「まっすぐ」をくれるもの
私の高校時代は北海道の函館に在った。そして初恋も、その街で経験した。
片想いの彼は陸上部で、休みの日でもトレーニングによく市内を走っていて。函館山の麓の、あのまっすぐに伸びる八幡坂を走る彼を、私は散歩するふりして眺めに行ったっけ。陸上に生一本な彼は本当に、八幡坂のまっすぐな景色がよく似合う少年だった。
函館の街は、高校通学の為の下宿先だった。実家は道南のうんと田舎町に在った私は、高校生活の三年間が過ぎ、今度は大学進学の為に上京した途端、函館とはそのまま疎遠になってしまった。彼にも告白できずに私は「内地の人」となり、そうしている間に十年が過ぎた。
不況からのリストラの噂に怯えるのにも疲れた。上司の顔色を窺うのにも。
ふと函館を想う。恋だけが心を染めていた頃の感覚を、あの街で、叶うならば八幡坂に立って、追想してみたくなる。
あの頃の私に逢う為に、有給の申請をしてみようか。
私はまた、まっすぐになれるかな。
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