[ミステリ感想]『QED 百人一首の呪』(著:高田 崇史)
歴史ミステリを書かれる作家は多くおられますが、本書の作者、高田 崇史氏はボク的にはまずその筆頭としてあげたい作家のひとりです。
作者の高田 崇史氏は1958年生まれで、薬剤師の免許をもたれています。
そのためでしょうか、事件の謎に挑むホームズ役の桑原 崇(通称、タタルさん)とワトソン役の棚旗 奈々は、薬剤師という設定になっています。
『QED 百人一首の呪』は1998年に発表されたもので、『QEDシリーズ』と呼ばれる歴史ミステリシリーズの第一作にして、第9回メフィスト賞を受賞した高田 崇史氏のデビュー作です。
百人一首の呪。
魅惑的なタイトルです。お正月にカルタ遊びなどをする雅なイメージのある百人一首に「呪(い)」という文字をつけていますが、一体、百人一首にどんな呪いがあると言うのでしょうか?
作品は二つの謎の流れがあります。ひとつは作中内の事件である百人一首カルタのコレクターとしても有名な会社社長の殺人事件。
そしてもうひとつはタイトルにもなっている百人一首にこめられた謎です。
現在の殺人事件と過去の歴史の謎を平行して扱うパターンの歴史ミステリがもつ問題点としてあるのが、ややもすれば殺人事件の謎解きよりも歴史の謎解きの方が面白い、および、殺人事件と歴史の謎の関連性が薄いといったものがあります。
この『QED 百人一首の呪』もこの2点の呪縛から完全に逃れているかと言うと、残念ながらそうではありません。
殺人事件と百人一首は決して無関係ではありませんが、歴史の謎との関連性は少々弱く、また強引な謎解き(ボクはちょっとだけ京極夏彦氏の「姑獲鳥の夏」を連想しました)であったように思えます。
ですが、それは逆に言えば、歴史の謎である百人一首にまつわる謎解きがそれほどに魅力的であったということなのかも知れません。
いや、そうはいうけれど。とここまで読んで思う人もいるかも知れません。
そもそも百人一首自体に謎があるのか?とー。
く~~っ!あるんです! (川平 慈英風)
■百人一首は後世に名付けられた
百人一首は有名な歌人、藤原定家らが、百人の歌人の和歌を一首ずつ選んだものですが、もともとは『小倉山荘和歌』(おぐらさんそうわか)と呼ばれていたそうです。
小倉山荘は、藤原定家の山荘で、その襖(ふすま)を飾るために貼った色紙を、のちの誰かが清書した際に『百人一首』を名付けたとされています。
そもそも『小倉山荘和歌』は、藤原定家の嫡男の妻の父、宇都宮頼綱から頼まれて制作したものです。
その時、定家はすでに74歳、中風を病んでいて、おそらく自身最後の和歌選集の作業になると思ったのではないでしょうか。
藤原氏では代々『百人一首』を藤原定家の形見と思えと和歌で伝えられているそうです。
■藤原定家はもうひとつの百人一首的歌集を制作していた
昭和26年に発見された『百人秀歌』は現在、藤原定家自身が編んだ歌集と言われていて、この『百人秀歌』に取り上げられている和歌は、「百人一首」とほぼ同じ和歌が選ばれています。
ほぼ同じとは、『百人秀歌』には、「百人一首」には入っている後鳥羽院と順徳院の歌が入ってなく、代わりに別の三名の歌が選ばれていること、そして百人一首にも選ばれている源俊頼の歌が別のものになっていることが相違点としてあるという意味です。
そして、都合百一人なのになぜか『百人秀歌』となっています。
■なぜ藤原定家は駄作を百人一首に選んだのか
少々長い引用となりましが、百人一首は、藤原定家にとって、必然性のある、重要な意図を隠すために、選ばざるをえなかった和歌で成り立っているということです。
では藤原定家が百人一首に隠した意図とはなにか?これが本作の最大の謎となります。
■感想
百人一首(と百人秀歌)を言葉で結び付けてジグソーパズル(曼荼羅?)のように配置し、新たな解釈にたどり着く桑原 崇。
それは奇遇にも今年の大河ドラマでも描かれる承久の乱で、鎌倉幕府(武家)に敗れ、隠岐へ島流しにされてしまう後鳥羽院と藤原定家との関係にも関わるものでした。
(同時に殺人事件も解決へと導くのですが、最初に書いたように殺人事件の解決は専門知識が必要な、ややこじつけ感が強いものです)
百人一首や和歌、平安時代末期のこの時代などに関してよほどの興味がないと途中で投げ出したくなるかもしれません。
(ボクも本作を読んだ当時は今よりも気力があったのですが、挫折しそうになりました^^;。今回、この感想を書くため、パラパラとめくりましたが、最初から読めと言われたら、絶対に無理と言ってると思います。)
読む人を選ぶ歴史ミステリですが、しかし、それでもなお百人一首の呪の謎解き(百人一首にこめられた藤原定家の意図)は魅力的(かつ難解)なものでした。
高田 崇史氏の『QEDシリーズ』は20作以上あり、決して本作が最高傑作というわけではなく、さらに評価の高い作品もありますが、ボクはシリーズの大半を読めてませんので、いつか読破して、コンプリートを宣言したいと思います😅。
願わくば、高田 崇史氏がこれ以上、『QEDシリーズ』を書かれませんように🙏。