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三浦半島 春の七草栽培に迫る

みなさんは、春の七草の名前をご存知でしょうか?
「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ。これぞ七草」という和歌で覚えた方もいらっしゃるかもしれません。
七草のうち、スズシロ(大根)とスズナ(かぶ)は畑の作物で、普段の暮らしにもおなじみの根菜ですよね。セリとホトケノザ(タビラコ)は水田付近に生える草、なずな・ハコベラ(ハコベ)・ゴギョウ(ハハコグサ)は畑でよく見かける草です。

毎年1月7日に七草粥を食べるという風習は、平安時代初期に宮廷で始まったといわれています。江戸時代には人日(じんじつ)として五節供の一つに数えられ、冬の寒い時期にも健気に田畑で生えている七種の草を採って「七草粥」を炊き、縁起物としていただいて無病息災を願いました。上記の和歌は、江戸時代頃に詠まれたのではないかと言われており、その後庶民の間でも七草粥を食べる風習が広がったとされています。昔は摘んできた七草を「囃子(はやし)」を唱えながら切ったり、七草を茹でて冷ました汁に指を入れて爪を切る「七草爪」という風習もあったようで、正月行事の文化としても奥が深い。。

そんなお正月のしめくくりに食べる七草粥の七草すべてを栽培している農家さんがあります。今回は、神奈川県にある三浦半島で七草を育てる岩崎ファームさんに、七草栽培の魅力や難しさについて教えていただきました。


三浦半島ってどこにあるの

三浦半島は神奈川県の南東部に位置する半島です。三方が海に囲まれ、東岸には横須賀やペリーが来航した浦賀、西岸には観光地で有名な江の島・鎌倉や逗子・葉山など湘南の別荘地が広がっています。半島最高峰の大楠山は標高が242mの低い山ですが、山頂からは東京湾や房総半島、富士山を見渡せる絶景です!
海に囲まれていることから、内陸部に比べて1年の中で気候の変化が小さいため、「冬は暖かく、夏は涼しい」と大変うらやましい環境!都内・横浜方面から山を越えて近づくほど、だんだん柔らかい気温になっていくのを移動しながら肌で感じられるほどです。ただ風の影響も受けやすく雨量も多い地域です。畑作地帯では温暖な気候を生かして、冬は大根やキャベツ、夏は西瓜、メロン、カボチャなど露地野菜の産地としても有名なんですよ。

三浦半島の畑の様子(岩崎ファームさん畑の写真使用予定)

おさらい☆春の七草

春の七草の名前は知っていても、それぞれがどんな形や特徴がある作物なのかご存じない方も多いのではないでしょうか。ここではおさらいと題して春の七草を1つずつ紹介していきます。

  • せり

七草の美味しさトップバッター!

水辺や湿地に育つセリ科の多年草で、若葉は特有の香気をもっています。
草丈は30センチほどで夏には小さな白い花を咲かせます。
競り合うように背丈を伸ばして群生する様子から、「競り(セリ)」とよばれるようになったと言われてます。

  • なずな

肉厚な感じがいいですね🎵

日当たりのよい路端や田畑で育つアブラナ科の年越草。
草丈は30センチほどで白色の小十字花を総状につけます。
諸説ありますが、夏になると枯れてしまうことから「夏無」と名付けられたといわれています。三味線のバチに似た実をつけることから、”ペンペン”という三味線の音になぞらえて、ペンペン草とも言われます。

  • ごぎょう(キク科)

味は、一番の個性派! 大地の香りがしっかりと。

全体に白い綿毛が生えているキク科の越年草。
草丈は15センチほどで、きわめて短い茎にたくさんの葉が付いているため根から束生したように見えます。
白い綿毛に覆われた茎の先に黄色い花が咲くのが、子供が母親に抱かれているように見えることから母子草(ハハコグサ)という別名が付いたともいわrています。

  • はこべら

ナデシコ科の越年草。日本には18種類ほど自生しており、春の七草として食されるのは「コハコベ」です。地面に這うように葉茎を伸ばして生長するのが特徴。草丈は20センチほどで、広卵形で柔らかい葉を対生します。
江戸時代には青いまま炒って、水気を切った後に塩を混ぜて粉末状にした”繁縷塩”が歯磨き粉として使われていたそうです。

  • ほとけのざ

タビラコと呼ばれるキク科の越年草で田んぼの畦(あぜ)などで育ちます。
草丈は20センチほどで早春に黄色い花を咲かせます。
葉が放射状に広がって伸びる様子が仏様の連座に似ていることから「仏の座」という名前が付いたようです。

  • すずな

すずなはカブの別称で、アブラナ科の越年草です。
茎の形状が鈴に似ていることやカブの形が錫(すず)製の容器に似ていたことから名前がついたとする説もあります。

  • すずしろ

すずしろは大根の古い呼び名で、アブラナ科の越年草です。
大根の根が白くて清々しいことから「清白」と表記することもあります。

七草農家を始めたきっかけ

今回、お話を聞かせてくださったのは、先代のお父様が七草栽培を始められ、現在は2代目の農家さんです。もともとは主にキャベツや大根を栽培されていましたが、大型野菜は年によって価格の変動が激しく安定しないため、先代が平成元年から七草栽培を始められたのだそうです。とはいえ、七草の栽培をする農家さんは少なく、最初の3年は試行錯誤の連続。トライアンドエラーを繰り返しながら少しずつ栽培規模を増やしていきました。営業努力もあり、現在ではスーパーや百貨店への卸しも含め53万パックを製造するまでになりました。

七草の大きな産地は日本で2か所のみで、その1つが岩崎ファームさんのある三浦半島です。三浦七草組合を発足し、現在は原田農園さん・松原農園さんと3件ではねっ娘会という名前で運営をされています。「はねっこ」は地元の言葉で、「風で飛ばされた地面の泥」という意味で、自分たちが栽培したものを食べて元気になってほしいという思いを込めて名付けました。

七草の栽培方法

年末になってくると七草全てを栽培から収穫・パック詰めまでほぼ手作業で行います!6ヘクタールの畑で7種類を育てているそうで相当な規模です…。安定して生産するために、慣行栽培という基準を満たす堆肥・農薬を使用して育てる方法を採用しています。

 収穫時期は種類によって決まっており、12月10日頃から保存のできる品種を優先してスタートします。収穫した7種全ての泥を取り、調理しやすいように葉の部分だけ綺麗に調整する作業は特に人手がいるそうです。出荷に向けて、ピーク時には合計300名で収穫とパッケージング作業を行うというので驚きです。。!!パック詰めは直前の1月5日まで続きます。関東のスーパーや百貨店の店頭に並んでいる七草パックは「はねっ娘会」で作られたものだそうですよ。

七草栽培の難しさ

七草栽培を続けて30年が経ちますが、いまだに難しいと岩崎さんは話します。出荷用パックのサイズに合わせて、七草全種類を詰めなければならないため、作物が大きく育ちすぎてもいけないのだそうです。育ち方はその年の天候に左右されるので作物の状態を常にチェックする必要があります。また1つ1つ収穫時期や性質が異なるため、見極めも非常に難しい。
例えば、ホトケノザは病気にかかりやすく、葉が溶けてしまったり、スズシロ(大根)は鬆(す)が立つ(蜂の巣状にぷつぷつと穴が空く)ことがあるので、出来上がったものを切ってみないと品質が分からないのだそうです…!
そういった苦労と長年の経験から、それぞれの種類に適した収穫時間帯があることに気づき、収穫した作物の品質を保つことにつながっています。7種類すべてが欠けることなく良い状態で出荷を迎えるためにはたゆまぬ努力があってこそなのです!

夕日に輝く立派なカブたち!

栽培を続けてきて思う、七草の魅力

七草栽培は7種類の野菜・植物を同時期に出荷しなくてはいけないため、栽培方法が難しく、ごく限られた人しか作ることができません。しかし言葉を返れば、それは自分たちにしかできないという誇りとやりがいがある仕事。簡単に真似することはできないため、今では独自のキャリアとなったそうです。七草を栽培することは、日本の伝統や風習を伝えることにもつながります。蓄積されたノウハウと日々の努力で、他の農家さんと今まで挑戦し続けることができました。
働き方の面では、出荷するお正月の時期までの時期は忙しいものの、それ以外の時期は、自由な時間を過ごしやすいメリットがあるそうです。農業は自分がやった分だけ成果が形に現れるので、自分の努力や経験を生かして挑戦することができ、非常にやりがいがあるとお話ししてくださいました。

七草粥の作り方

今回は手早くできる、ご飯から炊くレシピでご紹介です!

まずは、七草の下ごしらえから。
本来は、前日・6日の夜から下拵えをする地域もありますが、当日作ることも多くなった七草粥。ご都合の良い時に、ぜひ!


すずなとすずしろは白い部分があれば、葉の部分と分けて、いちょう切りなど食べやすい大きさに切り、七草の葉の部分は粗く刻みます。(伝統的には2本の包丁で、七草ばやしを歌いながら刻み、無病息災を祈ります)
※お好みで、葉は塩茹でして冷水に取って、後から加えてもok

鍋に炊いたご飯お茶碗1杯分と水3カップを入れ、すずな、すずしろを加えて蓋をせずに10分ほど煮ます。ご飯が柔らかくなったところで荒刻みの七草の葉と、塩ひとつまみを入れて軽く混ぜ、葉に火が通れば出来上がりです。

七草粥は、お餅を入れて炊いても食べ応えがあって美味しい!

もちろん、お米から鍋でお粥を作ってもOKです◎
食感を楽しむためにお粥が完成してから七草を加えるとシャキッとした歯応えが残ります。

お好みでお餅をいれたり、鶏ガラスープの素やごま油を加えて中華風にアレンジするのもおすすめですよ!
疲れた胃腸をいたわる優しい味わいです^^

おわりに

日本で数少ない七草農家さんから7種類の作物全てを一番良い状態で出荷する難しさとそのやりがいをお聞きすると、年明けに何げなく手に取っていた七草のパックには、農家さんの日々の努力と長年の思いも一緒に詰まっていたんだなとあたたかい気持ちになりました。次の1月7日は今までとは少し違った気持ちで七草粥を楽しめそうです。

皆様もぜひ、いろんなレシピで楽しんで見てくださいね!


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