「香・大賞」応募作品:遠い香りよ、
埼玉に住んで十年ほど経つ。それでも今も道ばたの街路樹に、ハマナスの花を探してしまう。
遠い北国にある私の故郷では、当たり前の様にハマナスが身近にあった。調べてみたら生息地の南限が埼玉まで届かないらしい。だから見つからないのか、と納得しつつ、なんだか寂しい。
北国の短い夏、ハマナスは目を喜ばす花を咲かす。脆い花びらを潰してしまわぬよう、そおっと鼻に当てると、なんとも瑞々しく爽やかで、それでいてしとやかな—そんな香りが、少女だった私の鼻腔を漂った。
夏を終えてしまうと、秋はあっと