悲しみの底で

深い悲しみの海がある。

涙の波にのまれ、感情の渦に巻き込まれ、光さえ見えなくなって、暗い海中へ沈んでゆく。
苦しんでもがいても、どうにもならないことの圧倒的な喪失感になす術もなく、
やがて、悲しみの底にたどりつく。


そこは、これまでの大時化がうそのように、すっと凪いでいる、一等静かな場所だ。
その透明な景色の中で、夢にまでみた、亡くしたはずのものとの邂逅が待っている。


悲しみを感じること自体が、大切なものと共にあることの証左だと気づく。
大切なものに想いを馳せるとき、与えられたものを噛みしめるとき、その存在の前でただ立ち尽くすとき。
これからも、何度も何度も大切なものと出会うことができるのだ。


だから、歩いていこうと思う。大切なものをみることのできる、この透明な景色の中を。

いつか、走馬灯で共に大空を飛べる、その時まで。

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