今までで観た、4時間以上の長い映画について①
1,イントロダクション
映画というものは、90分くらいが適切な時間だと、そういうニュアンスを含めて、ジャン=リュック・ゴダールは言った。確かにゴダールは、ほとんどの作品が90分前後の作品が多い。『気狂いピエロ』は110分、『男性・女性』は103分と、やや長いが、それ以外は90分前後、或いは、それ以下で抑えられている。確かに映画は、長すぎるとダレるし、よくわからなくなる。退屈極まりなかったら、不快な気持ちになるかもしれない。しかし、長い映画でも名作は多いし、どうも幸福な気持ちになる。
今回は、今まで観た4時間程度、或いは、それ以上の映画を紹介したい。中には、連続ドラマのようなものもある。この記事を読んで、「あ!見てみたいかも」と思って頂けたら、この上ない喜びを感じられる。それではいきましょう。
2, 4時間以上の映画
今回は、3作品紹介したいと思います。元々、一気に紹介しようと思ったのですが、あまりの紹介したいという欲望が大きすぎて、2,3回くらいに分けた方が良いと思い、分割して紹介いたします。
2-1,クシシュトフ・キェシロフスキ『デカローグ』
製作年:1989年 製作国:ポーランド 上映時間:572分(9時間32分)
まず一つ目は、『デカローグ』です。
ポーランド映画の巨匠、クシシュトフ・キェシロフスキ監督の作品です。キェシロフスキは、『トリコロール』の三部作が割と知名度がありますが、この『デカローグ』も素晴らしい作品です。所謂、日本の連続ドラマみたいな感じなのですが、それよりも重厚な短編集を読んでいるかのような気持ちになります。聖書の十戒をモチーフにしたこの作品は、毎回ドラマティックな出来事に振り回されたり、心を響かされたりします。ある人物が別の夫の子どもを妊娠してしまったり、クリスマスイブにとある事件が起きたり、と様々な展開があり、「そう来るか!」と思わされます。映像も素晴らしいのですが、その脚本や話の展開の複雑な感じも考えさせられます。全てが、「ある〇〇に関する物語」という題名(日本語訳)で統一されてます。
各話で何処か接点があったり、登場人物も再度出て来たりするので、そこも注目です。
ちなみに、自分が好きな話は、第十話の「ある希望に関する物語」です。平凡な会社員の兄とバンドマンの弟の話です。亡くなった父親が残した切手のコレクションを巡る話になります。ネタバレしてしまうので、あまり詳しくは書けないのですが、やはり兄弟って良いなあ、終わり良ければ全て良しだな、と思える作品です。
時々、毎話に出現する(第七話と第十話には出てこない)名前のない謎の男が何処にいるか、そちらも注目してみて下さい。
ちなみに、第5話の「ある殺人に関する物語」と第6話の「ある愛に関する物語」は、それぞれ『殺人に関する短いフィルム』と『愛に関する短いフィルム』として再構築され、劇場で公開しています。違いを見つけたり、比較しながら見るのも面白いかもしれません。
2-2,ジャン=リュック・ゴダール『映画史』
製作年:1988~1998年 製作国:フランス 上映時間:268分(全8章) (4時間28分)
出演者:ジャン=リュック・ゴダール、ジュリー・デルピー、ジュリエット・ビノシュ、サビーヌ・アゼマなど
2つ目は、ジャン=リュック・ゴダール監督がテレビ用に制作したあらゆる「映画」についての映画です。
この作品は、後期ゴダールの真骨頂である引用の手法が多用されていて、最終的には自分の映画も組み込み、「映画とは何か」を自分だけでなく、観客にも問い続ける映画です。ゴダールが制作・編纂した「映画の辞書」のようなものになってますが、映画の技法(モンタージュやアイリス・イン/アウトなど)で、支離滅裂になっている所があります。ただこれが良い味を出しているのかもしれません。生きている者もいれば、死んでいる者もいて、その作品や人物が息を吹き返し、再生しているような気がします。
以前もゴダールについての記事を書いたので、そちらも読んでいただけると幸いです。
2-3,ヴィム・ヴェンダース『夢の涯てまでも【ディレクターズカット版】』
製作年:1991年 製作国:日本、アメリカ、ドイツ、フランス、オーストラリア
上映時間:287分 (4時間47分)
出演者:ウィリアム・ハート、ソルヴェーグ・ドマルタン、サム・ニール、ジャンヌ・モロー
3作目は、ニュー・ジャーマン・シネマの一人、ヴィム・ヴェンダース監督の『夢の涯てまでも』を紹介します。
1991年に公開されたものですが、舞台は1999年の世界となっております。近未来SFの要素を交えながら、ロードムービーとラブストーリーを混ぜ合わせたような名作となっております。イタリア、ポルトガル、ドイツ、ロシア、中国、日本、アメリカ、オーストラリアと様々な場所を行きます。
核爆発、テレビ電話、宇宙と地球のコネクトなど、今思うと予見してたような要素が多くて驚きました。
途中、ロシア(当時はソビエト連邦なのかもしれない)の場面があり、そこの泊まったホテルが「ウクライナ」という名前で30年前の作品なのに、タイムリーだな、と思ってビックリしました。
東京が舞台になっている箇所もあり、待ち合わせ場所が青山の「こどもの城」で登場人物が待ち合わせをしていたり、新宿のカプセルホテルで銃撃戦が起きたり、その近くのパチンコ店でトレヴァーが失明したり、と不思議な感じが映し出されています。
箱根に向かう場面があり、ヴェンダース監督が以前から敬愛する小津安二郎作品に出ていた笠智衆も出てきます。よく笠智衆の奥さんにあたる役をやっていた三宅邦子と一緒に出演してます。笠智衆の本を昔読んだのですが、「小津作品に出ていたから監督がオファーしたと思った。不思議な縁だと思うので引き受けた」との旨が書いていたので、良い場面だなあ、と思いました。ちなみにカプセルホテルの場面で、竹中直人氏も出てきており、良い味を出してます。
大きいスクリーンで見たら、また音響とスクリーン、違った味わいが楽しめるのかな、と思いました。
最近、配信サイトで鑑賞したのですが、その2〜3日後にトレヴァー役のウィリアム・ハートの訃報が入ってきて、驚きました。御冥福をお祈りします。
3,終わりに
いかがだったでしょうか。実はもっと紹介したい映画があったりします。
それはまた次回以降にしたいと思います。4時間以上の映画だと、一日の1/6をそれにあてるので、なかなか勇気がいると思います。でも見終わった後の快楽と疲労が入り混じった感覚に浸れるので、自分は良いなあ、と思っています。長い映画、一度でも良いので、チャレンジしてみてください。
また書きたいと思います。
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