埼玉でマヨイガ的お菓子屋さんに出逢った話
ネットっていうのは、本当にバズるとその影響が大きく現れるのだろうか。
どこかで「案外、バズったところでその一瞬だけ盛り上がって、いわゆるリピーターみたいなものはつかなかったりするんだよ」的な意見を目にしたことがある。
なので、このコロナ禍だし敢えて名前を出さずにとあるお店の話をしたいと思う。
私のこの話を聞いて、本当に気になった人だけが調べてそのお店を探り当てたらいい。そういう人の方がきっと、あのお店の良さを、ちゃんとわかってくれる気がするから。
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ところでマヨイガというのをご存じだろうか。
迷い家(まよいが、マヨイガ、マヨヒガ)とは、東北、関東地方に伝わる、訪れた者に富をもたらすとされる山中の幻の家、あるいはその家を訪れた者についての伝承の名である。この伝承は、民俗学者・柳田國男が現在の岩手県土淵村(現・遠野市)出身の佐々木喜善から聞き書きした話を『遠野物語』(1910)の「六三」「六四」で紹介したことにより広く知られるところとなった。—Wikipediaより
最近だとマヨイガより、ネットの怖い話の「きさらぎ駅」とかそういう表現を用いた方が想像しやすいのかも知れない。
ともかく、私はあのお店を「マヨイガみたいだ」、そう思った。これで実際に私のバンドがすげえ売れたりしたら、あすこはガチのマヨイガ効果のあるお店だったと言える、のでお楽しみにどうぞ。
(あ、欲出しちゃあいけないんだっけか…。)
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とりあえずまあ、ざっくり140字でまとめるとこんな塩梅だ。
田舎道を走っている最中、なんの前触れもなく唐突に現れたそこは、草がぼうぼうに生えている中に、色鮮やかなのぼりが立てられたままになっていた。一瞬「打ち捨てられた貴族の森?」と勘違いをする風貌—とも言えるかな、うーん。
というのも、たとえば毛呂山町の貴族の森は閉店したにも関わらず、なんかそのままになっていて、角度が角度だとまだ営業しているようにも見えなくも無いのだ。
広い駐車場と、明らかに使われていない建物の半分—しかし、もう半分には「営業中」を匂わす貼り紙がたくさんなされている。やはりほったらかしにされた池には、たぶんボウフラがたくさん涌いていそうだけれど、きっといつかの過去においてはここが噴水みたいに整備され、もしかすると鯉くらいはいたのかも知れないと思わせる。
そんなお店が佇んでいたのだ、埼玉県内の、とある場所に。
屋号は「おいおいここ埼玉だぜ?」といった感じ。北海道で「石垣島ちんすこう本舗」とでも名乗っているとでも例えておこうか。
「ねえ、ちょっと入ってみる?」と、夫はその駐車場に車を停めた。駐車場もそんなに整えられてはいない。雑草だらけで、いい家のいいお庭にありそうなガーデンテーブルなんかがひっそりと置かれていたりする。
けれどもいざ中に入ってみると—そこは、例えば「くらづくり本舗」とか「梅林堂」とかの広めの店舗に入店したかの様な錯覚をおぼえる、そんな、なんというか立派できれいな、いい意味でいたって普通の営業中の和菓子屋さんでしか無かったのだ。
「いらっしゃいませ、」と、20代くらいのお姉さんと、もう少し先輩なのかなといった風情のお姉さんに接客される。「よかったらどうぞ、」と冷たいお茶もいただいた。ここで売っている黒豆茶が試飲できるのだ。店内にはこのお店の独自商品のほか、なぜか全国各地の限定ハッピーターンが売られていた。やはり我々の様に「なんとなく」引き寄せられてきたらしきおじいさん客が、黒豆茶が何かをよく理解できず、試飲を断ってみたり、やっぱり飲みたがったり優柔不断にしていたのが、この店のカオスさに拍車をかけていた。
義理の母へのお土産に和菓子を買い、お姉さんに「スタンプカードはお持ちでは無いですか?」と訊かれる。仮に作ってもなかなかここには来られないしなあと考えていたら、特に勧誘もされずに済んだ。
お店を出、夫と「…なんだか不思議なお店だったね」と語らう。お店の裏手には従業員入口らしきものもあり、そこには車も何台か停まっていて、それを見てやっとこのお店に現実味を感じられた。
帰宅してからも我々は、まるでこのお店に行ったことを「不思議体験」みたいに語り合った。これに近い感覚は、もうとっくに無くなってしまったけれど、鶴ヶ島市にあったポポラに行った時に味わったっけ。
例えるならば「夢の中で見た場所」、みたいな。どうしても現実味に欠けるというか、蛍光灯でまばゆいイオンとか、お得感で充ちたコストコとか、そういったものにはけして帯びていない雰囲気が、まるで彼岸のように漂っている(ポポラは特にそんな塩梅だった。怖くて二度と行けなかったくらい…笑)。
そうして話していてふと「ああ、あの和菓子のお店はマヨイガみたいだったな」と、私はそんなことを思ったのだ。
よくよく検索してみると結構な歴史を持つ老舗だったけれど、あの屋号で埼玉企業だとわかっている人は少なかろう。小樽のルタオなんて逆から読んだらオタルってくらいにわかり易いのにね。
けれどもあの強烈な「いきなり現れた非現実感」は、本当に現代のマヨイガって感じだった。
正直、自分用に買ったあんみつはびっくりするほど美味しくなかったけれど、あれはあすこの独自商品じゃあ無いみたいだったので、これもまたいい思い出としよう。
コロナ禍が通り過ぎていって、もっと大手を振ってあのお店まで行ける日が訪れたなら、今度はちゃんと独自商品のお菓子を自分の為に買って味わいたい。
その日まで、どうか潰れたりしないで、そのまま佇んでいてねー私の出逢った、埼玉のマヨイガよ。
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埼玉銘菓「十万石まんじゅう」を食べてみた動画もあるので、こちらもどうぞ。
秩父をゆく動画も良かったら是非!浦山ダムが出てきます。