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デザイン・ドリブン・イノベーションを読む(5)|第4章:技術が悟る瞬間

技術の急進的イノベーションと、意味の急進的イノベーションは、密接に関わり合う。どの技術にも、多くの意味が埋め込まれている。そのうちのいくつかの意味は、最初は目に見えないけれども、潜在的に破壊性を有している。
-第4章:章扉より-

すっかりご無沙汰(実に、ほぼ3年)してしまったわけですが、第4章のタグラインは「テクノロジー・プッシュとデザイン・ドリブン・イノベーションの相互作用」です。
なぜ、今更再開?という感じですが、まぁ、世の中色々あるんです。はい。

さて、前回(34ヶ月前)、第3章の読み解きでご紹介した通り、

・デザイン・ドリブン・イノベーションは意味の急進的イノベーションである
・意味の急進的イノベーションは、ユーザーによってもたらされることは(ほぼ)無い
・意味の急進的イノベ―ションはテクノロジーの(=技術的な)イノベーションの緩急とは別の視点で捉えられる
・別の視点とは、即ち「感情」である

ということになっています。これが、本章を読み解く際の前提となります。では、早速、第4章の森に分け入っていきましょう。

「技術が悟る瞬間」=”技術進化”と”新しい意味”の重なり

本章のタイトルである「技術が悟る瞬間(technology epiphany)」を、まずは理解しておきましょう。これは、本書の冒頭から、何度となく語られる「技術の縦軸」と「意味の横軸」の ”右上” のことです。

つまり、技術=パフォーマンスが急進的に改善し、意味も急進的に変化する(=新しい意味が付与される)、という状況です。

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著者は、「テクノロジー・プッシュ=技術の上側」と「デザイン・ドリブン=意味の右側」は、相対するものではないのに、どちらか一方にしか目を向けない会社ばかりである、と嘆きます。実際には、両社は相互補完を行うことが可能であるのに、と。

そして、両者の相互補完関係の成功事例として、Wii、スウォッチ、iPodの3つの事例が取りあげられます。詳しい内容は、是非、本書をお読みいただければと思いますが、それぞれの事例を簡単に追いかけてみましょう。

事例:Wii(任天堂)=「競争を覆す」

状況:かつてファミコン(ファミリーコンピュータ)で、家庭用ゲーム機市場を席巻した任天堂は、ソニーのプレイステーション(PS)、PS2の発売および、マイクロソフトのXboxに登場により、後塵を拝することになった。
そこで投入した、ニンテンドー64、ゲームキューブも起死回生の一手とはならないなか、PS3、Xbox360が投入され、機能的な差はより大きく広がった。

変化:そんな中で投入されたのがWii。これは「枯れた技術」を使っているためコストが安く、競合よりも廉価で、且つ、利益を生み出せる状況にあった。そして、ゲーム市場に新風を吹き込んだ。

提供価値:コントローラーを操作する、は、従来は「指でボタンを押す」「指でスティックを操作する」というものだった。しかし、Wiiは「持って振り回す」だった。技術的にはX,Y,Z軸の加速度センサーを組み込んだもので、それ自体は珍しくはないが、それを、「近未来的ではない直線的な形状」で、ゲーマーではない層が、楽しくプレイできるように仕立て上げたのがポイント。

上記を踏まえ、書籍内では「バーチャル世界でゲームをやりなれた若者が受動的に夢中になるようなゲーム機」として”急進的改善”を遂げたのがPS3やXbox360で、「誰もが積極的に身体を使って楽しめるようなゲーム機」として”急進的改善”に”新しい意味の生成”を組み合わせて実現したのがWiiであった、と解説されます。

素晴らしいですね。これが、technology epiphany(技術が悟る瞬間)ってやつなんですかね。既存の技術に、意味を見出す。素敵です。僕も枯れた技術が大好きなんですけど、まさに、こういう感覚なんじゃないかと思います。憧れます。

この調子で読み進めると、相当な分量になってしまうので、スウォッチ、iPodはサラッと流します。(興味のある人は、ぜひ、書籍をお読みください。)

スウォッチの事例:

”宝飾品としての腕時計” が、急進的改善の中で「クォーツ・ムーブメント」「LED、LCDディスプレイ」を生み出した。それを活用して、カシオなどが ”道具としての腕時計” として新しい意味の生成を推し進めたさらに先に、”ファッション・アクセサリーとしての腕時計” をスウォッチが生み出し、新たな市場を作り出した。

iPodの事例:

ウォークマン、MD/CDプレイヤーから、急進的改善によってMPプレイヤーが生まれたが、そこから「シームレスで個人的な音楽のプロデュース」への新しい意味の生成が行われたのが、iPodおよび、iTunes/iTunes Storeのエコシステムであった。

こうした3つの事例について、著者は「技術の急進的イノベーションと、意味の急進的イノベーションは、密接にかかわりあっていることをはっきりと示している」と述べます。
技術的革新が起きたときに、それが孕んでいる意味を思い描くことができるかどうか、が勝負の分かれ目だというわけです。

技術革新だけ、すなわち、純粋なテクノロジー・プッシュがもたらすものは、既存の意味、あるいは直接的な意味の範疇での革新です。しかし、そこに新しい意味を見出すこと、つまり、新たな技術が内包する意味を理解することが加わると、そこには新しい地平が広がります。
この「技術から意味を見出す」ことを、本書では「技術が悟る瞬間」と表現しています

Wiiは、この変化を「技術的イノベーション(加速度センサーのゲーム利用)と同時に、新たな意味を見出した」事例です。そして、スウォッチとiPodは「技術的イノベーションが進んだうえで、そこに新たな意味を見出した」事例です。

こうした、技術が悟る瞬間、を、しっかりと探求できるのか。そして、競合他社に先んじてそれを見出し、自社の戦略に組み込むことができるかどうかが、企業の成否を分けているということになります。

デザイン・ドリブン・イノベーション

本章の最後は、以下のような内容で締めくくられます。

デザインは、画期的技術と同じくらいに破壊的になりうる。さらには、デザインは、画期的技術が産業を破壊できるようにする兵器となり得る。

当然ながら、ここを読む際には、本書で定義する「デザイン」が、「意味の発見・意味の付与」である、ということを忘れてはいけませんが、その前提に立つと、技術革新と同様に、技術が悟る瞬間を探すことの重要性を説いている、と理解することができるでしょう。

また、本章の途中には、このような記述があります。ここが、本書が主張する本質なのではないか、と思いますので、少し長めに引用します。

どの企業でも、R&D部門は、エンジニアと科学者の王国である(中略)。R&D部門では、とりわけ技術集約型の会社では、デザインは大して重要ではない八鍬真理だった。(中略)ハイテク会社は、デザインは最後になって、適切なユーザー・インターフェースをデザインするときに役立つと思っているのだろう。つまりデザインは、技術をより使いやすくするためのものであり、それ以上の何ものでもないと思っているのだ。
イノベーション及び技術的躍進のマネジメントに関する既存の理論は、こうしたデザインの見方を支持している。

これはつまり、矮小化されたデザイン、いわゆる「意匠」に類する領域の話だけにデザインの適用範囲を留めていることへの警鐘です。
個人的には、「デザイン」という言葉を使うのをやめて、新しい言葉を探すべきなのではないか、と思うのですが、それは、おそらく「コンサルタント」という言葉が近年直面しているのと同じ課題なのでしょう。

ここまで読み進めてくると、本書のタイトルである「デザイン・ドリブン・イノベーション」という言葉は、従来の考え方とは一線を画す思想であるということが良く分かってきました。
それが、あらゆるシーンに適用できるのか?ということについては、いささかの疑問を感じますが、これまでのやり方では起こせなかったイノベーションを起こす「鍵」だ、という主張には一定の正しさがあるように思えてきました。

さて、約3年ぶりに読み解きを再開したわけですが、ここまで来て、ようやく「(本書における)デザインとは何か」、「デザイン・ドリブン・イノベーションとは何か」の概略がつかめてきました。続く第5章「価値と挑戦」で、本書の第一部が終わります。そこまで進めば、もう少し、(僕の)理解が深まる…と、期待したいところです。

補足。いや、蛇足。

ちなみに、スウォッチの事例において、彼らがLEC,LCD技術を用いずに、アナログ・ディスプレイを用いたことについて、本書では

アナログ・ムーブメントによって、スイス企業は、コンポーネント‐インケース・アーキテクチャを開発することで、自社のコア・コンピタンスを高めることができた。

と、解説されています。また、それに加えて、各種スウォッチの戦略に関しては、以下のように評しており、著者が、スウォッチを最高の事例だと捉えていることが分かります。

これらすべての特徴(先見の明があること、違った角度から社会文化的現象を観察すること、リスクを負う覚悟があること、市場テストに惑わされないこと、技術ベースの強みを利用すること)は、効果的なデザイン・ドリブン・イノベーションの主要な特徴である。

めっちゃ興味深いなぁ、、、と思うので、蛇足的メモとして残します。

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