとか火あぶりとか、いろんな種類の地獄があるなかで、ただ、真っ白な中に放置される、そんな地獄かもって思いますよね。この場面、結構ウケました。
バカリズムの脚本に、芸達者な俳優のみなさんの活躍が加わり、素晴らしいドラマになっていました。ありがとうございます。このドラマのおかげで、私の人生も少しブラッシュアップされた気がします。かなり、他力本願ですが。
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