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気が晴れたから、もう一度勝負。

本当は、君と来たかったんだ。

でも結局、やっと訪れたこの川越の地は、僕の気散じの場になってしまった。

埼玉県にありながら「小江戸」と呼ばれる観光地は、僕を現実世界からいい塩梅に逃避させてくれる。好きだったのに声を掛け損ね続け、とうとう他の男のものになった君すらも、「江戸」から見れば遠い未来の「令和」の存在でしか無いのだから。

男の一人旅でも声を掛けてくれる人力車のあんちゃんや、香ばしい焼き団子の匂い。僕にはそれら総てが愛おしく感じられた。背高のっぽの時の鐘も、3本足の八咫烏の神社も、色とりどりに塗られて売られた狐面もみんな、傷心の僕をあたたかく迎え入れてくれる。

君と、この川越に来たかった。なのに君とは、来られなかった。

でもやっぱり僕はいつか、君とこの街に、遊びに喜多院(きたいん)だ―なんちゃって、ね。

ふざけてみたけど本当に、僕はまだ君を諦めたくない、そう思ったんだ。



#旅する日本語 #気散じ

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桃胡雪(みるくゆき)
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