生物のゆりかご(SDGs14.2 その3)
生物の楽園が「干潟」ならば、生物のゆりかごというものもあります。その名は「藻場(もば)」。魚のたまごなどが産み付けられるためそのような通り名がついています。藻場というと藻が繁殖しているところ?という感じがしますが、海草が生えているところも藻場に含まれます。海藻と海草の違いは、わかめのように岩肌にくっついて海水から栄養を取るものを海藻と呼び、アマモのように海底に根をはり土(海底)の栄養分をとる海草と言います。
海藻にしろ海草にしろ、藻場は海の森とも言われており、海の中で光合成をおこない、CO₂の吸収を行い、水をきれいにしたりする機能を持っています。現在、人間が排出する炭素は年間94億トンと言われています。CO₂は水に溶けやすく、25億トンの炭素を海が吸収しているのです。さらに海に吸収されたうち、10億トンは藻場にいる海洋植物が光合成として使っています。CO₂削減という視点からも藻場は非常に重要な役回りをしています。ちなみに森林による炭素吸収量は19億トンと言われています。(※1)
そして藻場の植物は陸上の生活排水から流れてくる栄養分の窒素やリンも蓄える役目を持っています。栄養豊富な生活排水をそのまま海に流さず、吸収してくれることによって、プランクトンなどの異常発生をも押さえてくれるのです。(※2)
海水をきれいにしてくれて、栄養が豊富にあって、隠れる場所がいっぱいある。そんな藻場こそ、卵をふ化させるにはもってこい場所になります。様々な海の生物の産卵場所になっていたりします。そのため「生物のゆりかご」とも言われているのです。本当に海の生物にとっては無くてはならない存在です。
でもそんな藻場が年々減少しています。特にここ20年、藻場が急速に減っている状況となっている。
図1,第1回 環境・生態系保全活動支援制度検討会 藻場・干潟等の現状と問題点等(2008年5月 水産庁)より
直接的原因は判明していないのですが、最も大きな影響を与えているというのが、海の温度が上昇しているということ。とくに1990年以降はさらに温度が上がり、100年で1.16度上がっているのです。(※3)海草の代表格アマモに関しては海水温30度で枯れてしまうのですが、2021年7月11日でさえ、太平洋岸は27℃まで上がっています。これから夏本番を迎えるころには30℃近くまで上がると予測されています。問題は藻場が枯れてしまうばかりではなく、食い荒らされているのです。その張本人は高級食材のウニです。ウニはわかめやカジメなどの海藻類を好んで食べます。このウニが大繁殖して藻場を食い荒らしているのです。青々と茂っていた海の森、藻場を食い荒らして、海の砂漠化を引き起こしているのです。この海の砂漠化を「磯焼け」と言います。
でもこの磯焼け昔からある現象で、地元の漁師さんが食害としてウニを駆除して藻場を守り続けていました。もったいないと思うかもしれませんが、大繁殖したウニは我先に藻場の海藻を食べていきます。でも数が多いため、1匹にあたる海藻が減ってしまい、中身がスカスカなウニになってしまい、売り物になりません。ある程度へらさないと高級なウニにはなってくれません。でもここまでは特に問題ありません。林業の間伐や農業の間引きもそうやって製品としての木材や食料を作ってるのと変わりありません。地元の漁師さんたちがコツコツウニと海のバランスをとってきただけです。しかし問題はそのウニの量が半端じゃないということです。もともとウニは冬になれば冬眠します。その間藻類がしっかり育ってくれるのですが、ここでも問題になるのが地球温暖化です。年中温かい海水になってきているのでウニが冬眠せずに冬でもがつがつ海藻を食べて元気に子供を産んでくれるのです。そしてあっという間に海藻を食べつくして磯焼けを引き起こしてしまいます。さらに追い打ちなのが、漁業従事者の高齢化です。平均年齢で56.7歳。ある漁協では76歳が最年少なんてところもあるくらいです。そのような状況の中、日ごろの量に加えてウニの駆除のため潜り続ける。しかもとる量が何千個というレベル。かくしてウニの繁栄はとどまることを知らず磯焼けが進んでいくのです。
※1、経済産業省 ブルーカーボン
https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001394945.pdf
※2、海のDX 豊かすぎる海(SDGs 14.1 その5)
https://note.com/theruleofoceans/n/n9f6c63ef9843?magazine_key=m59b7fd6021e3
※3、気象庁 海面水温の長期変化傾向(日本近海)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/shindan/a_1/japan_warm/japan_warm.html