あなたの本当に大切なものは何ですか?【中学校での講演の内容】
こんにちは。僧侶の神崎修生です。
このたび、ご縁をいただき、東京にある東大和市立第二中学校の授業にて、「死」と「生」についてお話をさせていただきました。
「あなたにとって本当に大切なものは何ですか?」
この人生の問いについて、「いつ亡くなるかわからないいのちを生きていること」「いただいたいのちであること」の視点を加えて、学生の皆さんとご一緒に考えさせていただきました。
▼音声でもお聞きいただけます
こちらの中学校では、SDGsや地域活性、生き方について学ぶという素晴らしいプログラムにチャレンジされています。
この日の授業は、4クラス同時中継で、東京(中学校)と福岡(信行寺)とをつないでのリモート授業でした。グループワークもおこないましたが、慣れたもの。
先生方のご尽力、すごいものがありました。学生の皆さんの意見も素晴らしかった!
お子さんや学生の皆さんと関わることは、とても楽しいです。東大和市立第二中学校の皆さん、ありがとうございました!
さて、今回はお話した内容について、シェアさせていただきます。
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◆本当に大切なもの
「あなたにとって本当に大切なものは何ですか?」
今回はこのテーマについて、皆さんと考えていきたいと思います。
人生100年時代ですが、人生は長いと思っていると、本当に大切なものは何か、幸せとは何か、日々何をすればいいかなど、ぼやけてしまい分からなくなってしまいます。
私は、僧侶として日々、色々な方の最後をお見送りさせていただく機会があります。お見送りさせていただくとは、ご葬儀をお勤めしたりすることです。
その中で、「いつ亡くなるか分からない人生を生きているのだ」ということを、身をもって教えていただいているように思います。
時間は有限である。
その事実に、生き方を考えさせられます。
「いただいた人生をどう生きるのか?」
「どこに向かって歩んでいくのか?」
これは、人生の最大のテーマですね。仏教においても、この問いは大きなテーマであり、人類がずっと考え続けてきたテーマでもあります。
今回の授業では、木で言えば根っこや幹の部分について考えていきます。
「いただいた人生をどう生きるのか?」
「どこに向かって歩んでいくのか?」
「あなたにとって本当に大切なものは何か?」
こうした問いは、実は真っ先に考えるべき問いです。なぜなら、人生の終着点が定まっていないままであれば、どこに向かって歩んでいいかが分からないからです。
人生の終着点が定まっていないとは、船旅でたとえるならば、行先が定まっっていないまま海を漂っている状態と言えます。
そして、人生の終着点が定まっていないまま仕事をしたり日々を過ごすということは、船が海を漂いながら、暑さ寒さや飢えをしのぐ方法を考えたり、どうやったら揺れが少なくなるかを考えたりすることに似ています。
しかし、行先が定まっていないままに漂っているので、とてもきついわけです。だから、我々は本質的に行先を求めるのですね。
暑さ寒さや飢えをしのぐこと、どうしたら揺れが少なくなるかを考えるといったことは、人生でいえば、どうやって稼ぎを得て、衣食住を整えるかということでしょう。
これは、生活していく上でとても重要なことですね。ですから、我々はどうやって稼ぎを得て、衣食住を整えるかという方法については、教育や仕事で学んでいきます。
しかし、ではその人生がどこに向かっているのかということは、中々学んだり考えたりする機会はないのですね。
人生の行先を考える上でもう一つ大切な視点があります。それは、「いただいたいのち」ということです。自分がここにいるのは、両親や祖父母をはじめ、多くの方の思いや願い、支えがあったからこそです。家庭環境は様々なので一様にはいえませんが、誰かの温もりや支えがなかったならば、我々はここまで育っていないでしょう。
こうした受けたご恩を抜きにして、自分がどう生きるかばかりを考えることは、土台や追い風のない人生を歩もうとすることに似ています。
たとえるならば、基礎や柱がしっかりとしていないまま家を建てるようなものであり、風のない中で凧をあげようとするようなものです。
「いただいた人生をどう生きるのか?」
「どこに向かって歩んでいくのか?」
とても大きな問いですが、これが木で言えば根っこや幹の部分になります。今回の授業では、この人生の根っこや幹の部分について、皆さんとご一緒に考えていきたいと思います。
そして、それを考える上で、「あなたにとって本当に大切なものは何か?」という問いについてまず考えていくことが良いと考えています。
本当に大切なものが分かると、それ自体が生きる意味になります。そして、本当に大切なものとは、案外近くにあるものです。
今日すぐに答えが見つからなくても構いません。まずは、一緒に一度考えてみましょう。
「あなたにとって本当に大切なものは何ですか?」
この人生の問いについて、「いつ亡くなるか分からないいのちを生きていること」「いただいたいのちであること」という視点を加えて、考えていきましょう。
◆グループワーク①
さて、改めて「あなたにとって本当に大切なものは何ですか?」
まずは、このことについて考えてみましょう。
ここから、グループワークをしていきます。アイスブレイク(準備運動)を兼ねて、4分間おこないたいと思います。3人一組になっていただいていると思いますので、問いについて対話してください。
問いは、
「あなたにとって本当に大切なものは何ですか?」
です。そして、それに付け加えて
「なぜ、それが大切なのですか?」
についても考えてみてください。
1人1分ずつくらいお話する時間をとっていただければと思います。
全員が話し終わったところは、出た意見に対して、感想をシェアしたり、なぜそう思うのかなど、少し深めてみてください。
答えは色々あると思いますので、人それぞれで構いません。人の意見を否定することなく、なぜそう思うのかということを意識しながら、耳を傾けてみてください。
では4分間、お願い致します。
◆意見のシェア
では、出た意見のシェアをお願いします。まとめる必要はないので、どんな意見が出たかなど教えていただけますか?
では、2クラスからそれぞれ一組ずつご発表いただきましょう。
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◇問い
「あなたにとって本当に大切なものは何ですか?」
「なぜそれが大切なのですか?」
◇出た意見
・いのちが大切。生きているからまずいのちは大切。
・全ての生き物にいのちがある。それがなくなると考えると、地球上の全ての生き物がなくなってしまうので、いのちが大切だと思う。
・家族も大切。幸せに関わっていると思う。
・時間は大切だと思う。生まれた境遇や見た目など、人は平等ではないと感じるが、時間は平等に与えられていると思う。他の人の時間を奪う行為は、いのちを粗末に扱う行為でもあると思う。自分の時間もそう。
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発表していただき、ありがとうございます。クラスをまたいで、皆の前で発表するのは勇気がいることだと思います。発表してくれた方に、拍手をしてあげてください。
色々な意見が出ましたね。いのち、家族、時間。どれも大切ですよね。発表では出てきていないけれど、他にも大切と思うものもあったと思います。一つというわけではないし、人によって違いもある。それでいいと思います。
まずは、一旦考えてみるということをおこないましたが、既にかなり深めて考えてくれていて凄いと思います。では、ここからさらに深めていきましょう。
◆いつ亡くなるか分からないいのちを生きている
ここから、時間の有限性の視点を加えて、深めていきたいと思います。「いつ亡くなるか分からないいのちを生きている」ということです。
冒頭にもいいましたが、人生はあっという間です。光陰矢の如しとも言いますが、年を追うごとに過ぎていく時間が早く感じられる。皆さんそうおっしゃいます。
人生100年時代というと、死が遠くに感じられるかもしれません。特に若いころはそうです。また、核家族が多く、医療機関や介護施設が発達した現代では、家での介護や家で亡くなっていくところを看取ることも少ない時代になりました。(これからは増えていくと考えられます)
だからこそ、死を間近に感じるという機会も少なくなっているのかもしれません。ただ、本当に死は遠くにあるのか?私にはそうは思えません。
ここから少し、私が僧侶として感じていることをお話させていただきます。私は僧侶として、多くの方の最後をお見送りする機会があります。
最後をお見送りしているというのは、お寺とご縁のある方が亡くなられたとのご一報をいただくと、駆けつけて、枕経(臨終勤行)、お通夜、ご葬儀などをお勤めすることです。
夏場や冬場の気候が厳しい時には、亡くなる方が多くなり、毎日のようにお通夜やご葬儀をお勤めすることもあります。
その際に、亡くなられたご様子や、亡くなられた方の思い、ご遺族の悲しみの声も伺います。勿論、これまでお寺で大変お世話になった方の最後をお見送りさせていただくことも多いです。
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以前、50代の男性の方が癌でお亡くなりになられました。
詳しくは言えませんが、10代の娘さんと息子さんを残したまま亡くなりました。亡くなった男性は、シングルファーザーとして、その2人の子を育てておられました。そんな中、癌になります。治療をするけれども、癌は進行していく。
「自分がいなくなってしまったら、子どもたちはどうやって生きていくのか」
「死んでも死にきれない」
「何としても生きなければ」
「生きるためならどんな治療もする」
そんな様々な思いや葛藤で胸の中がいっぱいだったことではないでしょうか。しかし、あっという間に癌が進行し、亡くなられました。
お通夜、ご葬儀の間、娘さん、息子さんは号泣しておられました。10代の息子さんが、遺族、親族を代表して、参列者の前に立ち、「故人同様、温かく見守っていただけますと幸いです」と涙ながらに語っている。
何とも言えませんでした。こうした現実があるわけですね。
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こういう言葉を聞いたことがあります。
「あなたが何気なく過ごした一日は、誰かがどうしても生きたかった一日かもしれない」
もっと生きたいという願いが届かないこともありますし、明日も当たり前にくると思って生きていても、明日が来ないこともあります。それが人生です。
様々な方の最後をお見送りし、ご遺族のお話を伺う中で思うことは、「いつ亡くなるか分からないいのちを生きている」ということです。
仏教には、「諸行無常」という言葉や「老少不定」という言葉があります。
「全てのものは移り変わっていく」というのが「諸行無常」、そして「年をめした方が先になくなり、若者が後になくなるとは限らない」というのが「老少不定」です。
交通事故で亡くなられた20代の方のご葬儀をお勤めしました。
事故で亡くなった幼稚園生のご葬儀をお勤めしました。
朝起きたら夫が亡くなっていた方。
お風呂の中で妻が亡くなっていた方。
様々です。
勿論、ご長寿の方もおられますが、それでも亡くなる時は突然の場合が多いものです。つくづく、我々は「いつ亡くなるかわからないいのちを生きている」ことを思わされます。我々自身もそう、大切な方もそうです。
一日をどう過ごすかは個人の自由です。
しかし、人はいずれ亡くなっていく、大切な人もいずれ亡くなっていく。そして、それはいつかは分からない。
そう思うと一日の過ごし方が変わってきはしませんか?
亡くなっていく人生を我々は生きています。あなたは何を大切にし、どのように生きますか?
◆いただいたいのち
そして、もう一つ。「いただいたいのち」ということ。
我々がここにいるのは当たり前ではないということです。両親や祖父母をはじめ、多くの思いや願い、支えがあったからこそ、この世にいのちをいただき、ここまで育ってきています。人は、温もりや支えがないと育ちません。
そして、人を一人育て上げるということは、どれだけ凄いことか。どれほどの思いや力が必要か。もちろん、大変さ以上に、愛しさや可愛さ、人としてのあり方を子育てを通して教えてもらうことはあります。
ですが、当たり前には人は育たないのですね。親をはじめ、おじいさん、おばあさん、その他にも、多くの方々の思いや願い、支えがあって、人は育っていきます。
自分が知らないだけで、既に多くのご恩を受けているのですね。かくいう私もワーワー泣いて、わがまま言って、色々なことをしてもらって育ってきたはずです。それが、いつの間にか物心がついたら、自分で色々なことを決めて、自分で人生を歩んでいるつもりになってくる。
成長段階においては、それは自立心でもありますが、それでも受けたご恩は変わらないのですね。
親の心子知らず。
自分が子を持ち、孫を持ち、初めて親の思いが分かったという方も多いです。いや、親が亡くなって初めて親のありがたみを知ったという方も多いです。
「60代70代になってようやく少しは分かるようになりました」
「親の思いやしてきたことを知ると、到底自分にはできないことだと思います」
「恩返しをしようと思った時には、親がいないといいますが、本当ですね」
このような方のお話から、私自身もすごく教えていただいています。「いただいたいのち」や「受けたご恩」のことを考えた時、改めてどのように思われるでしょうか?
「あなたにとって本当に大切なものは何でしょうか?」
「あなたを本当に思ってくれている人は誰ですか?」
「あなたが大切だと思う人は誰ですか?」
若い時ほど、遠くの大きなものに目がいきがちな我々ですが、案外身近なところに大切なものはあるのかもしれません。
◆グループワーク②
では、ここからもう一度グループワークをおこないましょう。先程と同じグループでおこなってください。時間は4分です。
問いは、
「改めて、あなたにとって本当に大切なものは何ですか?」
そして、
「そのためにあなたは何をしていきますか?」
について考えてみてください。
◆意見のシェア
では、出た意見のシェアをお願いします。先程とは違う2クラスから1組ずつご発表いただきましょう。どんな意見が出たのか教えてください。
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◇問い
「改めて、あなたにとって本当に大切なものは何ですか?」
「そのためにあなたは何をしていきますか?」
◇出た意見
・大切だと思うものについて、多くの意見が出ました。目標、夢中になれるもの、平和、音楽、おいしい食べ物、友達、自然、帰る場所、お金、資源、刺激、緊張と緩和、人を思うこと、残された時間、家族などの意見が出ました。
・僕は刺激が大切だと思います。自分とは意見が違う人がいると新しい意見を取り入れられるので、自分とは違うという刺激は大切にしたいです。そのために色々なことを経験したり、他人の意見を尊重する姿勢を大切にしたいです。
・自分を必要としてくれている人が大切だと思います。自分を必要としてくれている家族や友人に、日ごろから感謝の言葉を伝えたいです。
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素晴らしい意見をありがとうございます。大切なものについての多様な意見、そしてそれがなぜ大切なのか、大切なもののために何をしていくか。そこまで、考えてくださったことを感じました。
◆まとめ
今日は、「あなたにとって本当に大切なものは何ですか?」という問いについて考えていきました。
その中で、今回感じていただきたかったことは、「いつ亡くなるかわからないいのちを生きている」ということです。
いのち終えていく人生の中で、自分自身が亡くなっていくかもしれない、大切な人が亡くなっていくかもしれない、そういう人生を我々は生きているということです。
そうすると、大切だと思うものや、日々の生き方や考え方も変わってきませんか。今を大切に、そして大切なものを大切にして日々を生きたいと思いませんか。
そして、「いただいたいのち」であるということ。
私がここにいるのは、当たり前ではない。多くの方の思いや願い、支えがあったからこそ、今ここにいる。「いただいたいのち」や「受けたご恩」のことを考えた時に、我々が大切にすべきものは身近なところにあるのではないか。そうしたことも考えていきました。
「あなたを本当に思ってくれている人は誰ですか?」
「あなたが大切だと思う人は誰ですか?」
遠くの大きなものに手を伸ばすばかりでなく、身近なところに目を向けていく。身近なものも大切にしていく。そして、成長してしていく中で、身近と感じられる範囲が段々と大きくなっていきます。
今回は「あなたにとって本当に大切なものは何ですか?」という問いについて、ご一緒に考えさせていただきました。
是非、今日気付いたことをメモして、言葉にして残しておいてください。そして、思ったことを、行動にしてみましょう。
限られた時間の中で、お互いに今を大切にし、そして大切なものを大切にして生きていきましょう。そうした一つ一つの積み重ねが、きっと満たされた、かけがえのない人生になっていくことと思います。
今回の授業が、人生の大切なものについて考える機会になれば幸いです。
お一人お一人の人生が、幸せでありますように。またどこかでお会いできることを楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。
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最後までご覧いただきありがとうございます。
合掌
福岡県糟屋郡宇美町 信行寺(浄土真宗本願寺派)
神崎修生
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講演等のご依頼は、信行寺までお願い致します。
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