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古本市で購入した怪しげな本―『幽界の神秘を語る』松井桂陰

 先日古本市で書名がおもしろそうだったので、『幽界の神秘を語る』松井桂陰編(桂陰会, 1939年)という本を購入した。以下に表紙、目次、奥付の写真を紹介したい。

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奥付の松井慶一はおそらく松井桂陰の本名であろう。この本は非売品であるようだが、松井によって以下のように出版経緯が語られている。

本書は昭和十四年の四月九日芝公園地内南洲庵の一室に於て、木下茂、杉山忠太郎氏等の主催で春日興恩、宮崎祐禎、岡田建文、倉田観齋、近藤晴風、同乙女 高木智廣、栗原花子、平野義信、松井桂陰の各其の方面の研究家・術者が一堂に会して開いた座談会の速記録中からの摘出である。(中略)座談会開催と本書出版に要せる費用は主催者側に於て負担せる所少なくない。しかし其の目的は営利に非ず、団体結成の目的に非ず、栄誉聞達に非ず、優越感、征服感に非ず、減私奉公によって国家に奉仕せんとする蒼民の赤き心の結晶である。従って将来の刊行物は一切を挙げて有縁熱漢の士に無償にて交付し、各自の心に尊き大和魂の殿堂を造らんとするものである。(後略)(筆者により一部を現代仮名遣いにあらためた。)

この本は座談会の内容の一部のようである。この本は心霊主義に関連する本であり、私がこの領域を知らないだけなのかもしれないが、座談会に出席した人物を少し調べてみたがほとんど分からなかった。私が唯一知っている人物は柳田国男とも交流のあった岡田建文という人物であり、この人物に関しては以下の記事で紹介したことがある。

 編集者である松井桂陰に関しては、普明神社を1952年に創設した人物であるようだ。国会図書館で書誌データを調べてみると、心霊主義や現在で言うところのスピリチュアル関連の文章を投稿したり、本を出版したりしている。他の人物に関してだが、倉田観齋は、この本によるとアフリカを探検したこともあるようなのでもっと情報があっても良さそうだが、読売新聞のデータベースであるヨミダスを調べても倉田に関する記事が見つからなかった。

 神保町のオタさんの以下の記事によると、この本が出版された時代、「偽史」的な言説や心霊主義も国家主義に結び付けられていたようである。この本もその一環であったのだろうか。「偽史」や心霊主義は柳田にも関連する(注1)ところなので、この本に登場する人物も含めて引き続き調べたい。

(注1)例えば、『怪談前後 柳田民俗学と自然主義』大塚英志(角川選書, 2007年)、『遠野物語の周辺』水野葉舟著、横山茂雄編(国書刊行会, 2001年)が柳田と心霊主義の関係性に関して詳しい。前者に関しては、以下の記事で紹介したことがある。




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