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けんこうのひけつ
カバは毎朝、あつい夏でも寒い冬でも、冷たい水をあびることにしていました。
「バシャーン!」
「ああ、気持ちがいいなあ!目が覚めて、シャキッとするよ。」
カバは今までけんこうのひけつは、毎朝の水あびだと信じていました。
ですから、数人の友だちにおすすめをしていました。
「やあ、カバさん、今日も元気いっぱいですね!カバさんの教えてくれた習かんのおかげで毎日私も調子がいいですよ。」
「私も、カバさんのおかげで、毎日気持ちがシャキッとします!」
「ありがとうございます!やっぱり、毎朝冷たい水をあびることは、けんこうに不可欠ですな!ははは!」
ある日、町の病院でけんこうしんだんがありました。
待合しつで、リスはうなだれていました。
「どうしよう、ぼくはこのままだと病気になってしまうのか。たしかに、最近はいそがしくて、ごはんをしっかり食べられていないなあ。」
カバは心配に思い、リスに話しかけてみることにしました。
「こんにちは、リスさん。けんこうでお悩みですか?」
「やあ、カバさん。そうなんです。ぼくはもっとけんこうに気をつかうべきでした。」
「リスさん、それなら、毎朝、水あびをすることをおすすめします!冷たい水は体を丈夫にしますよ!みなさんそれをやってから、すこぶる元気ですよ!!ぜひやってください!ぜひ!」
「ええ、冷たい水ですか!そうですか…。」
その次の朝、リスは早速、カバの言う通りに冷たい水を頭からかぶりました。
「バシャーン!」
「ひええ!冷たい!!」
リスは重いカゼをひき、入院することになりました。
「ううう…。」
話を聞いたカバは急いでリスの元へお見まいに行きました。
「リスさん、申し訳なかった。リスさんの体調おかまいなしに、わたしの方法をおしつけてしまいました。ごめんなさい。」
リスは言いました。
「とんでもないですよ。ぼくは、もっと自分の体について勉強することにしました。」
リスとカバは、これを機に、けんこうについて学ぶ、良い友だちになりました。
解説
カバは、毎朝の冷たい水浴びは全般的に健康維持には不可欠であると、自身と数匹の結果から判断しました。これは「ある部分がXだから、全体もXである。」とする合成の誤謬に当たります。(また「全体がXだから、ある部分もXである。」とする場合、分割の誤謬に該当します。)さらに、カバは、小さいサンプル数から、偶然にも冷たい水を朝浴びると健康に良いという結果を得て、規則性を見出してしまっています。これはクラスター錯覚という、ランダムに起こるべき事例が小さなサンプル数で偶発的にも規則性のようなものが見られる場合、それはランダムではないと誤判断してしまうことに該当します。確かに、冷たい水を浴びることは健康に良いという結果がありますが、それが本当に統計的に有意であるほどの十分なサンプル数から導いたことなのか、立ち止まって考えることが大切です。
また、カバは不健康なリスに良かれと思ってその習慣を押し付けてしまいます。これはいくら相手のことを思った上での行為だとしても、押し付けてしまっている時点で、自分の好みや、主観を強制していることに他なりません。これを「ナイーブリアリズム」といい、自分は客観的に物事を捉えていると思い込み、結果として自己中心的な考え方をしてしまうことを指します。
参考:"composition/division"
"Clustering Illusion "
"naive-realism"