オンライン学習サービスが、ユーザーの行動を後押しするためにトライしていること
GLOBIS 学び放題でプロダクトマネージャーをやっている神崎です。
この記事で伝えたいこと
まずはこれから何度も出てくる「行動」という言葉が指すものについてお伝えをしておきます。
前提として、私達が目指すゴールは、単にプロダクトを使い続けてもらうことではなく「ユーザーが獲得したスキルを仕事で発揮して、活躍し、評価される」ことです。
そのためには、プロダクト外での第一歩(行動)を後押しすることが必要になります。
この記事では、「プロダクト外の行動につなげる」というテーマで
・なぜ行動を大事にするのか?
・行動できるとは?
・行動を後押しするための具体的な施策
の3つと、まとめという形で話していきたいと思います。
また、この記事の内容はpmconf2022での登壇内容の書き起こしです。
なぜ行動を大事にするのか?
まずは、私達がなぜ行動を大事にするのか、2つの理由をお伝えしたいと思います。
1. 事業のミッションと会社のビジョン
GLOBIS 学び放題という事業では「学ぶ楽しさを広げ、新たな一歩を後押しする」というミッションを掲げています。
2022年度から新たに制定したミッションづくりに私自身の考え方も盛り込ませてもらいましたが、このミッションは2つのパートに分解することができます。
・学ぶこと自体を楽しいものに変え、多くの人に広げていく前半部分
・学びをきっかけに仕事や人生で「新しい挑戦」に踏み出すという意味をこめた後半部分
です。
これをグロービスのビジョンである「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会の創造と変革を行う」と紐付けて整理してみます。
私は、GLOBIS 学び放題が提供する「学習→行動→成果→成長」というサイクルを通じて、学習者が個の力や影響力を高めていくことで、右上のグロービスという会社のビジョンの実現に繋がっていくと考えています。
2. 事業成長のために
事業成長における指標と行動に関する指標の位置づけについても、書いておきたいと思います。
2-a. 社会人の学びは優先度が下がりがち
まず前提として、試験や資格取得などのようなものを除いて、明確なゴールが置きづらい社会人の学習はつらい、続かないという問題があります。
ユーザーが「学習せねばならない危機感」を感じ、利用を開始するケースは多いですが、その大半は、1ヶ月程度が経過すると離脱していきます。
離脱理由の多くが「学習時間が確保できない」「仕事が忙しくなった」といったものです。
これは、提供しているコンテンツ以外の部分で、プロダクトが対処しなければいけない問題だと思っています。
2-b. 学びの質を高め、量を増やすこと優先的に考えていた
2点目です。以前のGLOBIS 学び放題のミッションはシンプルに「学ぶ楽しさを広げる」といったものであり、プロダクト開発もその方針に沿って進めていました。
質にかかわるものだと、ARCSモデルのような学習設計や研修設計の考え方にそって「もっと学びたい」と思ってもらえるようなコンテンツ・体験づくり。量にかかわるものだと、ビジネスの基礎知識以外にも、話題のニュースやトレンドを扱うなどコンテンツの幅を広げること。などを優先していました。
しかし、これだけでは継続率(ユーザーが学びを継続したいと感じ、契約を更新する割合)は大きくは変動しませんでした。
2-c. 改めてリサーチを実施してわかったこと
ここで改めて、リサーチを実施しました。
図示してみると単純なのですが、定量分析によりわかったことは
・契約を継続するユーザーは、契約期間終了の間際まで利用がある
・契約期間終了の間際まで利用があるユーザーは、(ある時期に)動画を最後まで見ている
ということでした。
定量分析の次は、判明した指標とユーザーの状態を紐付けるために、これらの指標が良い「理想のユーザー」と、改善対象となる「一般的なユーザー」を対象にインタビューを実施しました。
2つのセグメントのユーザーの行動や考え方の違いから「一般的なユーザー」の何を満たせば理想の状態に近づけられるのか?の仮説をつくっていきます。
インタビュー結果は、 CJM、価値マップなどを用いて分析・整理しました。
分析を通じてリーセンシーや視聴完了率の改善のためにはユーザーに学んだことの「実務活用」が起こること。そのための「実務活用につながる準備」が重要ということが見えてきました。
一部簡略化していますが、定量/定性調査を通じて整理したユーザーの状態とKPIの関係性はこのようになりました。
人アイコンがついているものが「プロダクト外での行動」であり、それにつながるのが行動を促すための提供価値です。
事業成長、継続率を改善するという観点でもその重要性がわかると思います。
ここまでのまとめ
なぜ私達が行動を大事にするのか?ということを書いてきました。
1つめは、事業のミッションを達成し、会社のビジョン実現に近づくため。
2つめは、以下のことを通じて、行動が事業を成長させるための重要な因子であることがわかったため、です。
・社会人の学びは優先度が下がりがちで継続しづらい
・学びそのものの質や量を改善するだけでは、学習継続にはつながらない
・「実務活用に向けた準備ができる」という価値を提供し、実務活用というプロダクト外での行動を後押しすることが重要そう
行動できるとは?
次は行動できるということを私達がどのように考えているか?です。
まずは、どのように行動を計測しているかについて書いていきます。
行動を計測する
例えば、人材育成の分野だと行動 + 成果がパフォーマンスとして評価されると思います。
ですが、toC向けのプロダクト開発においては、ユーザーの成果やパフォーマンスまで計測することは現時点では難しいと感じています。
そのため、プロダクトを利用することがどれだけプロダクト外の行動に寄与したか?までを計測することにしています。
計測は、ユーザーへの定期的なアンケートを実施することで行っています。
具体的には「GLOBIS 学び放題で学んだことで、新たな行動を踏み出せたか?」「その行動は、GLOBIS 学び放題内の、どのカテゴリに最も近いか?」といった聞き方をしています。
行動できたユーザーの、行動しやすい領域や行動につながる学び方を把握し、他のユーザーに広げていくことも、プロダクト開発がトライしていることの1つになります。
MVAと検証したい行動
次にMVAというものと私達が検証したい行動についてです。
書籍「行動を変えるデザイン」には、ユーザーの行動の根本となる最も小さい行動、Minimum Viable Actionを見つけろと書かれています。
私たちのプロダクトにおけるMVAはプロダクト外での行動のための必須条件となる必要があります。
では、GLOBIS 学び放題における実際のMVAはどんなものか
最終的に後押ししたいプロダクト外の行動に向けて考えていきます。
プロダクト内で必要な実用最小限の行動は左端の3つになります。
これらの行動により、真ん中の実務活用への準備が達成され、右端の実務での活用という行動につながっていくという仮説です。
ここまでの仮説は、エクストリームユーザーへのインタビューおよびインサイトの抽出、そこからのHowMightWeを用いたアイディエーションによって導き出しました。
このあたりの手法は「デザインリサーチの教科書」という書籍が大変参考になります。
行動を後押しするための具体的な施策
次に行動を後押しするための具体的な施策について見ていきます。
1. 「実務活用がしやすい動画に出会う」ための、人によるサポート
背景
学ぶ理由や目的は、ユーザーごとに異なり、具体的なものから抽象的なものまで様々。
何をしたか
「メンター」がユーザーにヒアリングをして、その人に合った動画をレコメンド。グロービスの講師が監修役として動画を選定。
結果
メンターとの会話が成立し、レコメンドを受けたユーザーは、ほぼ100%の割合でその動画視聴完了した。
現在チャットボットでも同じく価値提供ができるか?を検証中。
2. 「学んだ内容を自らの実務に用いて考える」ための、アクションリスト
背景
既存の学習体験だけでは実務活用にはつながりづらいということがわかっていたので、より効果的なアイデアを求めていた。
何をしたか
動画を見た直後に、簡単なアクションリストを作成できる。その際、他のユーザーが取ったアクションを参考してもらうことで、学んだことを実務でどう用いるか?を考えるハードルを下げる。
結果
コンセプト検証を経て、β版として機能リリース。定量面での効果検証へ。
3. 「直接的な利害関係がない人達と学びを共有する」ための、スタディグループ
背景
学んだことを仕事で使いづらい大きな理由が「自信が持てないから」。会社では上司・先輩・できる同僚といった他の人からの指摘を恐れて使えない。
何をしたか
GLOBIS 学び放題を通じてつながった、利害関係のない人達と一緒に学び、アウトプットに対してフィードバックしあえる関係性を作ってもらう。
結果
一緒に学ぶ熱量を持続させるために、全員が共感ができるグループ共通の目的をつくれるか?が成功のカギ。
まとめ
最後に、ユーザーの行動を後押しするためのトライを通じて得られた、学びと気づきについてのまとめで、記事を締めたいと思います。
行動は私達のビジョン・ミッションの達成と事業成長、両方のために重要
指標の設計やビジョン・ミッション策定のプロセスは試行錯誤の連続だが、本質的なものを置けるまで粘る甲斐がある。
行動を後押しするためのストーリーをつくり、その仮説をMVAで検証する
施策がKPIに寄与したか?の計測も大事だが、実際にユーザーがプロダクト外で行動できているか?も把握する。
誰かの人生の一部になれることの喜び
プロダクト外の行動を後押しするための取り組みは、困難も多い。が、その後のユーザーの成功ストーリーなどを聞くと、人生に深く関われたような気がして、とてもやりがいがある!
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