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トランプ大統領「再」誕生~世界はどうなるのでしょう(2)

対外関係は二の次

どこの国の選挙についても言えることですが、選挙で争われる論点の中心は内政です。それも国民の暮らしぶりに直結する経済政策についての考え方が、勝敗を決めると言っても過言ではありません。

対外的側面については、その経済政策に関連する移民問題や関税の問題には関心が注がれますが、それ以外の問題については、どんなに世界的に重要な問題であっても二の次になってしまいます。

世界の状況に多大な影響力を有するアメリカの場合もそれは同様です。そのため、決してその対外政策が支持を受けたわけでもないアメリカ大統領の対外政策が、世界の様子を一変させるという、納得いかない状況が生じるわけです。

アメリカの対外政策の変動

アメリカは伝統的に、政権が変わると、外交政策がコロコロと変わってきました。国際協調主義と孤立主義との間を行きつ戻りつしてきたのです。世界各国も、アメリカのそのような状況に慣れてきて、「ああ、大統領が変わったから仕方ない」という達観した姿勢さえも見られます。

しかし、アメリカ以外の国では、政権が変わっても「外交の継続性」を重視し、極力他の国に「迷惑をかけない」ようにしていますし、それが常識的な他国との付き合いでしょう。が、アメリカの政権交代に際して「外交の継続性」などという言葉を聞いた記憶がありません。

特に、トランプ政権前後の対外政策の変動は、目に余るものがあります。

オバマ政権時代に、各国が苦労してまとめたイランの核開発抑止のための核合意。そこからトランプ大統領は離脱し、その後イランは核開発を加速しました。アメリカが主導してきたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)からも離脱し、貿易自由化への流れを真っ向から拒否しました。

オバマ政権時代に、鳴り物入りで中国と同時批准を行ったパリ協定についても、トランプ大統領が脱退、その後再度バイデン大統領が復帰、そして改めてトランプ氏は脱退の意向を表明しています。

側近がブレーキをかけた第一次政権前半

そんな第一次トランプ政権も、政権成立当初は意外と「まともな」動きを見せていました。

イランとの核合意については、トランプ氏は選挙中からその「破滅的」合意の破棄を訴えていました。しかし、17年1月の政権成立後はサウジとの首脳会談で「核合意の厳格な履行が重要」と合意するなど、しばらくは核合意の重要性を認めていました。最終的には18年5月に離脱を表明しますが、そこまで1年以上の時間をかけました。

パリ協定からの離脱についても、選挙中には相当声高に叫んでいたにもかかわらず、大統領就任後は半年ほどこの問題に沈黙しつづけました(最終的に17年月に脱退を表明)。

TPP離脱については、早い時期に離脱を明記した大統領令に署名しましたが、その後「TPPが良い協定になるなら加わるだろう」と述べる場面もあり、トーンダウンする姿勢も見せました。

このような、意外と「まともな」動きは、周囲を固めた常識的な補佐官や閣僚によってもたらされたと見られています。

しかし、今度の第二次トランプ政権では、そのような常識的な側近の存在を期待することができないかもしれません。

党内のポジションを固めたトランプ氏

そもそも、第一次政権でトランプ大統領がそのような側近を指名したのは、共和党主流派への配慮からだったと思います。それは、選挙期間中に指名したペンス副大統領候補から始まりました。

当時完全なアウトサイダーだったトランプ氏は、共和党主流派から強い反発を受けていました。そこで主流派からの協力を取り付けるため、まずは「まともな」ペンス氏を副大統領候補としたのです。また、当選後も議会との協力関係を構築するため、補佐官や閣僚に「まともな」人材を配置しました。

それが、意外とバランスのとれた第一次トランプ政権前半の運営につながったのです。

しかし、その後、徐々にそれら側近の懸命な努力も効果を失ってきます。トランプ大統領の暴走圧力の前に、側近によるブレーキが限界になってきました。一人、また一人とまともな側近たちが解任されていきます。

そして18年11月の中間選挙。再選を目指す共和党議員たちは、国民からの支持が厚いトランプ大統領の応援演説を期待し、トランプ大統領にすり寄ります。このプロセスを経て、トランプ氏は共和党議員と一枚岩になっていき、自らの行いたい政策を遠慮なく進められるようになっていったのです。

中には、リズ・チェイニー氏のように議員時代から現在にいたるまで、継続的にトランプ氏を批判している有力者もいますが、今やそのような存在は例外になってきています。トランプ氏は、遠慮なく自分の好きな人を側近につける立場を獲得したのです。

第二次トランプ政権の人事が、少しづつ判明してきていますが、このようなわけで、トランプ氏に対するストッパーとしての役割は、残念ながら期待できないかも知れません。

対ウクライナ政策が心配

このようなストッパーなしのトランプ大統領ほど怖いものはありません。

アメリカの貿易赤字、財政支出を過度に重視し、世界における正義、人権、民主主義、協調・友好関係といったものを軽視する(少なくともそう見える)姿勢。その姿勢をとる大統領が、世界における絶大な影響力を行使する。それはリベラル民主主義の国々にとって、一種の脅威です。

今、喫緊の課題として、世界における正義のあり方が最も強く問われているのが、ロシアによるウクライナ侵攻です(次いで中東でしょうか)。

まさにこの「正義」というもののために、バイデン政権はウクライナを支援してきました。トランプ氏のように損得勘定をまず重視する立場からは、「どうでもいい」というか、アメリカのカネをこれ以上出したくないというのが第一の考えでしょう。

トランプ氏は、この問題を「24時間で解決する」と言っています。分かり易くアピールするための誇張かもしれませんが、そこから見てとれるのは世界で「正義」を実現することを軽く見る姿勢です。

24時間かもしくは数日で解決すると言うなら、現状でフリーズする以外にないでしょう。それも解決ではなく、当面停戦しておいて今後のことを話し合うということであって、その話し合いこそが難しいわけです。

もし、プーチン大統領を利する形で終結が図られるとするならば、それは力で現状を変更することを認めることになります。それは国際社会における秩序に多大なマイナスの影響をもたらし、台湾や南シナ海における中国の強硬姿勢を助長することになります。(現時点で、すでにトランプ氏がプーチン大統領とコンタクトを始めたとも報じられており、それなりの働きかけをする意図があるのか、要注目です。)

イスラエルには更に肩入れか

一方、中東に関して、第一次トランプ政権の経緯(イラン核合意離脱のほか、エルサレムを首都と認め、米大使館を移転)からして、イスラエルに対しては甘くなることはあっても、厳しくなることは期待できません。

今回の大統領選で、一部の州では、バイデン政権のイスラエル寄りの姿勢に落胆したアラブ系住民の多くが、トランプ氏に票を投じたとの分析もあるようです。しかし、もしそうであるとするならば、それは遠い過去の記憶より直近の印象が強く影響してしまった結果と言わざるをえません。

アメリカ・バイデン政権は、ウクライナ問題でロシアに厳しい姿勢をとるにもかかわらず、中東ではイスラエルに甘いとして、その「二重基準」が批判されてきました。

本来であれば、これはイスラエルにもより厳しい姿勢をとることで、この批判をかわすべきところですが、トランプ氏はロシアに対する姿勢も甘くするという、真逆のことをやりかねません。これは、「二重基準」を解消する方向ではあっても、国際社会における正義に反する方向で解消することに他なりません。

対中関係は周囲側近による操縦に期待

中国に対しては、厳しく対応すべしという共通認識が党派を超えて醸成されているので、その流れは継続されていくものと思います。

しかしながら、トランプ氏は貿易を中心とする損得(中国からの安価な輸入品を締め出す)のみを重視しており、そこが大半の議員と異なります。そのため、トランプ氏は貿易問題を解決するために、台湾、香港のほか、中国の人権問題などをバーターの材料として使うおそれがあり、それが危惧されます。

ただし、この点だけについては、トランプ氏周辺の要人もトランプ氏に対して必死で軌道修正することが期待できると思います。なぜなら、貿易問題だけですべて妥協するほど、超党派の対中危機感は半端ではなく、相当に強い姿勢が醸成されているからです。

金正恩総書記は秘かに期待か

北朝鮮については、第一次政権で歴史的な米朝首脳会談(次いで南北首脳会談)が実現しました。最終的に問題解決には至りませんでしたが、そのこと自体は大きな成果だったと思います。北朝鮮の金正恩総書記も、今回多少の期待をするところはあるでしょう。

地球環境問題は悲観的

地球環境問題については悲観的にならざるを得ません。地球温暖化という事実自体を否定する原理主義的な態度。特に現在は、途上国側に対する資金協力のあり方が焦点になっており、トランプ大統領の最も嫌う議論が盛んに行われています。

第二次政権でもそれなりに周囲からの働きかけの努力はあるでしょうが、上述のとおり、あまり期待できません。(第一次政権では、補佐官であった長女イヴァンカや娘婿クシュナーが地球環境問題に熱心だったようですが、最近はトランプ氏と距離を置いているようです。)

その他、欧州各国や日本に対して、貿易問題や安保問題で、長期的な世界経済への影響や友好関係を軽視し、目先の損得勘定のみを重視する姿勢が再燃しつつあります。NATO各国の軍事・防衛予算の対GDP比について、「4年前に言っておいた宿題はどうなった?」と言うかもしれません。そのあたりは、また別の機会に。

トランプ新政権の動向については、トランプ大統領就任までの動き、就任演説の内容などをふまえ、随時記述していきたいと思います。

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