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Inscapeとircam パリ課外授業

授業の一環で、パリのポンピドゥセンターで開かれている、Manifesteという1ヶ月にわたるフェスティバルに参加してきた。滞在中にオーケストラと3D音響を組み合わせたコンサート、Inscapeの観賞とircam(フランス国立音響音楽研究所)を見学する機会があり、たくさんの刺激を受けた。

目次
・Inscape
  紹介
  映像と音のメディア
・ircam
  ircamとは
  施設
  雑談
・まとめ

Inscape

Manifesteのイベントとして開かれたコンサート、Inscapeを観賞した。それにとても感動した。作品リストは以下に記載する。

IANNIS XENAKIS ANAKTORIA
HÈCTOR PARRA INSCAPE, French Premiere
BÉLA BARTÓK CONCERTO POUR ORCHESTRE

この中で特に感動したのが2曲めのInscapeだ。このコンサートのタイトルにもなっているこの曲は、オーケストラと3D音響を組み合わせた作品だ。コンサートホール全体にスピーカが配置されていて、様々な方向から音が聞こえるようになっていた。それに加えてオーケストラも舞台上だけでなく2階席の四隅にブースが設けられていて、そこでも演奏をするようになっていた。

以下のサイトに動画が上がっているので、ぜひ見て欲しい。

映像と音のメディア

僕が何に感動したかというと、技術を芸術と融合させるその可能性だ。特に音響の面でそれをしていたというところに大きな感動を覚えた。

昨今、プロジェクションマッピングが流行ったり、ドローンで空中に絵を描いたりと目を引くような視覚作品をたくさん目にする。これは映像の拡張と言えるだろう。これまで画面の中だけで作られていた架空の世界がスクリーンからはみ出してきた。映像というメディアで考えたときにその多様性はどんどんと増している。テレビから始まり、巨大スクリーン、プロジェクションマッピング、ドローン、ホログラム、、、
そして、それらは技術であると同時にそれ自体が作品となっている。視覚的好奇心、身体的好奇心に訴えかけてくる。大きな映像を投影することは自分より大きいというところに身体的な好奇心を覚える。
例えば、テレビという機械にはもはや魅力はない。映像を映すただの箱と言ってもいい。だから、何を映すのかという問題、コンテンツの問題になる。これは、テレビを見慣れてしまったからであると思うが、先に述べたような技術にはその技術自体に魅力があり、それを使うことでしか表せないような表現がたくさんある。

音、聴覚に関してはどうだろう。音の拡張とはなんであろう。デジタルな音の世界はスピーカというメディアが支配している。これは当たり前ではあるが、拡張性がない。全てコンテンツ的な問題になっている。聴覚的好奇心は音に耳をすませることでしか得られない。

これが僕が長い間考えていた視覚と聴覚の差である。

そして、Inscapeはその壁を打ち破ったように思えた。
様々な方向から音が聞こえてくる。この体験はとても面白く、聴覚的好奇心を刺激した。ircamが3D音響を使った作品に力を入れていることが分かった気がした。同時に、今3D音響を学べていてとても嬉しくなった。

技術と芸術を組み合わせて新しい表現を生み出していく。
表現は、新しい文化を生み出していく。

これが音の分野でも十分可能であるし、それがとても楽しい体験であることに気づけた作品であった。

ircam

先のコンサートにも深く関わっているircam。
ircamとはフランス国立音響音楽研究所のことで、パリのポンピドゥセンターに併設されている。有名なところで行くとMax/MSPの開発元である。今回は、授業の一環でircamから客員教授で3D音響を教えに来てくれている先生が内部を案内してくれた。

ircam

wikipediaの記事がすごく的確にまとめられていたので、引用する。

IRCAMは、今日、音楽制作と科学研究に特化した公的研究機関としては世界で最も大きな組織に数えられる。芸術の未来研究と科学技術のイノベーションが集約する唯一の場といえるこの研究所は、2006年よりフランク・マドレーネが所長の座についており、パリの演奏会シーズンを通じ、また音楽祭や、フランス国内外のツアーを通じて、制作、研究、伝播という3つの基本軸を展開している。
..........
活動は以下の2つの任務から成っている。
・科学技術の進展によって、現在の音楽制作に革新を与えること
・このようにして蓄積した専門性を、社会的および産業的に幅広く反映させること(メディア産業、文化新興、教育など)

施設

科学技術と芸術を融合させることを担うR&D部門は地下にある。ここで約150人の研究者が研究をしている。フロアは研究室、会議室、スタジオが繋がったブロックからなっていて、これが7個ほどある。

それぞれのスタジオは、3D音響のための部屋が4部屋ほど、無響室が1部屋、一般的なスタジオが1部屋で、3D音響のための部屋はスピーカがドーム状に22個くらい(正確な数字を忘れてしまった)ついていた。無響室には個人の頭部伝達関数が測れる装置が設置されていた。1人分測定するのに約90分かかり、その間、測定される人はじっとしていなければならないそうだ。

地下には大ホールがある。このホールの最大の特徴は残響時間を変えられるところだ。壁面の吸音材が回転することによって、残響時間を変えることができる。

残念ながらこの部屋はアスベスト対策工事で2021年まで閉鎖されているということだったが、少しだけ内部を見せてもらえた。壁面からはWFS用のスピーカケーブルがたくさん出ていた。

施設の構成からも分かる通り、ircamは現在3D音響開発に力を注いでいる。

雑談

そのほかに、見学中に聞いた話を紹介する。

ircamの予算について
ircamの予算はだんだんと少なっているそうだ。ircamの収入源は国からの予算とMax/MSPなどの売り上げ、コンサートの売り上げであるが、最近では、研究者を大学などに派遣することによって、大学の予算で給与の一部をまかなっているそうだ。

軍事との関係について
ircamが専門とする音響は軍事と関係がとても深い。しかし、ircamは科学技術を所管する省に属してはおらず、文化を所管する省に属しているため、軍事研究は行わず、文化に対して以下に貢献できるかということを軸において研究できるということだった。

まとめ

パリへの課外授業はとても刺激的なものだった。このコンサートの観賞は今後の活動の指針になると思う。3D音響の技術を日本に持ち帰って日本でもなにかしたいと思っている。そして、文化を作っているという自負を持って活動することはとても素敵なことだなと思った。

次回は、前回の投稿「untitled」インタラクティブの制作続編を投稿する予定


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